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『ルイジアナ杭打ち』 [読書日記]

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ルイジアナ杭打ち

  • 作者: 吉目木 晴彦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1988/09
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
出色の文章と奔放な発想による清新な文学の誕生。吉目木晴彦の「ルイジアナ杭打ち」と処女作「ジパング」(群像新人賞優秀作品)収録。
先月、経由地として米国入りしたばかりなのに、また25日(木)から米国入りしている。今度はヒューストンではなく、昔住んでいたワシントンDCである。前回は仕事だが、今回は勤続20年のリフレッシュ休暇を連休に引っかけて、完全にプライベートで来ている。自分の研究絡みで多少資料は持ってきているものの、最大の目的は昔通っていた道場を訪ね、稽古仲間と旧交を温めることである。到着した当日から稽古参加し、時差ぼけ解消のためにひと汗流してきた。

出発までの最後の1週間は相当に慌ただしくて、自宅でも職場でも、無駄な時間がほとんどなかった。図書館で借りていた本は返却しなければいけないと思い、寸暇を惜しんで読んだ。そんな中で、読むことは読んだけれどもとても「読書日記」を書いておくことまではできなかった作品も幾つかある。読了してこちら(米国)には持ってきていないので、思い出しながら書いている。

先日、吉目木晴彦『寂寥郊野』を読んだので、いい機会だから『ルイジアナ杭打ち』も読んでおくことにした。吉目木氏は父親の仕事の関係で1960年代後半にルイジアナ州バトンルージュに3年間ほど住んでいたという。ちょうど小学校高学年で、父親を通じたLSU(ルイジアナ州立大)の先生方との交流とか、コミュニケーションをどう取るか不安を抱えながら不承不承夫に同行してきた母親の姿とかを、しっかり観察して記憶にとどめていたのだろう。しかも小学校高学年なら、まだ英語のキャッチアップも速かったに違いないし。だから、実際にその場で行なわれた会話も含めて、けっこう淡々と書かれているが、そうした描写の中に、考えさせられることもいろいろある。

本作品の最大のポイントは、米国南部でありながら、白人社会と黒人社会が容易に交わっていない状況にあるのかなと思う。お互いに交わらないのが暗黙のルールになっていて、幼い晴彦少年が黒人のクラスメートの家を訪ねた時の父親の職場の同僚の先生方のヒステリックな反応とか、クラスメートの兄が「弟とは関わらない方がいい」と晴彦少年に告げた忠告とか、そうした出来事や当事者の言動から、当時の状況を想像することができると思う。吉目木一家は、父親の同僚の忠告もあって、黒人社会とは接点を持たなかったそうだ。

僕はそれから約20年後にバトンルージュで1年間過ごしたが、本作品ほどではないにせよ、両者は微妙に住み分けをしていて、お互い関わらないようにはしていたような印象はある。とはいえ、僕のルームメートは黒人だったし、そのルームメートは仲の良い白人の同級生が2人おり、よく遊んでいたのだが。それでもその白人の1人が僕のルームメートのことを、「あいつはstupid(馬鹿)だ」と陰で言っていたのを聞き、少し悲しくもなったのだが。

僕の読み方が浅いのか、『ルイジアナ杭打ち』は著者の回想録にしか読めず、これ以外にも、当時バトンルージュに住んでいた日本人戦争花嫁が3人いた話とか(うち1人が、『寂寥郊野』に繋がっていく)、そこから60マイルほど西に行ったラフィエットにも日本人女性が住んでいた話とか(これはホント驚いた)、そうなんだという驚きのエピソードが幾つかあって、興味深く読ませていただいた。樫の木の並木や時計塔、A&P(スーパーマーケット)、そして坂道1つに至るまで、LSUキャンパスの周辺の風景描写は、「あああの辺りのことを描いているんだな」と想像もつくので、懐かしくて仕方がなかった。

その一方で、本書に収録されているもう1つの作品「ジパング」の方は、読んでいて全く理解できなかった。僕にもう少し純文学をゆったりと楽しめるほどの余裕でもあったらよかったのだが、とにかく急いでいたので、「ジパング」は数ページ読んでギブアップした。新人文学賞を受賞したような作品だから、それなりに読めば含蓄も多いのかもしれないが。

「ジパング」も含めて本書を高く評価されているブログの記事もあったので、URLをご紹介しておく。
http://d.hatena.ne.jp/akabeko8/20091123/p1
http://blog.livedoor.jp/toukaidou29/archives/1688550.html
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