『何者』 [朝井リョウ]
内容紹介ようやく読みました。海外出張のおみやげにしようと、書店で購入し、行きのロングフライトの機中でイッキ読みした。個人的には『少女は卒業しない』の方が好きな作品なのだが、なぜか『何者』の方が直木賞を受賞した。前回受賞できなかったので急いで書いたのかなという感じが否めなかった。
「あんた、本当は私のこと笑ってるんでしょ」就活の情報交換をきっかけに集まった、拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良。学生団体のリーダー、海外ボランティア、手作りの名刺……自分を生き抜くために必要なことは、何なのか。この世界を組み変える力は、どこから生まれ来るのか。影を宿しながら光に向いて進む、就活大学生の自意識をリアルにあぶりだす、書下ろし長編小説。第148回(平成24年度上半期) 直木賞受賞作品
フェースブックはともかく、ツィッターは使っていないので、今回の就活学生さんたちの世界観は今ひとつよくわからなかった。ただ、インターネットの怖さというのはいろいろ感じさせられる作品である。
第1に、本書でも指摘されている通り、フェースブックやツイッターは、メルアドからアカウントをつきとめることができてしまうということ。だから、読んでほしくない人にも何を書いたか読まれてしまうリスクが高い。第2に、そういうリスクがあるから、SNS上では自分の本当の本音の部分は書けない、SNSだけでなく、ブログででも本音を洗いざらい書くことは難しいと考えるのが普通だ。なのに、本音が書けないだけに、匿名の別アカウントを設けて、そこで本音をぶちまけたい衝動にかられることはあり得るし、実際やっている人は多いかもしれない。そして、そうやって匿名だからといって安心して他人の観察などを書いていると、本人に気付かれてしまうというリスクも相当高い。
第3に、グーグルのような検索サイトでは、過去のキーワード検索が記憶されるために、他人にPCを貸したりしてそこで何を調べていたのか気付かれてしまうというリスクを伴うので注意が必要である。
本書は基本は就活のお話なのだけど、就活をチーム競技ととらえて協力し合っている仲間同士で、表と裏を使い分けるのにSNSやブログ、検索サイトなどを活用し、その活用自体が表の協力関係を壊してしまう危険性を常にはらんでいるということを僕たちに痛感させてくれる作品でもあると思う。僕もご覧の通りのブログユーザーで、SNSはフェースブックとミクシィはよく使っているので、それらがどういうリスクをはらんでいるのかを考えるよい機会になった。
ところで、朝井リョウ君ファンの読者の方ならお気づきかと思うが、光太郎のキャラ、どこかで聞いたことがあるような気がしませんでしたか?学生ミュージシャンだけど、高校時代に気になっていた女の子がいて、その子が高校卒業と同時に米国留学してしまうというお話。これは、数名の作家で短編を出し合ってできた新潮文庫『最後の恋 MEN'S』に収録されている「水曜日の南階段はきれい」の主人公「俺」じゃないか。高校時代の「俺」クンがそのまま大学生4年になったらこんな感じなんだねぇ。そんな感動を覚えた。
「水曜日の南階段はきれい」は、僕が読んだ中でも最も好きな朝井作品であり、「俺」のその後に今回再会できたのは嬉しかったし、光太郎君がその後彼女と再会できるようなストーリーを朝井君には用意してほしいとひそかに期待している。
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