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『データを紡いで社会につなぐ』 [仕事の小ネタ]

データを紡いで社会につなぐ デジタルアーカイブのつくり方 (講談社現代新書)

データを紡いで社会につなぐ デジタルアーカイブのつくり方 (講談社現代新書)

  • 作者: 渡邉 英徳
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/11/15
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
広島と長崎の原爆。東日本大震災。歴史や大災害の記憶のデータを、時代や国境を超えて伝える“新しいデジタルアーカイブ”とは。注目の“情報アーキテクト”が、現代におけるデータと社会の関わりを考える。

今週に入ってから、仕事でもビッグデータやオープンデータ化について考えさせられることが増えてきた。元々それほど得意なテーマであるわけではないので、それほど深い理解ができているとは思わないけれど、例えば、ケータイでの通話記録とか、メールの更新記録とか、公共交通の利用記録とか、僕らはあまりそれがデータだと意識していないものも実はデータになっていて、それを利用して僕らの消費行動や生活パターンをコントロールするのに使っているかもしれないと言われると、ちょっと背筋が寒くなる。

データを利用できる人と、利用できない人との格差がどんどん開いていくし、ひょっとしたらそうしたデータが悪用されて、差別やプライバシーの侵害につながる恐れすらある。アマゾンを使っていて、自分が検索した本を買った人が他にこんな本を買っていると表示されてきたり、フェースブックをやっていて、「ひょっとして知り合いかも」といって何人かのお友達候補者を勝手に拾ってくるとか、便利は便利なんだけど、何かこちらの考えていることや交友関係をのぞき見されているような薄気味悪さも感じるのである。

同様に、1990年代から言われてきた成果重視のマネジメントも、成果の計測やモニタリングをどうするのかが問われるようになり、どのような成果指標を設定してどのようにデータを取るのかがかなり真剣に考えられている。僕らのやっていることが、気候変動対策にどのように貢献しているのかとか、援助が世界の貧困削減にどのように貢献しているのかとか、今までなら「良いことをやっているんだから良いに決まっている」ということで不問にしてきたことが、本当に良いのか、どのように良いのかを具体的データをもって証明することが求められている。そのためのビッグデータの活用とか、あるいは他の人や組織がやった世帯調査でも政策立案と効果確認に活用できるよう、調査項目の標準化、データのオープン化が提唱されている。そのためには、調査のデジタルデータの保存方法等について、世界共通のルールが決められ、適用されるかもしれない。でも、そうすると独自の調査は行ないにくくなるし、研究のためにデータを活用し尽してから公開に付すというわけにはいかなくなる。データが収集されたらなるべく早く公開に付せなんて言われたら、どこもデータ収集にお金を投じることができなくなってしまう。

―――そんなことを考えていたところに、いい本と出会った。

本書の序盤の2章は、まさにこのビッグデータの活用と、オープンデータ化の潮流について述べられている。オープンデータ化に関しては、福井県鯖江市の「データシティ鯖江」について少し詳しく紹介されている。鯖江市のホームページによれば、現在欧米において、電子行政の新たな手法として、行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行い、行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし、促進して行こうとする「オープンガバメント」の運動が起こっているのを背景に、鯖江においても、ホームページで公開する情報を多方面で利用できるXML、RDFで積極的に公開する取組みを進めているのだという。

でも、そうした世界の潮流の話以上に面白かったのは、著者が勤める首都大学東京で、学生とともに手がけた幾つかのデジタルアーカイブ制作の取組みである。オープンアクセスなので実際それらのサイトを閲覧してみたが、正直感動ものである。

先ずは、本書の中でも紹介されている幾つかのデジタルアーカイブについて、紹介したYouTube動画があるからイメージを見てみて欲しい。

《ツバル・ビジュアライゼーション・プロジェクトの紹介ビデオ》

《ヒロシマ・アーカイブ》

《東日本大震災アーカイブ》

著者は自分がやっていることを文章化してモノクロの本で説明するのは難しいと謙遜しておられるが、十分読みやすいし、並行して著者のチームが製作した数々のデジタルアーカイブとその説明動画サイトを見ると、もっと理解が進む。地球温暖化の影響で水没の危機に瀕する南太平洋の小島嶼国ツバルに住む人々の暮らしと風景を記録にとどめたり、長崎や広島での原爆と被爆者の記憶、東日本大震災の被災地の人々と被災前の地域の記憶等をグーグル・アースを利用して記録に残し、全世界から閲覧できるアーカイブにする取組みは画期的だ。

こうして、地域の記憶を記録していく過程で、人と人がつながっていく様子がまた嬉しい。本書の中でも書かれているが、首都大学東京のチームが広島の被爆者のインタビューを直接実施していては、重い被爆者に心を開いてもらうことは難しかったに違いない。デジタルアーカイブの制作チームはインタビューのデータの整理とアーカイブへのアップに専念し、実際のインタビューは広島の女子高生が行った。被爆者の中には、その痛ましい記憶を死ぬまで自分の中にとどめておこうと考えておられた方も多くいらしたそうだが、インタビューに訪れた高校生達の真剣な眼差しにほだされ、当時の記憶を初めて口にしたのだという。記憶を有する人とその記憶を記録にする人がデジタルアーカイブ化の作業を通じてつながっていく様子が素晴らしい。

これから日本はさらに高齢化が進み、人口も減少していく中で、特に地方における地域の記憶をどう記録にとどめていくのかが大きな問題になってくる。それは、震災や原発事故のような災害があろうがなかろうが、遅かれ早かれやって来る未来の姿だと思う。国内の蚕糸業のように、一時は日本の近代化のけん引役となった産業ですら、今は国際文化遺産となり、やがてお蚕さまを飼った経験を持つ人もいなくなってしまうだろう。そういう人々の記憶、地域の記憶を、本書で紹介されているような手法をもって記録に残しておく取組みが、もっと進められるといい。

そのためには、こういうアーカイブの制作には何が必要なのか、予算はどれくらいかかり、どういう知識やノウハウを持った人を何人ぐらい動員しなければいけなかったのかといった、同様の取組みを複製化して日本全国で同時多発的に進められていくための条件についても本書では言及してほしかったところだ。

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渡邉英徳

ご感想ありがとうございます。限界集落におけるアーカイブ制作の試みを、うちの大学院生たちが進めています。ぜひご覧ください。
http://www.huffingtonpost.jp/hidenori-watanave/regional-vitalization_b_6118944.html
by 渡邉英徳 (2014-11-15 22:12) 

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