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『秀吉神話をくつがえす』 [読書日記]

秀吉神話をくつがえす (講談社現代新書)

秀吉神話をくつがえす (講談社現代新書)

  • 作者: 藤田 達生
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/09/19
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
出自の秘密、大出世、本能寺の変、中国大返し、豊臣平和令―天下人の虚像を剥ぐ。

NHK-BSで、現在、日曜日に『軍師官兵衛』、土曜日には『独眼竜政宗』を毎週見ている。面白いことに、どちらもちょうど関白・豊臣秀次に謀反の嫌疑がかけられて切腹させられる事件が扱われていて、それがどのように官兵衛、正宗を窮地に陥れるかが描かれている。面白いことに、『軍師官兵衛』には伊達政宗は登場しないし、逆に『独眼竜政宗』には黒田官兵衛は出てこない。同じ事件でも、描かれ方が随分違うなと驚かされる。

ただ、それ以上に際立つのは、豊臣秀吉の横暴だ。茶々(淀の方)との間に嫡男が生まれてから、秀吉は大きく変わったという描かれ方になっている。そしてその背後には石田三成を筆頭とする官僚グループによる策謀がある。勿論、天下人になるまでの道筋がはっきりしてきてからの秀吉にはそうした変化がちらほら見え隠れしていたが、少なくとも中国大返しから山崎合戦あたりまでの秀吉の描かれ方にそうした憎らしさはなかったと思う。そして、織田信長が明智光秀によって討たれた本能寺の変は偶発的な事件で、備中高松城攻めの最中だった秀吉はたまたまその事件を知り、即座に毛利との和睦をまとめ上げて、京へと引き返して明智勢を撃破したことになっている。

しかし、本日ご紹介する本によると、秀吉は光秀の謀反について事前に予想していたという立場が取られている。安土城を完成させた信長が、天皇の安土への動座と、自らの征夷大将軍就任を宣言することを光秀が阻止したいと考えていることを事前に秀吉が察知していて、畿内に情報網を張り巡らせて動静を探っていたということになる。そういう仮説の下に、実際の史料をもとにして、それをサポートする論拠を固めている。主役は秀吉だが、当時信長や光秀が何を考えていたのかに関する記述に相当な紙面を割いている。結局のところ、秀吉はそういう情報の重要性を当時最もよく理解していて、情報戦に長けていたということなのだろう。

当時光秀は決して偶発的に信長暗殺を謀ったというわけではなく、それなりに信長亡き後の政権構想を考えていて、それなりの布石を打とうとしていたのだが、そこに思いもよらず秀吉が備中から猛烈な勢いで引き返してきた。秀吉の帰還がもっと遅かったら、光秀の政権構想が具体化して、秀吉も手が出せなくなっていたかもしれない。著者はそう述べている。それだけに、秀吉の情報収集能力の凄まじさが際立つのだという。そういう見方もあるのだと気付かされる。

話が本能寺の変に集中してしまったが、本書を読むと、そもそも時の権力者・秀吉は、その出自も含めて自分に不利な情報が残っている文書は破棄して、別のストーリーをでっち上げている可能性が強いと述べられていたりして、まあそういうことはあるのかなという気もしてくる。また、僕は清須会議で秀吉が信長の後継者として支持した三法師(秀信)がその後どうなっていったのか、少なくとも清須会議では秀吉は織田家を立てていたのに、どこで自らが天下人として振る舞うようになるきっかけがあったのか、よくわからないでいたが、本書を読んでみて、少しだけそれがわかったような気がした。

いずれにしても、大河ドラマを見てから本書を読むと、ただでも嫌いだった秀吉という人物がますます嫌いになれる。そういう意味で面白い本です。

ただ、読んでいて少し気分が悪くなる部分も。本書ではこれまでの通説に対する批判を試みている。特に、藤木久志氏への批判は執拗で、ちょっとネチネチしたところがある。自説をサポートする論拠も時として不十分なところは感じられるが、同様に他の歴史学者の主張に対して批判する際の論拠にも多少情緒的で不十分なところが感じられる。
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