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『日本の産業革命』 [シルク・コットン]

日本の産業革命――日清・日露戦争から考える (講談社学術文庫)

日本の産業革命――日清・日露戦争から考える (講談社学術文庫)

  • 作者: 石井 寛治
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/12/11
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
製糸・紡績、鉄道、鉱山、金融。日本の近代化を支えたものは戦争と侵略だったのか?本書は日清・日露両戦争と産業革命の関係を軸に、構造を変革する主体の姿を解明、新たな歴史像を描出する。明治の国家目標「殖産興業」が「強兵」へと転換する過程を追い、19世紀末から20世紀初頭にかけて世界経済の中で日本が選択した道を鮮やかに活写する。
ゴールデンウィークに12連休を取って米国武者修行に出かけた際、僕が携行した本のうち、いちばん最後に読み始め、帰りの機中で読み切ったのが本日ご紹介する1冊である。日本での「産業革命」という視点が面白く、このところ日本経済史を読み直すような機会もなかったので、真面目に読んでみようと考えた。小説ばかりじゃありませんよ。

通説としては、日本の産業革命というのは、1880年代前半の「松方デフレ」による激しい資本の本源的蓄積(資本・賃労働関係の創出)の一時期を経て、1886年頃に始まり、日清・日露の二大戦争を経験した後、1907年恐慌前後にひとまず終わるというものらしい。これに著者が加えて強調したのは、日本の産業革命の前提そのものが、対外戦争についての緊張に満ちた政治的選択の中で創り出されたものだという点だ。征韓論派が下野して、殖産興業路線が基本国策として採用され、民間ブルジョアジーの活動への容認と支援がなされることで、日本の産業革命への道ははじめて切り開かれたのだと著者は強調し、そうした産業革命の前提条件の整備の過程で、日本政府は当時の国際的常識にも逆らい、外資の導入を禁止する自力建設の路線を選択したとする。(p.271)

そして、当然のことながら、この産業革命をリードしたのが、蚕種製造や製糸といった蚕糸業と綿紡績業だった。僕が本書を手にとった最大の理由は、僕らが通説としてよく聞かされている「蚕糸業が日本の近代化の原動力となった」という話を、もっと具体的に知りたいと考えたからである。蚕糸行政研究の専門家が書かれた歴史の本が別にあるのはもちろん知っているが、それを読む前に、もう少し日本の近代史の中で蚕糸業というのを客観的に捉えた研究者の書かれた本を読んでおきたいと考えたからだ。

その目論見はだいたい当たっていて、本書では取り扱う全期間を通じて、製糸業に関する記述が随所に見られる。それと並行的に進められていった鉄道、鉱山、金融などの分野での国の整備状況が絡められており、一過性の読み物としても面白いが、後で何度か読み返して当時の出来事をチェックする教科書・参考書としても有用だと思った。この本から引用してすぐに何か論文でも書こうというわけではないが、いずれは活用する場面もあるので、ずっと手元に置いておきたい。

当面僕の興味はそうした蚕糸業が1907年恐慌以降衰退の途を辿っていくそのプロセスにあるため、もう少し長いスパンで日本の産業近代史を描いた文献を読んでみる必要があるように思う。しかも、それを踏まえて南インドの蚕糸業の今を捉えるというその先の課題があって、それでなにがしかの発表を秋の某学会でするつもりで応募した。選考結果がどうなるかはまだわからないが、自分を追い込むために立てた目標であり、それに向けてもっと頑張っていかねばと思うし、その作業に集中するため、他の懸案はどんどん片付けていかねばとも思う。

いずれにせよ、本書はそのとっかかりとして読んでみてよかった。

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