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『スマートシティはどうつくる?』 [仕事の小ネタ]

スマートシティはどうつくる? (NSRI選書)

スマートシティはどうつくる? (NSRI選書)

  • 作者: 山村真司
  • 出版社/メーカー: 工作舎
  • 発売日: 2015/01/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
都市の脆弱性が取り沙汰される昨今、ますます耳にするようになってきた「スマートシティ」というキーワード。それは情報通信、エネルギー、水資源、交通など、私たちのくらしを構成するすべての機能がネットワーク化され、循環する都市のこと。産業が活気にあふれ、環境負荷が軽減し、人々が心地よくくらすことのできるまちを目指し、世界の都市がスマート化に取り組んでいる。日建グループのシンクタンク、(株)日建設計総合研究所NSRIの選書シリーズ第2弾は、都市開発のエキスパートによる、次世代のまちづくりへの入門書。

「都市」をテーマにした僕の読書はまだまだ続いている。

コンパクトシティ、スマートシティ、環境未来都市、スマートコミュニティ―――いろんな言葉が出てきたが、だいたいイメージとしては同じようなものを指向しているような気はする。でも、これまで読んできた本は、未来の都市はこうなるというイメージは書かれているけれど、今ある都市がどうやったらそういう姿に変わっていくのかまでは書かれていなかった。

これから2030年にかけて、都市と農村の人口比率は大きく変化し、2030年頃には世界人口の2/3は都市に住むようになると言われている。とすれば、今ある都市は郊外に向かってさらに都市化が進んでいくだろう。そうした大きな動きの中で、理想の都市はどこに作られるのだろうか、それがわからない。世界のトレンドが大きく都市化に向かうからといって、日本もそうだとは限らない。既に人口は減少に転じている日本で、これ以上郊外に向かって都市化が進むとは思えない。むしろ都心回帰が進んでいるように思える。そうした中であれば、理想の都市は郊外ではなく、今ある都市の中でのある区画の再開発のような姿になるのではないかと想像はできる。

そういう、ひょっとしたら当たり前だったことが、今回ご紹介する本では気付かされたのである。途上国であれば、これまで荒れ地や更地だったところにいきなり近未来型の都市を造ってしまうという思い切った発想もあり得るらしい(都市開発型、ニュービルド)。逆に、日本の場合は前述の通りの再開発ということになる(既存都市改修型、レトロフィット)。ただ、驚いたことに、本書によれば、世の中スマートシティの取組みは世界各地で行われている割に、レトロフィット型でうまくいっているケースが実はあまりないのだという。

また、本書を読んでみると、何をどこまでやったら「スマートシティ」なのかという定義もはっきりしていないのではないかと気になった。スマートシティにはいろいろな要素が含まれるが、インフラだけでいいのか、いいとしてもどのインフラをやればいいのか、街区の面積はどの程度が想定されるのか等、世の中の取組みはケースバイケースで随分内容が違っているのだなというのに気付かされた。勿論、都市はそれぞれ性格が異なるので、ワンサイズで全ての都市に合うようなメニューはないのかもしれないが。

スマートシティであるにも関わらず、個別の技術や特定の分野を対象にしたスマート化ばかりが人目を引きつけ、本来の「シティ=まち」の視点からの議論が少ないように感じられる―――というのが本書の著者の問題意識だったらしい。僕もこれまでに読んでブログでご紹介してきた書籍のほとんどが、未来の都市に求められる機能を、電力、道路、公共交通、上水道、廃棄物処理等のインフラと、その相互の連携を強く意識した都市計画の策定といったところにつなげて論じられている。発想が供給側主導(サプライ・ドリブン)なのである。従って、都市に住む住民の視点があまり強く表出しない内容の書籍が多かった。

本書は、そういうサプライ・ドリブンを打破したいという意図で書かれたものだということだが、実際に読んでみると、紹介された取組み事例はやはり個別技術やセクター別のものが多く、サプライドリブンなイメージは十分には払拭されなかった。勿論、これまで読んだ同種の他の本よりはまだましだが。

前述のスマートシティに求められる機能の規格化の取組みとして、CASBEE都市やCASBEE街区にも言及している。仕事上これらの動きには僕自身も少しだけ関わっているけれど、「他国においてもBREEAM Communities(英国)、LEED for Neighborhood Development(米国)、Green Star Communities(豪州)など、それぞれ独自の目的に応じた都市・地域の評価ツールの開発が進められています。しかしながら、多くは街区レベルでの評価となっており、現時点で都市レベルで環境性能を総合的に評価するシステムとしては、CASBEE都市が唯一の存在となっています」(p.54)という客観的な記述があることには好感が持てた。

一方、多分この本自体がコンサルタントがどこかでの講義かプレゼン用に作成したものを原稿化しているからだと思うが、挿入されている図表が多いわりには本文での図表の開設があまり丁寧でなく、折角挿入されているのに断片的で、必ずしも理解促進に貢献していると思えないところが残念だ。

最後に、今後の向学のために参考になりそうな記述(pp.115-116)をそのままメモっておく。都市の複合・コンパクト化のメリットに関する記述だ。

1)公共交通の交通手段分担率を高めることにより、交通分野でのCO2排出量を削減。
ひとりが移動する際のCO2排出量を比較すると、鉄道・バス等の公共交通を利用した場合は自家用車の1/3~1/9、低炭素化を実現するという点からは公共交通利用が圧倒的に有利。

2)都市機能をコンパクトに集積し、ガソリン使用量を削減、資源節約に寄与する。
人口密度が高いほど、人口1人当たりの自家用車利用に伴うガソリン使用量は少なくなる(中略)。すなわち都市機能を集積することは、低炭素化・省資源化に大きく貢献する。

3)公共交通を主体とすることで、都市空間はより快適かつ歩行者に優しい空間となる。
自家用車の利用を抑制することに伴い、公共交通駅から施設間を歩いて移動することとなり、都心部は歩行者にやさしい環境となる。

4)公共交通を主体とすることで、モビリティに関する所得の影響が緩和され、社会的公正に貢献する。

5)都市機能の高密度かつミクストユースにより省エネルギーが図られる。
さまざまな都市機能を高密度に複合することにより、異なる機能間でエネルギー消費量のピーク平準化を図ることができる。地域冷暖房やコジェネレーションシステム(CGS)等の効率化、ひいてはエリア全体の省エネルギーにつながる。

6)都市機能のコンパクト化により生産性が向上。
さまざまな業態のオフィスや研究機関、カフェ等が過度に複合した空間においては、クリエイティブなアイデアが生まれやすく、企業としてイノベーションの推進に寄与すると期待される。

7)都市をコンパクトにすることにより、高齢化・人口減少に対応できる。
高齢者にとっては、長距離の移動が困難な場合も多く、身近な生活圏内で必要な機能が揃っていることが望ましい。住宅・病院・行政施設・コンビニエンスストアなどが徒歩圏に集積することは高齢者のコミュニティにとっても有効である。

まあ、確かにその通りなんだけど、特に既に街に住む高齢者が、コンパクトシティ化に賛同し、協力的であるかどうかはわからない。前回ご紹介した『脱・限界集落株式会社』でも描かれていたように、特にレトロフィット型の都市開発では、今持っている土地建物の資産価値と再開発された新都市での不動産との交換ルールをどのように決めるかがキモだと思うし、それ以前に、慣れ親しんだ空間をいったんスクラップして全く新しいコミュニティを作り直すという発想自体に、そこに長く住んだ高齢者が賛成するかどうかもわからない。

だからこその住民との合意形成が重要なわけだが、レトロフィット型の都市開発における住民とのやり取りの方法論については、本書でも紹介されていない。サプライ・ドリブンだという印象も、そのへんから来ている。

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