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ウズベキスタンの養蚕 [シルク・コットン]

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6月22日(金)午後、東京農工大学府中キャンパスの講堂で、ウズベキスタンの養蚕に関するワークショップが開催された。「ウズベキスタンの養蚕業と日本の果たす役割-JICA草の根事業を終えるにあたり」というタイトルで、農工大がJICAの草の根技術協力事業を受託してウズベキスタンのフェルガナ地方で3年間行なってきた技術協力の成果を報告し、残された課題と今後の協力のあり方について議論するワークショップだった。

僕は会社の知り合いから紹介されて、末席で議論を聴かせていただいた。南インドの養蚕なら多少は知っているが、ウズベキスタンはどう違うんだろうかと興味津々で出かけた。今後も協力を続けるべきかどうかという点については僕の立場では発言できないけれど、そこで紹介されたウズベキスタンの養蚕についてはとても面白かったので備忘録としてメモしておきたい。

1.桑
桑園はウズベキスタンの桑の作付面積の35%程度で、あとは街路樹や私有地間の境界木として植えられているのだそうだ。街路樹や境界木として植えられているということは、幹がそれなりに太く、地面から太い幹が伸びたところから枝が茂り始める。それでも条桑飼育が行なわれているので、一般農家は、街路樹にはしごをかけて上り、そこで小さな斧を使って条(枝)の根本から伐採するのだという。

日本だったら、地面から15cmぐらいのところで枝分かれして樹高が高くならず枝打ちがしやすいような「株直し」が行なわれる。インドも昔は太い古株を伸び放題にしておいてそこから分かれた枝の葉を一枚一枚摘み取ってかいこに食べさせるような面倒なことが行なわれていたが、今では日本と同じような株直しが行なわれている。桑園には株と株の間に十分な間隔が取られて条桑伐採を行ないやすいように工夫が施されている。

ウズベキスタンにも桑園がないわけではないが、紹介された写真を見る限りでは密埴栽培で条桑伐採も行ないにくいだろうと思われる。桑の品種についてはこれまで殆ど興味が持たれておらず、養蚕研究所の実験桑園でも、刺し木や接ぎ木で品種を改良しようという取り組みは殆ど行なわれていないらしい。

ウズベキスタンの街路樹は根元から1.5mぐらいの高さまでは枝が出ていない。これは、それより低いところから出た枝葉は羊や牛に食べられてしまうかららしい。



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2.蚕品種
農工大の先生方に聞いたところでは、ウズベキスタンでは遺伝学や発生学で1970年代に世界最先端を走っていた著名な研究者がいたらしい。旧ソ連邦の国々では遺伝資源の保存がよく行なわれていたが、ペレストロイカ以降そうした優良系統の原種が散逸して、品種改良を行なうには日本の優良品種を導入して掛け合わせを行なうしかなかったらしい。

農工大が草の根技術協力で最初に行なったのは、日本の秋蚕期の主力品種である「錦秋X鐘和」の春飼育だった。試験飼育の結果は良好で、日本での飼育とひけをとらない収繭量が得られたという。ウズベキスタンでは従来、綿花栽培の端境期にあたる春に1回だけ養蚕が行なわれている。日本の品種なら気候的に年2回は飼育ができるのではないかと考えられ、1年目の夏に「錦秋X鐘和」の秋飼育が試みられた。結果的には、五齢期の途中でかいこが全滅してしまった。原因は2つあるという。1つは、夏に大量発生する桑の害虫が葉を食い荒らすこと、もう1つは、街路樹や境界木の後背地で作付されていた綿花の病害虫対策に使用されていた農薬が桑の葉にもかかり、その葉を大量に食べた壮蚕期のかいこが農薬に侵されてしまったのだ。ウズベキスタンの農業の主力はあくまで綿花で、養蚕は農閑期の収入機会の提供にしかならない。他に収入が得られる作物があるのに、わざわざ養蚕を年2回やろうというのはなかなか難しい。

プロジェクトでは、2年目には日本の春蚕期の品種「春嶺X鐘月」を持ち込んで飼育を試みた。結果として、飼育は可能であることは実証されたが、収繭量は期待されたほど多くはなかった。その原因として考えられるのは、ウズベキスタンでは超高密度の密集飼育が行なわれており、壮蚕が十分な桑を食べられなかったからではないかという。「春嶺X鐘月」は、「錦秋X鐘和」に比べて食欲が旺盛で、大きな繭を作る品種だという。しかし、大きな繭を作るにはそれなりに十分な給桑が行なわれていなければならない。

3.飼育環境
インドや日本と違い、ウズベキスタンは湿度が低く、15%程度しかない。従って、桑の葉も飼育棚に敷き詰めて置きっ放しにしておくとすぐに乾燥して萎れてしまう。だから、かいこを密集させて一気に食べさせ、頻繁に桑を与えるような特徴的な給桑が行なわれるのだという。

これだけ湿度が低いと、蚕病もなかなか発生しないし、日本の製糸工場でよく行なわれていた「乾繭」という工程も必要性が低い。放っておけば生繭が乾燥してしまうのだとか。

4.それ以上に大きな違いは…
これだけ述べてくると、ウズベキスタンの養蚕のやり方にも非効率なところが多いように思える。特に桑の栽培については、もっと効率的にやれるのにと思える余地が多い。条桑を伐採しているのは女性である、はしごを上っていって、落下する危険性もある。それでもそうならないのは、効率性とか繭の質の改善を図るのに必要なインセンティブメカニズムがないからではないかと感じた。

一般養蚕農家が製糸工程に繭を卸す際の価格がどう決まっているのかというと、基本的に生産委託して繭は定額買取り方式になっている。農家には定量の蚕種を提供され、できた繭はキロ当たり定額で製糸工場が買取る仕組みである。このため、効率的に条桑伐採してかいこに目一杯食べさせ、十分太らせてから良い糸を吐かせて良い繭を作らせようというインセンティブが働かない。いくら頑張って良い繭を作っても、繭買取り価格でそれが評価されないのでは、農家はそうしようとは考えないだろう。

この辺はさすがに旧ソ連邦の共産主義経済の名残りが垣間見えるところだった。

5.最後に
ウズベキスタンには「アトラス」と呼ばれる伝統的な絹織物がある。シルクロードの交易ルート上での養蚕の復興を目指すウズベキスタンではこのアトラス織を使った伝統衣装を着る人がだんだん少なくなってきている。市場が収縮していては養蚕をやるのも難しい。そこで、アトラス織を使った新しい商品を開発し、ウズベキスタンを訪れた外国人観光客にこれを販売できないかとプロジェクトでは取り組んでいる。

その一環として、農工大は日本での販路拡大も検討されている。今年1月にはアトラス織を使った商品コンペを行ない、300点以上の応募があったという。アトラス織もこれだけのクオリティの製品に仕上げられなければ日本では売れないというのをウズベキスタンの関係者に知ってもらう良い機会にもなったようである。

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《デザインコンペに出展された作品の数々》

農工大では、取りあえずシュシュや携帯ストラップ等をアトラス織で製作し、農工大生協やJICA地球ひろば、成田空港・関西空港のJETRO一村一品ショップで販売中である。ド派手な色彩ではあるものの、機会があったら皆さんにも一度ご覧になっていただけたらと思う。

【参考資料】
「目で見る農業技術の発達史」
http://trg.affrc.go.jp/v-museum/history.html

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