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『工学部ヒラノ教授』 [読書日記]

工学部ヒラノ教授 (新潮文庫)

工学部ヒラノ教授 (新潮文庫)

  • 作者: 今野 浩
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/06/26
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
朝令暮改の文科省に翻弄され、会議と書類の山に埋もれながらも研究、講義に勤しむ工学部平教授。安給料で身体を酷使する「女工哀史」さながらの毎日。累々たる屍を踏み越えつつ頂上を目指す大学出世スゴロク。そして技術立国日本の屋台骨を支える「納期厳守」「頼まれたことは断らない」等エンジニア七つの鉄則。理系裏話がユーモアたっぷりに語られる、前代未聞の工学部実録秘話。

実は我が家の高2の長男は工学部志望。大学に入ったらロボット工学を専攻して、介護福祉用ロボットの研究開発に携わりたいのだとか。そんな工学部志望の受験生を持つ親としては、理工系の学部がどんなところなのか、少しぐらいは知っておく必要がある。なんと珍しいことに、我が家に本書を持ち込んだのは、普段この手の本を全く読まない妻、読み終わったのかどうかはわからないけれど、居間に置きっ放しになっていたので、僕も読んでみることにした。

この本は発刊当初かなりのベストセラーになったらしい。この手の業界内幕暴露ものは昔からあって、僕が銀行員を辞めて今の会社で働き始めた頃は横田濱夫氏(当然匿名)の「はみ出し銀行マン」シリーズが売れまくっていた頃だったし、同じ頃には厚生官僚の宮本政於氏(これも匿名)の「お役所の掟」シリーズというのもあった。大学の世界に目をやれば、筒井康隆が『文学部唯野教授』という有名な作品がある。今野浩氏は実名であり、筒井康隆が文系学部の内実について描いた作品を発表しているので、それに向こうを張って、本書のタイトルを『工学部ヒラノ教授』にしたらしい。理工学部指向の学生やその親を含めれば潜在的な読者人口は相当なものになる。そう考えたら外れる可能性の方が少ない本だとも言える。

それなのに、恐ろしく読みづらい本で、読んでいる途中で何度も眠りに落ち、読了するのに時間がかかった。その読みづらさは、僕自身が工学部に造詣がないことに由来するものだと思うので、多少でも工学教育のことを知っている人にとっては、ひょっとしたらスラスラ読めてしまうのではないかと思う。そうはいっても、各章に特段起承転結がないため、読んでいてワクワク感がなかなか得られず、まるで呼吸を乱しながら長距離走をやってる感じだった。

でも、文系大学院で博士課程を挫折した経験者としては、この工学部の教員の面倒の良さはある意味羨ましさも感じる。教授の指示の下で実験に従事し、自分の単著でなくても何人かの研究チームで論文執筆して実績を積めるというメリットもありそうだ。文系の研究論文だと、単著が圧倒的に多くて、共同執筆した論文でも、最大4人ぐらいのものしか見たことがなかったから、ちょっと新鮮だ。

我が愚息クン、合格可能性はかなり低いけれど、東工大行けるといいですね。

ついでだから、工学教育ということでもう1冊紹介しておく。これは日本の話ではなく、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの教育スタイルについて紹介されている特集記事である。

COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2012年 01月号 [雑誌]

COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2012年 01月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/11/25
  • メディア: 雑誌
★特集:「未来」はこうして創られる[MITメディアラボ全面協力]
キンドルのEインクや、グーグル・ストリートビューの技術を生み出すなど、「未来を創る研究所」として注目を集めるMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボは、設立以来、世界の“デジタル革命”を牽引し続けている。MITがイノベーションを生み出し続けられる秘密に迫る。
・MITメディアラボ訪問記「より良い未来を創る人がここに集う」
・新しい選択肢を見つけるための「デザイン思考」というアプローチ
・オープン・イノベーションの文化がP&Gを真の世界的企業に変えた
●石井裕メディアラボ副所長インタビュー「2200年の世界に何を残せるか。それを考えて僕は毎日を生きている」
●伊藤穰一メディアラボ所長インタビュー「世界を変えることができるのは権威を疑い、自分で考える若者たちだ」
『工学部ヒラノ教授』を読んだ後にMITメディアラボの話を読むと、旧態依然とした日本の工学教育との対比が強烈だ。前者を読んでいると、日本の工学研究は既存研究のニッチを必死に探してそのニッチから将来の飯のネタになりそうな「鉱脈」を見つけることができるかどうかという、既に出来上がった学術体系の中から少しずつはみ出して発展していきそうな部分を必死に探しているという印象だが、MITの場合は最初から未来を見つめ、そこからのバックキャストで今何をしようか、教授と学生が全員考えているような、より創造性の強い研究環境なのかなという印象を受けた。

勿論、実際の日本の工学部がすべからくそうだとは言わないし、欧米の大学が全てMITのようだとも言うつもりはない。我が家の長男にデカいことを成し遂げて欲しいなんて、それが全然できてないオヤジが思うのもおこがましいが、ワクワク感のある学生生活を送って欲しいものだ。先ずは大学に合格しないと話にならないが。

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