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『日本の難題をかたづけよう』 [読書日記]

日本の難題をかたづけよう 経済、政治、教育、社会保障、エネルギー (光文社新書)

日本の難題をかたづけよう 経済、政治、教育、社会保障、エネルギー (光文社新書)

  • 編者: 安田洋祐、菅原琢、井出草平、大野更紗、古屋将太、荻上チキ+SYNODOS
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/07/18
  • メディア: 新書
内容紹介
◎「ダメ出し」ではなく「ポジ出し」を!
◎非難やあら探し、足の引っ張り合いはもういい。ポジティブで前向きな改善策を話し合おう――。経済、政治、社会保障、医療、エネルギー各分野の気鋭の研究者、当事者が、日本再生のための具体的な戦術、政策を提案する。
  安田洋祐「社会を変える新しい経済学――マーケットデザインの挑戦」
  菅原琢「データで政治を可視化する」
  井出草平「社会学は役に立つのか?――ひきこもりの研究と政策を具体例として」
  大野更紗「『社会モデル』へのパラダイムシフトをまなざす」
  古屋将太「環境エネルギー社会への想像力と実践」
  梅本優香里「貧しい人びとの仕事をつくる」
執筆者の1人、梅本優香里さんが僕の大学院の後輩であることから、院生OBグループの間で本書発刊情報がまわった。梅本さんがケニアでのご経験をどのように纏められているのか興味があり、売上にも少しばかり貢献させてもらえればと思い、購入して読んでみることにした。

梅本さんの執筆分が何故「付録」扱いで上下二段組みになっているのか腑に落ちない部分もあるが、決して他章に引けをとるような内容ではない。梅本さんは冒頭で、途上国における職業訓練プログラムが成果を出せていない、ほとんどが失敗していると指摘している。NGO主導であろうと政府主導であろうと、たいていの職業訓練プログラムは特定の技能訓練を一定期間行なうというもので、どこに行っても訓練メニューは似通っている。
 若者たちは訓練の中で、道具の使い方をひと通り習い、作品をつくります。そして卒業時には、裁縫の訓練を受けた人ならミシンなどの道具を渡されます。これで起業しなさいということです。
 技術訓練と道具を得たものの、それがどういう商売なのかも知らず、帳簿のつけ方も知らず、ドナーが買い取ってくれていたのでマーケットのニーズも知らず、顧客基盤も運転資金のあてももたない卒業生たちは途方に暮れます。
 もともと人間関係の乏しい彼らには相談相手もいません。訓練を受けている間は稼ぐことができなかったので蓄えもありません。よって、もらったミシンを売り払います。かくして彼らが起業し生計手段を獲得する道はまた遠くなります。(p.285)
まあその辺のことは多くの開発関係者は気付いていて、ここ数年来、「スキル・ディベロップメント」というのが言われるようになってきているし、市場調査や顧客基盤の確保に加え、原価計算や簿記、ビジネス交渉など、儲かる商売にするためには修得しておかなければならないスキルや、そもそものセンスというものが必要だと指摘している既存文献も結構多い。そこがわかった後の方法論は様々で、梅本さんの取組みも独特のものである。そこは本書を読んでみてのお楽しみということにしておく。

梅本さんの章に限らず、他の各章とも非常に面白い内容。理論的な説明には難しさを多少感じるところはあるが、そこは差し引いても十分に勉強になる。1冊まるごとお薦めだ。

梅本さんの章以外では、第1章「社会を変える新しい経済学」(安田洋祐)と第3章「社会学は役に立つのか?」(井出草平)が特にお薦め。第1章はマーケットデザインのお話。以前読んだジョン・マクミラン著『市場を創る』をコンパクトにまとめたような内容だ。市場メカニズムを機能させるために制度設計を工夫するという話は1980年代に僕らが学生だった頃から実は興味があって、何かやってみたいなと憧れていた仕事であった。

第3章は執筆者が関わっているひきこもりの研究を事例に、社会学という学問が社会の役にどのように立つのかが述べられている。今関わっている仕事の関係で、実際にこのひきこもりの研究のリサーチクエスチョンと量的分析と質的分析の組み合せ方は参考にしたいと思う。研究成果をまとめた報告書は是非読んでみたい。

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