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『アサー家と激動のインド近現代史』 [インド]

アサー家と激動のインド近現代史

アサー家と激動のインド近現代史

  • 作者: 森 茂子
  • 出版社/メーカー: 彩流社
  • 発売日: 2010/07/28
  • メディア: 単行本
内容紹介
インドはどのような苦悩を乗り越えて経済発展をとげたのか?いまだ深刻な格差の状況は?
世界銀行、アジア開発銀行でのキャリアをもち、インド人と結婚した女性が、急変するインドの代表的都市(ムンバイ、プーネ)の発展の軌跡と人々の営み、信念、希望、失意、困難の歴史をミクロの視点で生き生きと描く
発刊当時ちょっと話題にはなった本である。激動のインド近現代史を、タタ財閥と同じくグジャラートのパルシーであるアサー家を先々代まで遡ってその生き方を描き、それに絡めて、アサー家三代が生活の拠点としたムンバイ、プネの歴史と街並みの変遷を描いている。

読んでみるとちょっと拍子抜けする。自分の結婚相手の一族や使用人、友人などのライフヒストリーの部分はミクロすぎて「へぇ、そうなの」というぐらいの感想しかなかった。いろいろな人から聞き取りをして、しかもインドの近現代史を相当に勉強され、その大きな歴史の流れの中でのパルシーの一家族の生きざまや、インドの経済発展の過程で、使用人にまでスピルオーバーで恩恵が行きわたって生活が急速に改善しているということを描きたかったのだろう。ただ、インドの近現代史を描きたかったのか、自分の結婚相手とそのファミリーを紹介したかったのか、どちらなのかがはっきりしていなかったように思う。

ひとつ間違えば、インドの豪商のファミリーと縁ができ、国際金融機関での仕事を通じて知己を得たインド高官とのネットワークを自慢しているのかとのうがった見方もされかねない。ムンバイといえば、以前日本人駐在員妻のムンバイ生活を描いた本をこのブログで酷評したことがあるが、自分の生活を取り巻く様々な人々にスポットを当てる手法は共通していても、本書はそれなどが足元にも及ばない深みがある本だといえる。それは、本書の著者が単に対象者のライフヒストリーだけにとどまらない、歴史の流れというマクロな視点をしっかり踏まえているからであるが、個々人のライフヒストリーからあまりにも離れてマクロな話だけで一部のセクションは書かれていて、バランスの悪さは本書にはある。

アルン・ショーリーのライフヒストリーとか、インドの繊維産業の興隆と絡めたムンバイの歴史、ムンバイのボンベイ行政府の夏の拠点として整備・発展していったプネの歴史とかは、類書がないだけに有用性は相当高いと思う。そういうテーマで何か調べようと思った時は、入門編として本書は薦められる。これを読んだら、マグサイサイ賞も過去に受賞しているアルン・ショーリーの著作も、もうちょっと読んでみたいという気もしてきた。

それにしても、固有名詞の表記がユニーク過ぎる。現地人が地名や人名をどう発音するのかを現地で生で聴いた著者のこだわりの部分なのだろうと思うが、ここは一般表記に合わせて欲しかったな。プネを「プーネ」と表記しているぐらいならかわいいものだが、ラクナウ(またはラクノウ)を「ラクナオ」、インディラ・ガンジーの長男サンジャイを「サンジャエ」と書くのはこだわりが過ぎてかえってわかりにくい。僕らがよく使っている、ゾロアスター教徒を指す「パルシー」という言葉も、「パーシー」と書かれると最初は何のことかわからない。そういうのが非常に多い。「サルファリック・アシッド」など、要するに「硫酸」のことで、そう書いてもらった方がわかりやすい。

「sh」や「th」の発音を含む地名・人名表記には特にこだわりがあるのだろう。「アサー(Asher)」も、僕なら「アシャー」と読んでしまう。校閲段階での見落としからか、「アシャー」という表記が残っている箇所が存在する。また、プネの市街地でよく見られる「Peth」という、通りを表す言葉は「ペット」と書かれているのに、デリー市街地に見られる「Path」という、多分同じく通りを示す言葉は「パース」と書かれている。下らないことだけど。

同じパルシーの出であっても、タタはインド国内に残って一族の繋がりが強固であるという印象を受けるが、アサー家は三代目にもなると滞米生活が長くなり、1年のうちでムンバイやプネに滞在できる期間も結構短くなって、ファミリービジネスとしてはあまり栄えているとはいえない印象を受けた。確か国立シンガポール大学にも別のアサーという有名な経済学者がいらっしゃるが、アサーとはそういう家なのだろうか。

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