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『脱・限界集落株式会社』 [読書日記]

脱・限界集落株式会社

脱・限界集落株式会社

  • 作者: 黒野 伸一
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2014/11/26
  • メディア: 単行本
内容紹介
TVドラマ化原作、待望の続編!! 多岐川優が過疎高齢化に悩む故郷を、村ごと株式会社化することで救ってから四年の歳月が経った。止村は、麓にある幕悦町の国道沿いに完成したショッピングモールとも業務提携するほど安定的に発展していっている。そんな中、かつて栄えていた駅前商店街は、シャッター通りになって久しかったが、コミュニティ・カフェの開店や、東京からやってきた若者たちで、にわかに活況を呈していた。しかし、モールの成功に気をよくした優のかつての盟友・佐藤の主導で、幕悦町の駅前商店街の開発計画が持ち上がる。コミュニティ・カフェを運営する又従兄弟を手伝っている優の妻・美穂は、商店街の保存に奮闘するが、再開発派の切り崩しにあい、孤立していく。開発か、現状維持か? 日本のそこかしこで起こっている問題に切り込む、地域活性エンタテインメント! 信州、東北で大ヒット、17万部突破シリーズ待望の続編です。

前作『限界集落株式会社』をこのブログで取り上げてからちょうど3年が経過した。こういう起死回生の逆転一発ものは爽快感もあるし、読み進める中で今の日本が抱える様々な課題に対する著者なりのソリューションも提示している。それなりに勉強して描かれているので、読んでいる僕らも勉強になるが、エンディングまでの最後の数十ページでの展開が急すぎて、それまで盛り上がってきていただけに終わり方のあっけなさが気になった―――そんな感想だった。

その続編が昨年末に発表され、しかもその直後には反町隆史主演でNHKが前作をドラマ化したことから、これは機会があったら続編読んでみたいなと思っていた。本当は前作を読むか、ドラマをちゃんと見てから続編を読めば良かったのだが、そのどちらもやってない。ただ、ドラマは原作と設定が微妙に違っており、どちらかというと原作を実際に読むのがいいのだろうが、その原作も、前作と続編との間で登場人物のイメージが180度変わってしまったのではないかと思える佐藤のような人物もおり、無理に前作を読まなくてもいいのではという気もする。

タイトルには『脱・限界集落』とあるが、その意味するところは前作の止村のことではなく、止村が含まれる自治体・幕悦町を通る鉄道の駅前商店街のことを指している。

かつては栄えた商店街も、今は高齢化が進んだ上に、郊外型ショッピングモールに客をとられてしまい、青息吐息のシャッター街になってしまっている。そこに駅前再開発の構想が持ち上がり、再開発を推進して利権にありつこうとする賛成派の人々と、そこに住む人々のつながりを大切にして細々とでも今の駅前商店街を存続させようとする反対派との対立が描かれる。前回止村のブランド化により脱・限界集落に成功した青年実業家の多岐川優と、その過程で徐々に優に心を開いた地元農家の娘・美穂が物語の中心として再登場するが、前作がハッピーエンドだったのに対して、今回は2人が仲たがいして別居状態になり、美穂はこの商店街にあるコミュニティカフェに身を寄せ、そこで主任を務めていたことから、駅前再開発構想に巻き込まれていくという設定だ。そして、構想推進派の攻勢で苦戦を強いられ、もはや万策尽きたかと思われたところに、優が再登場するというお話。後の展開は推して知るべしだ。

前作と違い、優やそのライバル佐藤の描かれ方はちょっと違和感があるように感じられるし、郊外型ショッピングモールがあるのに同じ自治体で行われる駅前再開発で同じようなモールを作ろうとするディベロッパーと自治体という設定には若干無理があるように思う。僕は止村の舞台は山梨県の小淵沢あたりだと勝手に想像して読んでいたが、元々このあたりの駅に商店が立ち並ぶというイメージはなかなかしづらい。だいたい、コンパクトシティ化政策が想定しているのは少なくとも政令指定都市ぐらいの規模で、幕悦町ぐらいの規模の地方自治体でコンパクトシティ化を進めるのは、そもそも採算がとれる目途が立たないのではないかという気がする。

ただ、小説で取り上げられることにより、コンパクトシティ政策の問題点がうまく描かれているように思った。住民がそれを本当に必要だと感じて駅周辺の狭いエリアに集住する選択をするのならともかく、多くのケースではコンサルタントやディベロッパーが青写真を描き、自治体はそれに乗って住民に賛成するよう説得するのが仕事みたいなところがあり、コンパクトシティが供給側主導の構想になってしまっているのである。狭いエリアに集住して行政サービスや経済活動の効率性を上げ、エネルギー消費を節約して温室効果ガス排出を極力抑制できるコンパクトシティは確かに美しい政策だが、そこに住む人々の顔を見て、声を拾っていかないと、企業・自治体の論理ばかりが先行する「絵に描いた餅」になりかねない。難しい政策だなと改めて思った。
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