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『沙羅沙羅越え』 [読書日記]

沙羅沙羅越え (教養・雑学)

沙羅沙羅越え (教養・雑学)

  • 作者: 風野 真知雄
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/中経出版
  • 発売日: 2014/07/01
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
時は戦国時代末期。越中を支配する佐々成政は、天下取り目前の羽柴秀吉の野望を挫くため、孤軍奮闘していた。そして小牧・長久手の戦いで秀吉軍を退けた徳川家康に、今後も秀吉に徹底抗戦するよう直談判することを決意する。そのためには、厳冬期の飛騨山脈を越える必要があった―。著者渾身の本格歴史小説。

またまた安土桃山時代のお話である。先月、仕事で富山を訪れた際、仕事の合間をみて富山城を見学したことがあった。安土桃山時代は越中国を平定した佐々成政が整備したお城である。勿論、現在の、天守閣を模した建物は中が資料館になっていて、当時天守閣があった場所とは違うところに建てられているが、当時の富山城の敷地が意外と広くて、現在の資料館の建物から想像つかないくらいに大きなお城だったことが窺えた。

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国内を旅する機会など仕事でもプライベートでもそんなに頻繁にあるわけではないが、行くと資料館やお城はたいてい訪れるようにしている。富山訪問に際しても、時間があれば是非行ってみたいと思っていたもので、佐々成政に非常に関心があった。

僕が佐々成政のことを知った時期は意外に最近で、恥ずかしながらNHKの大河ドラマ『利家とまつ』(2002年)で、成政とはるの夫妻が頻繁に登場していたことが大きい。元々前田利家と佐々成政は織田信長の親衛隊長としてはライバル関係にあったが、その当時織田家臣団の最も下っ端だった秀吉が、2人を追い抜いて出世を果たし、天下人にのぼりつめてしまう。利家はそれでも現実を受け容れたが、成政はそれができず、雪国・越中で意地の敵対を続けた。その中でも最も印象に残っているのは、ドラマの後半、成政が厳寒期の北アルプス・立山を越えて、信濃大町から駿河に入国し、浜松城で小牧・長久手の合戦の後に秀吉と敵対していた徳川家康と面会して、対秀吉での徹底抗戦を申し入れるエピソードーーー「さらさら越え」であった。

歴史好きの方ならご存知かと思うが、この時家康は既に秀吉との和睦を選択せざるを得ない状況にあったため、徹底抗戦という成政の要望はかなわず、越中にて東の上杉景勝、西の前田利家に挟まれていた成政は、秀吉本隊の越中攻めに際して万策尽きて降服を余儀なくされた。こうして秀吉の配下に下った成政は、その後進められた秀吉の九州平定の後、肥後国の戦後統治で失敗を犯して蟄居を命じられ、そのまま切腹させられる。このあたりのエピソードは、『軍師官兵衛』でも出てくるが、そこでの成政の描かれ方には釈然としないものがあった。

いずれにしても、厳寒の北アルプス越えを当時の装備で行なった成政の「さらさら越え」は、相当に強烈な印象を僕らに与えることになった。

こうして、「佐々成政」といえば「さらさら越え」なのだが、この「さらさら越え」を題材に描かれた小説というのが少なく、それだったら富山出張の復習も兼ねて佐々成政について書かれた本でも読んでみようかと図書館を物色していたところ、偶然出会ったのが小説家が手がけた「さらさら越え」の本であった。

厳冬期の北アルプス越えの困難さと、それにあえて臨もうとした成政の心中をうまく描いた小説になっている。著者は元々江戸時代の市中の人々を描いた小説が得意な作家で、『歴史読本』の編集部の人と懇意にしていて、それでこの月刊誌に何か書いてみないかというお誘いを受け、自身がフルマラソンを走ったりした経験もあって、なぜ敢えて最も厳しいいばらの道を成政が選択したのかを考えてみたくて「さらさら越え」を小説にしてみたのだという。

確かに、「さらさら越え」には、フルマラソンやウルトラマラソンを走ってあえて自分の体を痛めつける人たちに通じるものがありそう。僕もウルトラマラソンを昔走った経験があるので、この、あえて厳しい道を選択するという人のストイックなところは心に響いた。マラソンを走っていると、一緒に走っている人に対してだけでなく、すべての人に対してポジティブな面をより大きく見られるようになり、完走した後は非常に前向きな気持ちになる。

「さらさら越え」を敢行した成政の意図は残念ながら実現しなかったけれど、この苦行をやり遂げたという達成感は後に残っただろうし、世間も成政の偉業に一目置くようにもなったことと思う。

「地上では、人はどんなふうにも生きられる」(p.280)

「やれることをすべてやること。それも、沙羅沙羅越えで学んだのかもしれない。」(p.286)

フルマラソン経験者には、これらの言葉には非常に共感する。

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