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『天使で大地はいっぱいだ』 [読書日記]

天使で大地はいっぱいだ (子どもの文学傑作選)

天使で大地はいっぱいだ (子どもの文学傑作選)

  • 作者: 後藤 竜二
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1995/11/16
  • メディア: 単行本
出版社/著者からの内容紹介
6年生になった新学期。担任の新米先生・キリコに、サブたちはいたずらをしかけるが、まるで歯がたたない。やがてキリコを中心に、クラスは1つにまとまっていく。北海道石狩平野の自然を舞台に、たくましく成長していく子どもたちの姿を描いた長編力作。
小学校の朗読ボランティアの題材探しで市立図書館に立ち寄った際、児童書の棚で見かけて借りてみようと思った1冊。本書は1995年発刊だが、オリジナルは1967年に発売になっている。

懐かしい小学校時代の愛読書で、少なくとも在学中に3回は読んだ。課題図書に指定されていて読んだという人もいるかもしれない。少なくとも、1970年代前半頃までに小学生だった世代の人たちの間では、かなり懐かしい作品だろう。新任教師のキリコ先生は僕らの憧れだった。多分、市川禎男の挿し絵に描かれていたキリコ先生に憧れていたんだろう。片や僕らの小6時代の担任のツヤコ先生は、僕らの親よりも歳が上だった…。

その後、30代後半になって一度、そして十数年後の今回もう一度読んだ。一時は課題図書になったぐらいだから、どこの図書館に行っても必ずといっていいほど蔵書がある。

読むたびに新たな発見がある。なんだか、大学紛争の影響や高度経済成長の陰で進んでいた地方産業の斜陽化の兆しが所々に感じられる小説だ。主人公サブの兄弟は、今なら考えられないが兄が3人、妹が1人である。長男ノブさんは東京の大学に行くが、訳あって中退して北海道に帰って来る。これがどうも当時の大学紛争の影響ではないかと思わせる節がある。言葉の端々にマルクス主義の影響が感じられる。ノブさんが農民文学に小説を投稿している話とか、サブにソ連の穀倉地帯の写真を見せて、大規模農業への憧れを語っているシーンとか。そして、サブの担任のキリコ先生にも、そんな思想を感じる。6年生のサブの目線から描かれているからはっきりとは書かれていないが、ノブさんとキリコ先生は年齢的にも近く、惹かれ合っている様子が感じられる。(そういうところを期待して続編『大地の冬の仲間たち』を読むと、裏切られるぞ。)

家族が多いのもいいもんだと改めて思う。祖母に父、母、そして5人兄弟。大地での農作業には家族全員が駆り出され、両親や長兄の姿を見ながら子供達は仕事を覚えていく。家族ひとりひとりに役割がある。1960年代にはよく見られた風景だろう。今よりも家族が一緒に過ごす時間が長かった時代だ。人がみなおおらかだったんだろうな。「過去だとか、未来だとか、理想だとか、現実だとか、希望だとか、絶望だとか、正義だとか、悪だとか、ほんどうだとか、うそだとか、めったやたらのそんなことは、まあ、ちょっとおいとけよ」なんて親父さんに一蹴されて。

家族構成とか、挿し絵とかは、現代の日本の社会状況とはフィットしないと思うが、それでも次の世代の人々のために大切に残しておきたい作品の1つだと思う。子供達にも読ませるのもさることながら、自分自身もまた何年かして図書館の書架で見かけることがあったら、また借りて読んでみたいとも思う。

タグ:後藤竜二
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