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『民俗のふるさと』 [宮本常一]

民俗のふるさと (河出文庫)

民俗のふるさと (河出文庫)

  • 作者: 宮本 常一
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2012/03/03
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
日本に古くから伝えられている生活文化を理解するには、まず古いものを温存してきた村や町が、どのように発達して今日に到って来たかを知っておく必要がある、という視点から具体的にまとめられた、日本人の魂の根底に遡る生活空間論。町と村の実態調査からコミュニティー史を描く宮本民俗学の到達点。
河出書房が最近宮本常一の著作を復刊して文庫で紹介している。今日本国内各地で行なわれているコミュニティの再構築の試みは、そのほとんどがその地域の持つ歴史や資源の多様さ、豊かさを理解するという「再発見」の作業から始まっているように思えるが、まだコミュニティがその姿をとどめていたひと昔前の日本を知る意味で、宮本の著作が復刻され、読み継がれて行くのは大変意義のあることだ。

さて、河出文庫復刻版の第二弾として3月に発刊された本書、早々に購入してそのまま積読状態にしていたが、今月第三弾が出てしまったので、第二弾だけでも先に読み切っておこうと考えた。

本書における著者の問題意識は、先のBOXでの紹介にも書かれている。付け加えて宮本があとがきで言っていることは、「日本という国はもともと農村国家で、今から100年ほどまえにはほんの少数の例をのぞいては、町らしい町のなかった国であったから、町として特別にかわった風俗習慣というようなものは案外すくなく、たいていは田舎からもって来た風俗習慣であり、日本の都会人は田舎へつよいつながりを持っているものが多い」(p.257)ということで、都市に移り住んで来た人々も、その出身地からの風習を引きずっていたことを示唆している。そうした都市生活も、高度成長期に入って、都市も農村も大量消費で変化が見え始め、ラジオやテレビ、果てはインターネットの普及により、隣人よりもマスメディア、果てはネットを通じた遠くの知り合いとの繋がりで大量の情報がやり取りされるようになっていくと、都市に住む限りはどこにいても得られる情報ややり取りされる消費財は同じで、しかも都市化が進んで昔の農村部も都市のような様相を呈し始めているので、ちょっと見渡しただけでは地域の特徴を見出すことは難しくなってきているような気がどうしてもしてしまう。SNSを通じた知り合いは全国どころか世界中にも広がっているが、ご近所のことはなかなか知る機会がない。それは僕自身も日々悩んでいることでもある。

 日本という国が過去100年ほどの間にすばらしい成長をとげ、また第二次世界大戦に敗れて完全にたたきのめされてから、わずかの間にこんなに見事に立ち上がるもとになったのは、日本がかつて農村国家であり、農民的なエネルギー、つまりねばり強さと勤勉の力によるものであると思っている。(中略)
 日本の民衆はもと一般に非常に貧しかった。しかし貧しいにもかかわらず、それをそれほど苦にしなかった。村の人たちの協同によって、いざというときには支えてくれるものがあったからで、その協同の力を生み出していったのが、いろいろの慣習であった。慣習は法律でつくられたものではなく、人が共同して生きていくために、自然的に考え出した人間の知恵であり、しかもそれを持ちつたえて来たものであった。そうした慣習や行事は、時にはたいへん大切にされることがあるかと思うと、時にはお粗末にされ、またこれを消してしまおうとする努力の払われることもあるが、生活の中にしみ込んでいるものとして、日常の何でもない行為や物の考え方の中に生きていることが多い。
 それが時にはわれわれの生活文化を停滞させることもあるが、誰に命令されなくても自分の生活を守り、発展させるためのエネルギーにもなる。ほんとの生産的なエネルギーというものは命令されて出て来るものではない。その命令せられないであふれ出るエネルギーの社会的な根源を、この書物で多少ともつきとめて見たいと思った(後略)(pp.257-258)

こうした問題意識に基づく、本書の構成は以下の通りである。

 第1章 都会の中の田舎
  第1節 東京の田舎者
  第2節 ふるさとの殻
  第3節 盆がえり・正月がえり
  第4節 県人会
  第5節 地元の者と他所者
  第6節 市民意識の誕生
  第7節 市民の祭り

 第2章 町づくり
  第1節 町の芽
  第2節 商人町のおこり
  第3節 都城づくり
  第4節 城下町づくり
  第5節 宿場町
  第6節 港町
  第7節 門前町
  第8節 町のしくみ
 
 第3章 村と村
  第1節 ムラの成りたち
  第2節 ムラの格式
  第3節 賎民のムラ
  第4節 僻地の村
  第5節 境争い
  第6節 血のつながりと村連合
  第7節 村の窓をひらく

 第4章 村の生活
  第1節 人は群れて住む
  第2節 村落共同体
  第3節 親方子方の村
  第4節 村の結束ゆるむ
  第5節 村八分
  第6節 村結合から人の結合へ

 第5章 村から町へ
  第1節 群の絆
  第2節 群からはなれる
  第3節 古いものと新しいものの場
  第4節 古い民俗と新しい生活

相変わらず、惚れ惚れする面白さ。この人の著作は、買って手元に置いておきたくなる。というか、文中で紹介される事例が全国津津浦浦に及ぶため、容易に感情移入できないところがあり(通読するには時間もかかる)、レファレンスブックとして保有する方がいいように思える。だから、索引があるとなお良かったと思う。

本書は初刊が僕の生まれた年とさほど変わらない。高度成長期に入って、都市も農村も大量消費で変化の兆しが見え始めた頃の話。地域の特徴が徐々に失われていく兆候が随所に見出せる。それだけに、既に失われてしまった地域の特徴が何であったのかを思い起こす意味でも、本書は多くの人に読んでもらいたいと思う。


タグ:民俗学
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