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『熱風の虎』 [読書日記]

熱風の虎1 グループ・ゼロ

熱風の虎1 グループ・ゼロ

  • 出版社/メーカー: グループ・ゼロ
  • メディア: Kindle版
内容紹介
マシンを造るプロとしての限界に挑戦したい」。松平オートバイ工業社長・松平春信は、世界のモーター界のトップに躍り出るべく、レーシングチームを立ち上げる。集められたのは新進気鋭の70名のライダー。しかしメンバーになれるのはたったの3名! そのための選抜テストは、まさに「人殺し」といえる程に怖ろしいものだった! そしてライダーの一人が即死する大事故が起きてしまうのだが……松平社長はテストの続行を命令する! ──スピードを追求する男たちの極限状態を描く衝撃的な作品。

村上もとかさんと言えば、僕らの世代にとっての最大のヒット作品は『六三四の剣』、最近ならテレビドラマ化された『JIN-仁』の作者であるが、『六三四の剣』を少年サンデーで連載開始されたのは僕が高校生の頃で、それ以前は1976年に初めてF1日本グランプリが開催されたのに便乗する形で、『赤いペガサス』に代表されるカーレースものを書いておられた。調べてみたら『赤いペガサス』が少年サンデーで連載開始されたのは1977年ということだから、まさに僕らがスーパーカーブームからカーレースにハマって、子どもなのにAUTOSPORTとかを読んでいた時代だ。当時から既にメカの描写が細かく精密で、それが次の剣道作品にも生きてきていたと思う。

その村上もとかさんがカーレースものの前に書いておられたのが、少年ジャンプで連載された『熱風の虎』だった。僕が少年ジャンプを読み始めたのは1975年、中1の夏頃だったが、そのきっかけは池沢さとしさんの『サーキットの狼』で、既に同級生の一部には公道グランプリ時代からの熱烈なファンがいたけれど、僕自身が読み始めたのは流石島レースの直前ぐらいからである。そして、その頃同じ少年ジャンプで連載していたのが四輪ならぬ二輪のレースを扱った『熱風の虎』だった。

タイミング的に『サーキットの狼』で当てた少年ジャンプ編集部がバイクもので二匹目のドジョウを狙ったような作品だ。タイトルからして「狼」に対する「虎」で、明らかに『サーキットの狼』を意識している(但し、この作品の序盤は『虎のレーサー』という別のタイトルで連載されていたらしい)。僕が少年ジャンプを購読し始めた頃は既にこのシリーズの第3巻、主人公の大番虎一がジョー鳥飼中佐からの指令でサイドカーレース挑戦に向けたトレーニングを積んでいた時期で、そもそも『人造人間キカイダー』でその存在自体は認知していたサイドカーが、レースで使用されること、コーナリングの際のマシン操作が極めて難しいことなどは全然知らず、漫画を見て度肝を抜かれた。

だから、『熱風の虎』は『サーキットの狼』の二番煎じというわけでは必ずしもない。特に、レース運営に関わる人々、ピットで作業に携わるメカニック、チームを運営するマネージャー、レースのオーガナイザーといった人々の描写がそれなりに素晴らしく、あまりメカに重点を置いていなかった『サーキットの狼』とは大きな違いがあった。このあたりの描写は、次の『赤いペガサス』にもつながっていくのだろう。でも、村上作品も初期の段階では描画がかなり粗く、勢いで描いていたような印象は拭えない。

今こうしてKindleで5巻を通しで読んでみて驚いたのは、この作品はけっこうなご都合主義の作品だということだ。登場人物の中でも、特に松平オートバイ工業の松平春信会長や松平レーシングチームの大番虎吉監督の発言が実にコロコロ変わるし、初期に登場した氷巻明彦の妹など、何のために登場させたのか全くわけがわからない。まるで明日のことを考えずに今の描写をいかに劇的にするかばかりを考えて描かれた感じで、それを全体を通して見ると、いろんなところに仕込んだ伏線が刈り取られてない。作品の終盤になると松平会長もジョー鳥飼中佐も登場しなくなってしまい、虎吉監督は妙に老成してしまい、氷巻の妹は急に大人になってしまう(まるで『あしたのジョー』の白木葉子のようだ)。ついでに言えば、第3巻でジョー鳥飼が虎一とタイガーを拉致して米軍基地に連れ込む際の描写は、鳥飼本人は「芝居をうった」と言うが、逃げようとしたタイガーに実弾を発射して負傷を負わせており、何が「芝居」だと突っ込みたくなった(笑)。

当時の少年ジャンプは毎回読者アンケートで収録作品の支持率をチェックしていて、人気が低迷するとすぐに連載を打ち切ったりしていたから、明日をも知れぬ連載に、各作家とも今目の前の回をいかにドラマチックにするかに腐心していたことだろう。その弊害が、このような形で出ているとも言えるかもしれない。まるで作者本人が、こんなに連載が続くとは思っていなかったふしがある。

最近は理知的な作品が多い村上もとかさんが、40年近く前にはこんなに荒々しい、若々しい作品を描いていた時代があったのだというのがわかって興味深い。それに、僕は中3の頃、大学ノートを使ってカーレースの漫画を描いていた時期があり、この作品の幾つかのアングルは『熱風の虎』を描画を参考にしていたらしいことを今さらながらに思い出した。

作品中最後のレースで虎一の宿命のライバル・氷巻が乗っていた「バンビーン」は、『サーキットの狼』に登場する「ランボルギーニ・カウンタック」と並び、当時の僕らが憧れたスーパーマシンだった。これも『熱風の虎』を読み直してみて思い出した。



タグ:村上もとか
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