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『いつまでも美しく』 [インド]

Behind the Beautiful Forevers: Life, death, and hope in a Mumbai undercity

Behind the Beautiful Forevers: Life, death, and hope in a Mumbai undercity

  • 作者: Katherine Boo
  • 出版社/メーカー: Random House
  • 発売日: 2012/02/07
  • メディア: ハードカバー

いつまでも美しく: インド・ムンバイの スラムに生きる人びと

いつまでも美しく: インド・ムンバイの スラムに生きる人びと

  • 作者: キャサリン ブー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/01/24
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
ピュリッツァー賞受賞ジャーナリストが描き出すムンバイのスラムに生きる人びとの素顔。全米図書賞に輝いた傑作ノンフィクション。インド人を夫にもつアメリカ人ジャーナリストが、3年余にわたる密着取材をもとに、21世紀の大都市における貧困と格差、そのただ中で懸命に生きる人びとの姿を描く。全米ベストセラーとなり、数多くの文学賞に輝いた真実の物語。
このブログでインドを取り上げることが最近めっきり減ってしまった。読書ブログに装いを変えたのでそれ自体は致し方ないが、仕事でもインドと直接関係することが少なくなったことがインドに向き合う自分のモチベーションにも微妙な影響を与えている。

原書をわざわざ購入しておきながら、読むのをズルズル先延ばししているうちに、なんと邦訳が出版されてしまったというのが今日ご紹介の1冊。2012年8月にインドに出張した際に、空港の書店などを探して購入した原書『Behind the Beautiful Forevers』(強いて言うなら、「『永遠に美しく』の看板の向こうで」といった意味だろう)が、今年に入って早川書店から『いつまでも美しく』というタイトルで出版されていたのだ。正直この訳本が発売になっているのを知り、「やられた!」と思った。

舞台はムンバイの国際空港にほど近いスラム「アンナワディ」のお話。急速な経済発展を遂げる大都会の片隅で、3000人がひしめき合って暮らしているスラムで、元々は1990年代前半の経済自由化政策の頃に、南部タミル・ナドゥ州から出稼ぎに来た人々が住み始めた集落である。

このスラムで暮らす人々のうち、著者は4人の人物に主にスポットを当てる。1人目はムスリムのフセイン家の長男アブドゥル。ゴミの売買で家計を支え、生活も少しずつ上向きはじめている。一家はウッタル・プラデシュ州出身のムスリムで、この本の舞台となる2007年から2010年頃にかけては、マハラシュトラ州を基盤とする地方政党シブ・セナやラージ・タックライ率いるMNSが他州からの出稼ぎ労働者の排斥運動を展開していたために、警察沙汰などにならないよう、ひっそりと淡々と暮らしていた。

もう1人はアンナワディで最も成功しているワギカー家の母、野心家のアシャである。元々はマハラシュトラ州東部の農村出身だが、上昇志向が強く、権力者とのつながりを利用してのし上がろうとしている。地元の有力な政治家に取り入るために、街宣の人集めや、住民間の揉めごとの仲介(手数料を中抜きして)、果ては売春と、かなり大変なことをやっている。

3人目は、このスラムで女子として初めて大学に進んだアシャの長女マンジュ。母の生き方に反発を覚えている。4人目は路上で暮らす少年カルー。盗んだゴミを売って生計を立て、ガッツと明るい性格で仲間うちでは一目置かれる存在だった。

そんなある日、フセイン家の隣人で片足を亡くした中年女性ファティマが、フセイン家とのもつれから焼身自殺を図り、担ぎ込まれた病院で、「すべて隣のアブドゥルが悪い。肢体障害があるので暴力を振るわれ、「殺してやる」と脅されていたとの狂言を行なう。引くに引けなくなった警察がアブドゥルとその父親を捕まえようと動き出す。この事件をきっかけにフセイン家の運命は大きく変わり、アシャやカルーたちもまたアンナワディをめぐる情勢の変化に巻き込まれていく――。

スラムの地名や登場人物の名前は仮名だろうが、おそらく実際に起きた話なのだろう。著者はこの間通訳の助けも借りてこのスラムの人々を観察し続け、そこから特定の人とエピソードを切り出す形でルポを纏めている。何らの憐みの感情を文章に込めることもなく、ただ淡々とペンを走らせている。まるで、本書を読んでどう思うのかは読者次第だと言わんばかりだ。

ムンバイ空港近くのスラムの形成過程や、そこで住む人々の日常生活がよくわかる。彼らが朝から夜までどのように暮らしているのか、何を考えているのか、住民間ではいつも助け合っているのか―――読者の切り口によってはいろいろな情報が本書からは得られる筈だ。

お互いムスリム世帯であっても妬みから意地悪が行われたり、ありもしないことで警察を訴えたり、焼身自殺を試みたり。それに絡んでくる地元政治家や警察も腐敗しているし、病院もいい加減だし。でもこれが実態。スラムでの参与観察も、ここまでやると立派である。

最初の登場人物の描写に慣れるまでは翻訳がわかりにくいと感じたが、徐々に違和感は解消されていった。2007年から2010年頃のインドを知っている者にとっては理解しやすい物語になっている。

原書の方はしっかりHPまで立ち上げられている。そこではスラムに住む人々を撮った写真だけでなく、プロモーション用の映像もアップされているので、これらを見て実際のスラムの様子を画像や映像で理解しておくと、本文を読むのに手助けになってくれるだろう。

本書HPのURLはこちらから⇒ http://www.behindthebeautifulforevers.com/


憐みを感じるどころか、リアリティの凄まじさにただただ度肝を抜かされる。インドの輝かしい成長の部分ばかりではない、最底辺の生活はなかなか変わらないに違いない。来週からインドでは総選挙が開始される。これまで10年続いた与党国民会議派連立政権は大敗し、インド人民党(BJP)が第1党に返り咲くのは確実と見られているが、どうなるんだろうかこの国。

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