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『10年後に食える仕事、食えない仕事』 [読書日記]

10年後に食える仕事、食えない仕事

10年後に食える仕事、食えない仕事

  • 作者: 渡邉 正裕
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2012/02/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより) グローバル化で職の72%は価値を失う!くいっぱぐれるな!これが日本人だからこそ有利な仕事。カラー図版であらゆる職を4分類。
僕が時々読ませていただいているうしこさんのブログで、少し前に紹介されていた本。カラーの図表を挿入し、本文も少なくとも五色刷りになっているのに、それでも1500円に抑えたということは、出版社も相当売れると踏んでいたのだろう。就活を控えた学生だけでなく、向こう10年以内に子が就活期を迎える親、10年後も住宅ローンが残っていて働いていなければならない現役世代等にも気になるテーマだ。想定読者層がかなり広いので、売れないわけがない。

僕が本書を図書館で借りたのも、我が子の進路と自分自身の今後を考えてみたかったからに他ならない。そして、3冊まとめ借りして積読にしてあった本書を見つけた妻が、珍しく(?)僕より先に手にとって読み始めた。

非常に枠組みがわかりやすい本である。グローバル化時代の職業を、知識集約的か技能集約的かという「スキルタイプ」と、日本で生まれ育っていないと身につけづらい特殊性という「日本人メリット」という2つの座標軸に基づいて分析し、4つの象限によって整理している。

第1の「重力の世界」(技能集約的、日本人メリット小)にある職業は、平均賃金が日本の1/20であるインド人、中国人との競争になり、グローバルな最低給与水準に収斂されていくという。低付加価値なブルーカラー職種が多い。

第2の「無国籍ジャングル」(知識集約的、日本人メリット小)にある職業は、世界70億人と成果を巡って仁義なき戦いを繰り広げなければいけない。それには才能も運も必要とされる。勝ち残れれば所得は青天井。顧客と直接接点のない職種が多い。

第3の「ジャパンプレミアム」(技能集約的、日本人メリット大)にある職業は、日本人ならではの高いサービスマインド、職人気質、チームワーカースピリットを生かし、「同じ日本人」という信頼感を活用した対面のサービスを基本とする。日本人にしかできない仕事である。営業マンや旅館の女将などがこれに相当する。

第4の「グローカル」(知識集約的、日本人メリット大)は、日本人の強みを生かしつつ、高付加価値技能で勝負するもので、高度な日本語や日本での人的ネットワークを生かした、日本市場向けの高度な専門職である。

本書で何度も取り上げられるこの分析枠組みはシンプルでわかりやすく、誰もが納得しやすい。本書が売れると出版社が見込んだ根拠の1つが、そのわかりやすさにあると思う。

最近の日経新聞では「グローバル人材」という言葉がやたらと目につく。日本では人口減少でマーケットが縮小を続けていて、日本市場だけをターゲットにしていては商売にならない。海外にも目を向けて、成長著しい新興国もマーケットとして見据えてビジネス展開することが必要だと考える企業が増えている。それに伴い、海外事業要員として、異文化環境下でも図太く生きていける人材が求められているという。単なる語学力ではなく、異文化適応能力が高い人材が求められているのだとか。

我が社で行なっている事業にも「グローバル人材」の育成に貢献できることが売りとなっているものがある。当然ながら企業からもその事業が注目されることとなっている。でも、その事業に参加する日本の若者が全員が全員「グローバル人材」になれることが必要なのか、という点においては、疑問なしとしない。

まるで、今の経済界の風潮は、本書でいう「③無国籍ジャングル」で活躍できる人材を養成し、確保しようという方向に向かっているように思える。我が子だけを見て最近の若者全般へと一般化することは難しいが、今の日本の社会は、「無国籍ジャングル」で成果を巡って仁義なき戦いを繰り広げられるような人材の輩出にはあまり向いていないように思える。

本書を読んでみて良かったと思ったのは、進路の選択肢を広げた点である。漠然と使われている「グローバル人材」というのをもう少し類型化して、日本で生まれ育っていないと身につけづらい特殊性という座標軸を新たに加えたことで、単にグローバルな市場で競争するのに必要な人材というよりも、進路の選択肢がもっと広まったと思う。単に「グローバル人材」とだけ言われると、我が子の将来を考えると暗い気持ちになるが、日本人であることのメリットを生かせる仕事を考えれば、可能性はまだまだ大きい。

とはいえ、わかりやすい分析枠組みには落とし穴もある。本書を読んでいて2点気になったことを最後に述べておく。

第1に、10年後の人口動態が今と同じであることが暗黙のうちに本書では前提とされている。「①重力の世界」に「平均賃金が日本の1/20のインド人、中国人との勝負」とあるが、今から10年後の中国は今以上に労働力不足と賃金上昇が進んでいるので、「1/20」かどうかは疑問だ。そういう、暗黙のうちに労働供給国として想定されているような途上国が、10年後には国内の産業構造が変わり、労働力を輸出することが今よりも難しくなっていることは予想できないだろうか。

第2に、ここで書かれていることがその通りになるとしたら、日本の所得格差は今以上に拡大しているのだろうなという寂しさである。「②無国籍ジャングル」と「①重力の世界」との間の所得格差は相当に大きいと予想される。著者はこうした所得格差の問題については何も言及しておらず、10年後の労働市場のあり方は与件として捉えている。今でも虚しさを感じている日本の格差拡大が今後も進むのが不可避なのだと考えたら、単純にこの4つの象限で職業を整理する以上に、労働市場を取り巻く社会や経済の環境自体が大きく変動しているのではないかと思えてならない。


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