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『競争の社会的構造』 [仕事の小ネタ]

競争の社会的構造―構造的空隙の理論

競争の社会的構造―構造的空隙の理論

  • 作者: ロナルド・S. バート
  • 出版社/メーカー: 新曜社
  • 発売日: 2006/10/25
  • メディア: 単行本
内容紹介
どんな市場にも伸びる会社、衰退する会社があり、どんな会社にも出世する人、しない人がいます。何が違う?真の勝利の要因とは何でしょうか。それは、組織・人のもつネットーワークと、その中での位置なのです。「構造的空隙(=ネットワーク関係における穴)」という概念を提出してそのことを立証し、社会的競合の解明に大きな役割を果たした原著の邦訳です。
休暇中に少しぐらいは仕事の方も遅れを取り戻しておきたいと思い、結構重い本だが米国まで持ってきた。休暇も中盤に入ってからようやく読み始めたものの、分厚い専門書は、休暇モードの頭にはなかなか入って来ず、せっかく図書館にこもって読み込みに時間をかけたものの、睡眠自体を誘発するのには好都合な1冊となってしまった。

この著者は米国でも有数のネットワーク分析の権威であり、「構造的空隙(Structural Hole)」という概念の提唱者でもある。本書の冒頭で、著者は次のように述べている。

「プレイヤーたちが他者との関係をすでに築いているときに、どのように競争原理が働くのか。私の議論は、競争行為やその結果の大半は、競争の場の社会的構造における「空隙」を、プレイヤーがうまく利用できるかどうかという点から理解できるというものである。プレイヤーは、他の特定の人々とつながっており、他の特定の人々を信頼し、他の特定の人々を援助する義務があり、他の特定の人々との交換に依存している。ここを押せば、向こうの誰かが動く。誰が誰と結びついているかによって、競争の場における社会的構造に空隙が生じる。(中略)構造的空隙とは、競争場におけるプレイヤー間の非連結性、非同等性である。構造的空隙は、企業家にとって、情報にアクセスしたり、タイミングを測ったり、照会したり、統制するための好機となる。」(p.iii)

これだけ読んでも分かりにくいので、僕がなぜこの本を読もうと思ったのか、その背景にふれておく。但し、ブログに書いて研究のネタばらしをしてしまうと、漁夫の利を得ようとする輩もいて苦い経験をしたこともあるので、適度にぼかしておきます。

僕が本書を読んでみたいと考えたのは、著者のいう「構造的空隙」が、途上国のコミュニティ開発における外部者の役割を描くのに援用できるのではないかと考えたからである。コミュニティの人々は元々外の世界とはあまり接点がなく社会的凝集性が高い。そこに新たなアイデアを持ち込むのは、よきにつけ悪しきにつけ外部から来た人々、或いは、コミュニティから飛び出して、外をほっつき歩いてきた人々である。外の世界との繋がりを持つことが、こうした人々の競争力の源となっている。そして、もしこうした人々の外の世界との繋がりをさらに多角化できれば、コミュニティ開発自体にもメリットがありそうだ。

僕自身も、管理職になった時に最初に考えたのは、自分の指揮下にあるチームのメンバーの方が僕よりは経験があるわけだから、僕がそのチームのパフォーマンスに対して付加価値を付けられるとしたら、チームのメンバーが思いもよらないようなアイデアや情報を外から持ってこれるよう、外部とのネットワークを構築しようということだった。それが僕のチームのパフォーマンスにどれほどの貢献をしたのかは他者の評価を待たなければならないが、外から連れてきたプレイヤーと僕のチームを繋げたことで、新たなビジネスチャンスを開拓できたケースもわずかながらあったと思っている。

でも、本書を読んでいたらちょっと怖くなってしまった記述箇所もあった。

第1に、本書の第4章では、著者は構造的空隙の情報と統制利益が管理職に有利に働き、これらの利益を具現化できた管理職はその企業にとっての財産となるということで、昇進のスピードも速くなるという仮説を実証しようと試みている。そして、実際に「構造的空隙に富むネットワークを持つ管理職はより早く昇進し、より早く現在の地位に到達する可能性がある」(p.159)と結論付けている。

第2に、第6章では同じ部署での在籍期間とパフォーマンスの関係性について述べられているが、192ページにある図6-1は、ある部署が新たな管理職を迎えた時、最初はその新たらしい管理職が持つ構造的空隙がポジティブに作用して業績は高いが、その役職に留まる期間が長くなると徐々に業績は低下する。そこから改めて業績を回復させるか、さらなる低下をもたらすかは、その管理職が自律的に構造的空隙を新たに開拓していけるかどうかにかかっていると著者は述べている。僕らは新たな部署に異動になれば、最初は緊張感に漲り、組織に新たな付加価値をもたらしたいと頑張るが、2年、3年と在籍期間が長くなると、そうした初期の緊張感は薄れ、その部署での業務に慣れっこになってしまう。

著者はその典型例として、「大学院に通常以上の年数いること」を挙げているが、非常に身につまされる話だ。また、僕は今の部署での在籍期間が3年に到達してしまい、構造的空隙を積極的に活用していこうという意欲も薄れていて、けっこうまずい立場にあるなぁと痛感させられる。こうして休暇を取っている5月1日にも異動の話はなく、6月末までは今の部署で頑張らなければならないことが確定した。

著者は、「社会的境界にいる管理職がより強いネットワーク効果を示す」と述べ、空隙の効果は、地方工場にいる管理職の方が主要地域にいる管理職よりも強いとも指摘している。うちの会社でいえば、本社ではない地方の支社や、海外の支社の管理職の方が空隙の効果を利用しやすいということだ。

「社会的境界とは、2つの社会的領域が出会う場所であり、そこではある種の人々が他の種の人々に出会う。社会的境界で生きる人は、社会的に同質的な環境にいる人よりも企業家的機転を使って生きる傾向が強い。境界にいる管理職は、他の種類の人々―――境界を越えたところにいる人々―――との関係を維持する。境界をまたぐ関係には、管理職の期待と、境界の向こうの世界の期待との間の長期的な調整が伴う。境界から離れると、人々はより同質的になり、関係における矛盾した期待はほとんどなくなる。そこで生き残るために必要な企業家的技術は、より少なくなる。」(p.159)

早く境界に近いところに戻りたい―――そう強く思うようになったが、それを実現させるには、今の慣れ合いの環境の中でも構造的空隙を利用した秀逸なパフォーマンスでも示さないといけないということなのだろうか…。

それにしても超難解。言われていることはきっとシンプルなのだと思うが、1回読んだだけではサクサクとは頭に入ってこない。少しだけ間をあけてもう一度挑戦してみたいが、その前に、著者の弟子である訳者の書かれたネットワーク論の本を読んでみた方がいいような気もした。

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