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『ブラック・スワン降臨』 [読書日記]

ブラック・スワン降臨―9・11‐3・11インテリジェンス十年戦争

ブラック・スワン降臨―9・11‐3・11インテリジェンス十年戦争

  • 作者: 手嶋 龍一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/12
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
ビンラディンの頭上を、突如急襲した黒い鷹。それは9・11以降10年に及ぶ謀報活動にアメリカが凱歌をあげた瞬間だった。だがまさにその時、フクシマの地は、ブラック・スワンの羽に覆われていた。原子炉にヘリで注水する果敢な「特攻作戦」も、日本が現代インテリジェンス戦に敗北しつつある象徴だった。日米同盟の亀裂と外交的孤立に20年以上前から警鐘を鳴らして止まなかった著者の、書き下ろしノンフィクション大作。
今日が図書館返却日なので手短に記事を書く。

本書を読んで、初期の落合信彦の著作を思い出した。変な小説よりも、ちゃんとした取材に基づいて僕らの知らない世界を紹介してくれていた落合のノンフィクションは、学生時代に読んだ僕らはかなりハマる内容だった。(今から思えばマユツバな情報もかなりあって、それを容易に信じ込んだ落合の分析力には疑問も感じるが。)1988年のソウル五輪が中止に追い込まれるとの大胆な予測が見事に外れ、それを「五輪失敗に向けた北の工作を水際で食い止めたインテリジェンスの勝利だ」などと後付け講釈をされたもので、僕は落合への信頼感を失っていった。

最近、落合の著作は全く読んでいないが、一方で手嶋龍一がインテリジェンスの重要性を具体的な事例を以て指摘している本書は読みごたえがあった。東西冷戦の頃の諜報戦争とは様相を異にするが、国益を守るために些細な情報も収集し、分析し、国のリーダーの判断に繋げていくのは今も同じだ。ただ、リーダーが欲しがる情報を集めるのに躍起になり、足元を見透かされてガセネタを掴まされたり、分析・解釈の仕方を誤ったりする事態が度々起きるというのは新鮮な驚きだ。オサマ・ビンラディンを要注意人物としてマークしていながら、彼のスーダン滞在中に身柄確保していなかったクリントン政権時代の政策プライオリティが、9.11同時多発テロ事件を招く遠因になっているとか、イラクのサダム・フセイン政権が大量破壊兵器を極秘裏に開発しているという結論が最初にありきで躍起になってそれを裏付けする情報を集めようと奔走し、結局裏付けのとれない瑣末な情報に大山鳴動して踊らされる事態になったとか、コンドリーザ・ライス国務長官が自分の実績がなかなか作れない中で北朝鮮問題で六カ国協議の枠組みを導入してみすみす中国に主導権を譲渡し、北朝鮮を増長させる結果を招いたとか、後で振り返ってみた時にあまりにも痛い大国の失点が多いのには驚かされる。その意味では3.11も同様だ。

9.11同時多発テロの時は僕もワシントンにいて、しかもホワイトハウスから至近距離にいたために、当時3歳の娘を背負い、旅行で来ていた両親と弟、伯父夫妻を誘導して歩いて避難した。その時、ボストンを発ってからテロリストにハイジャックされ、行く先変更してワシントンに向かっていたユナイテッド航空の旅客機が、未確認情報ながら大量破壊兵器が搭載されているとの噂があったという話には背筋が凍る思いがした。僕らがのこのことホワイトハウス観光で近くにいた時、事態を重くみたチェイニー副大統領は秘密のシェルターに身を隠し、国務省はフォギー・ボトムを捨てて、拠点を別の地に移していたというのだから、僕らの状況把握の拙さも大したものだ。幸い緊張状態のワシントンをなんとか抜けて自宅に帰り着いた後はテレビ・ジャパンに釘付けだった。手嶋さんがゲッソリしながらテレビに出続けていたのもよく覚えている。

その後の話を3.11フクシマに繋げるのはちょっと苦しいが、時の政権与党のダメダメさを示すのには良かったのかもしれない。

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