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『現代インド経済』 [インド]

現代インド経済―発展の淵源・軌跡・展望―

現代インド経済―発展の淵源・軌跡・展望―

  • 作者: 柳澤 悠
  • 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
  • 発売日: 2014/02/12
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
下からの経済発展の衝撃。インド経済の歴史的な成長を準備したものは、経済自由化でもIT産業でもない。植民地期の胎動から輸入代替工業化、「緑の革命」の再評価も視野に、今日の躍動の真の原動力を掴み出す。圧倒的な厚みをもつ下層・インフォーマル部門からの成長プロセスの全貌を捉え、インド経済の見方を一新する決定版。

最近、インドネタを取り上げることがめっきり少なくなった。最後に扱ったのはいつかと調べてみたら、なんと昨年10月だった。さらに振り返れば、インドの発展を扱った専門書・研究論文を紹介したのは2013年11月にまで遡らなければいけない。僕が人事異動で会社の中でも最も忙しいと言われる部署に異動になった直後のことだが、それ以降、インドとの関わりがほぼ完全に切れてしまった状態だ。その間に、インドでは政権交代も起こり、ここ2年ほどの間にインドをテーマにした書籍は相当出ているにも関わらず、この体たらくだ。

Facebookで友人になっているインド人からは、「次はいつ来るのだ」と事あるごとに訊かれる。ご丁寧に、「最近、こんなレポートを書いたよ」と向こうから情報提供してくれる友人もいる。でも、以前ネットワーク論の本の紹介の中でも述べた通り、この手のつながりは時間が経てば経つほど劣化するものである。Facebookで近況を相互に教え合える状況にあるならともかく、SNSをやっていない友人も多いので、どうやったらつながりを維持できるのか、本当に悩ましい。今の部署で仕事していて、インドに行く機会などほとんどあり得ない。だから、インドをテーマにした書籍は、読むのが空しくなる。そうして遠のくから、次に読もうと思った時にもなかなか頭に入って来ないという問題もある。

本書が出たのは2014年2月。僕が2013年11月に最後にインドをテーマにして読んだという学術論文は柳沢悠先生の著作群だったので、当然僕は柳沢先生の新著は早い段階から知っていて、いずれ読みたいと思っていた。しかも、この本は2014年度の国際開発研究大来賞を受賞している。いつか読まねばと思っていたけれど、近所の図書館にはなかなか入庫せず、なかなか読むチャンスが得られなかった。

著者が他書への執筆協力等で展開してきた持論をまとめ1冊の本にしたもの。「現代インド経済」と言いつつも、その考察は植民地時代からはじまり、インド独立から1990年代の経済自由化までの期間、そして経済自由化以降という区分で数章が収録されている。しかも、著者のフィールドは南部のタミル・ナドゥ州なので、僕自身も土地勘があり、書かれていることの多くには共感を覚える。特に、経済自由化以降の記述の中で言及されている「農村-都市インフォーマル部門経済生活圏」という考え方は、タミル・ナドゥだけではなく、デリーとその周辺のパンジャブ、ウッタルカンド、ウッタルプラデシュ等の州とのつながり、頻繁な人の移動を見ていると、同じことが北インドでも言えるのではないかと感じたりもする。うちで雇っていた運転手や警備員、お手伝いさんも、わりと頻繁に故郷の村に帰っていたように思う。デリーのタクシーの運転手の中には、普段はタクシーの運ちゃんでも、故郷に帰ると農地があって、農繁期は農作業をやるために帰省しているというシーク教徒がかなり多いと聞いたことがある。

こうした現象は、人の移動が農村から都市に向かって不可逆的かつ永久的に行われるわけではなく、1年のうちある時期は都市、残りの時期は農村といった具合に、頻繁に移動が行われていて都市と農村がつながっているという姿を示すもので、初めて耳にした時には目からウロコだった。

本書のキモはこのあたりの分析枠組みにあるように思うのだが、詳述は控える。まあ、またインドの開発について集中的に考えるような機会が訪れるようであれば、是非座右に置いて何度も読んで理解を深めたい本の1つである。そんな時が早く訪れて欲しいものだが…。

今回は理解に難儀しながらも取りあえず飛ばし読みしてアリバイは作ったものの、著者の柳沢先生は今年4月にお亡くなりになってしまった。僕が本格的にインド研究にデビューできていれば、胸を張ってご挨拶してご指導を仰ぎたいと思っていたインド経済研究の泰斗であるが、もうそうすることもかなわない。人的ネットワークは時が経てば劣化するものだが、つながる前にその機会が失われてしまったという空しさはたまらない。故人のご冥福をお祈りしたいと思う。

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