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『パルテーラとともに地域保健』(ニカラグア) [仕事の小ネタ]

「グラナダ」という言葉を聴くと心がときめくのはなぜだろうか。まあ常識的には世界史の中でスペインの地名として出てくるからなのだろうが、僕らの世代では『機動戦士ガンダム』に登場する月面基地で、ジオン軍の女将キシリア・ザビの勢力下でジオン軍の最終防衛ラインの一角を占めていたことがこの名前を僕らの右脳に強烈にインプットしている。

でも、今回ご紹介するグラナダは、中米ニカラグアの県とその中心的な都市の名前である。首都マナグアからは比較的近く、ニカラグア湖沿岸に広がる、貧困関連指標の高い県の1つである。

そんなグラナダで、2000年代初頭に、JICAは地域保健の制度を根付かせるための技術協力プロジェクトを展開した。本日ご紹介する本は、そのプロジェクトに参加した日本とニカラグアの関係者が、プロジェクトが発行していたニューズレターに当時寄稿した記事を整理し、1冊にまとめたものである。

パルテーラとともに地域保健―ニカラグアの村落で33人の記録

パルテーラとともに地域保健―ニカラグアの村落で33人の記録

  • 監修: 若井晋
  • 出版社/メーカー: ぱる出版
  • 発売日: 2005/06
  • メディア: 単行本
内容紹介
パルテーラ(産婆さん)は肝っ玉母さん。10年間の内戦から復興進む中米ニカラグア、ODAで地域ぐるみ健康守る4年間の記録。中央アメリカ・ニカラグアで行われたJICA地域保健プロジェクトの記録で、プロジェクトに参加した医師、看護師、薬剤師、青年海外協力隊員、現地の行政官など33人の関係者から、途上国でのODA活動の現場を、臨場感たっぷりに伝える。

この本の存在は、僕が3月にニカラグアを訪れた際、現地でお世話になった日本人の専門家の方から教えていただいた。この方は以前このプロジェクトに専門家として派遣されており、当時自分が関わったプロジェクトの歴史が1冊の本にまとまっているので、参考にして欲しいとご紹介を受けた。

このプロジェクトには、のべで7人の日本人専門家が長期で派遣され、短期派遣された専門家も18人いる。逆にプロジェクトのカウンターパートとしてJICAの主宰する研修に参加したニカラグア側スタッフは9人いる。こうした関係者が核となり、グラナダ県の人々の健康増進のための活動を協働で行った。本書にはそうした関係者33人が執筆している。中には専門家の随伴家族として現地に赴き、非公式にプロジェクトを手伝っていた人もいれば、インターン実習生や研究者のフィールドワーク、将来のJICA専門家候補として人材養成研修の現地研修で現地に短期滞在した人もいる。また日本でニカラグア人研修員を受け入れた日本の岩手県藤沢町の関係者や、研修員に随行して通訳を務めた日本人研修監理員、プロジェクトに注目して長くこれを見守り続けたジャーナリストも含まれていた。個人的に僕が面識がある人も何人か執筆陣に加わっており、面識はないもののお名前はよく耳にする専門家もちらほらいる。

さすがにプロジェクトの関係者がプロジェクト実施期間中に書かれたものだけに、現場ならではのリアルな情報や示唆、教訓等が各章に溢れている。各章とも、寄稿された方々が自分の活動とその成果を総括するというような内容で、各々の寄稿者が何をされたのかはよくわかる。その一方で、こういう編集の仕方だと、どうしてプロジェクトが必要だったのかという背景の部分と、プロジェクトの成果は結局何だったのかというところまではなかなかカバーできない。そういう制約はあったことだろう。

元々僕はニカラグアとの接点が少なかったので、本書の中で何らか自分のこれまでのキャリアとの共通点を見出すのは難しかったが、その中で、プロジェクトのリーダーの花田恭氏が、米国の9.11同時多発テロの際に経由地のヒューストンで足止めを喰っていた話は身にしみた。この時花田氏は、JICAのワシントン事務所に連絡を入れて安否を報告しようと試みたが、なかなか担当者に電話がつながらなかったと述懐しておられる。それはその通りで、当時ワシントン事務所の関係者も退避を強いられていたが、僕自身もこの時はこのJICAの関係者の方々と一緒に、ホワイトハウス近くから歩いて避難していたのだ。

僕は今、3月のニカラグア取材で得た情報と日本でいろいろ調べた文献情報をもとに、レポートを書いている。帰国から4月いっぱいまではいろいろあったのでなかなかこの作業に取りかかれずにいたが、連休明けからようやくエンジンがかかり、現在A4で30ページほど書き上げ、残り3、4ページで脱稿できるところまできている。この週末もその作業を持ち帰って来ており、「早勉」で資料を再チェックしつつ、朝帰宅した後それを自宅PCでレポートに反映させていくという作業を2日連続で行なっているが、その合間に本書も読み、そして読み切った。僕が書いているのはグラナダ県ではなく北西部山岳地帯の5県に関するレポートだし、テーマも地域保健ではないが、それでもグラナダ地域保健プロジェクトの経験の中から参考になる部分もあった。

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 スペイン語でパルテーラという伝統的産婆は、母親から娘、孫娘へと分娩介助の技術を伝えてきた産婆である。地域によっては男性産婆もいる。看護学校、助産師学校で分娩技術を学ぶわけでなく、先祖代々その技術を口伝によって、また一緒に分娩介助の手伝いをしながら、体で学習してきた。なかには結婚して夫から伝授されたり、自分の出産経験から、家族内だけの分娩介助を行なっている産婆がいる。(p.96)

保健省の制度では、産科医師が分娩介助をすることになっており、日本のような助産師制度がなく、助産師がいない。しかし、僻地の出産はパルテーラに頼っているのが実舒杖ある。また、農村部の妊産婦は、病院での分娩経験が少ないため、不安が先にある。人情的で温かみがあり、家庭で落ち着いて出産できることから、パルテーラに頼っている。パルテーラは、行政の建前と実態のはざまにある。(p.97)

保健所、ポストの人びとは勤勉で、意欲的なのが印象的だった。「ブリガディスタ」という若い保健ボランティアがいるのを知った。▽青少年活動や十代のボランティアを見聞して、若者が積極的だと感じた。また保健関係者の勤勉さが目についた。▽ニカラグアでは青少年の活発さが印象にのこる。保健所に対する地域住民の期待が大きいのを実感した。(p.216)

PROGRA(註「グラナダ地域保健プロジェクト」のこと)が他国のドナーの援助と最も異なる点は、グラナダ県保健局のオフィスに一緒に入って活動していること。他国のドナーは、首都に事務所を持ち、時々援助サイトにやってきて、「宿題」を課すようにプログラムを示して帰っていくが、PROGRAは意思決定のプロセスを共有できた点がよい。共に働く実践の中には、報告書には書けないノウハウのようなインパクトがある。行政機関なので周囲にはわからないように根回しすることが多いが、花田リーダーによると、日本でも同じで「アヒルの水掻き」と言うと聞いて、表現の的確さに笑ったことがある。また、一緒にいることで、相互理解が深まり、透明性も保てた。学校保健で教育文化省と、十代の妊娠や家庭内暴力では家族省と、思春期教育ではいくつかのNGOとといったように、他の関係機関とのネットワークの構築もプロジェクトを通じて可能になった。(p.280)

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ここで挙げた最後の引用は、JICAが実施する技術協力プロジェクトの特徴をうまく表現しているように思う。

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