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『アジアに共に歩む人がいる』再読 [読書日記]

アジアに共に歩む人がいる―ヒ素汚染にいどむ (岩波ジュニア新書 (521))

アジアに共に歩む人がいる―ヒ素汚染にいどむ (岩波ジュニア新書 (521))

  • 作者: 川原 一之
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2005/11/18
  • メディア: 新書
内容(「MARC」データベースより)
3000万人がヒ素汚染水を飲んでいるバングラデシュでの安全な水探しや貧困問題…。NGO「アジア砒素ネットワーク」の活動を通して、アジアに広がっていくヒ素汚染を追う。
本書は5年前に一度読み、ブログにも感想を述べている。かなりしっかりと書き込んだので、本書の紹介記事はそちらをご覧いただければと思う。
http://sanchai-documents.blog.so-net.ne.jp/2007-08-01

著者である川原さんが本書を書いたのは2005年のこと。本書でも若干紹介されているが、川原さんが一時事務局長を務められたアジア砒素ネットワーク(AAN)では、JICAの委託を受けて「移動式砒素センター(MAC)プロジェクト」というのを実施され、さらにそこから「持続可能な砒素汚染対策プロジェクト」という後継プロジェクトも実施された。JICAのバングラデシュでの事業の柱の1つとしての砒素汚染対策は1998年の取組みから10年経過した時点でひと区切りとなり、プログラム評価が行なわれている。10年間の締め括りが「持続可能な砒素汚染対策プロジェクト」の終了だったことから、そのあたりのタイミングでもう1冊ぐらいその経験を書いてもらえないかと僕は期待している。

僕がインドに駐在している頃、コルカタ郊外にあるジャダヴプール大学にディパンカール・チャクラボルティ教授を訪ねたことがある。チャクラボルティ教授はこのブログでも時々紹介している南アジアの地下水砒素汚染問題の権威で、インドの政府高官やエスタブリッシュメント系NGO、高名な学者にありがちな伝統的儀礼重視の姿勢に真っ向から反旗を翻し、否定する人だった。そんな虚礼に出すカネがあるなら、飲料水の砒素汚染に苦しめられている人々を救う努力にカネを出せと発言する熱い人だった。

そんなチャクラボルティ教授を訪ねたのは、インドの砒素汚染問題について、どこで誰が行なっている取り組みがグッドプラクティスなのかということだった。ひと通り訪問理由を説明した後、教授は僕にこう告げた。「Sanchai君、砒素汚染問題を本当に学びたいなら、隣りのバングラデシュに行って、ジョソール県の村に1ヵ月滞在するといい。そこでAANがやっている取り組みこそが砒素汚染対策のベストプラクティスだ。」



本書でもチャクラボルティ教授は登場する。AANが南アジアの地下水砒素汚染問題に初めて関わるきっかけになったのは、1995年2月にコルカタで開催された砒素問題の国際会議へのAAN設立メンバーの出席だったが(当時はまだ有志一同であり、AANという団体としては設立されていなかった)、この会議を主催したのがチャクラボルティ教授だった。若かりし頃の教授の姿は口絵として挿入されている。また、主催者として会議運営と近隣農村へのフィールド視察に活発に動き回るエネルギッシュな教授の様子も、本書では描かれている。しかし、地下で固定されていた砒素がなぜ地下水に溶出したのかというメカニズムにおいて、教授が主張する「酸化説」と、それに疑問を投じた日本人専門家チームとの間では相当の激論があったらしいし、その後川原さん達と教授がジョソールで再会した際も、「酸化説」か「還元説」かを巡り、再び意見の対立が生じたという。

本書を読む限り、川原さんはそれでもチャクラボルティ教授を高く評価されているし、教授も川原さんやAANの方々を高く評価されている。砒素の溶出メカニズムを巡っては意見の対立があったとしても、「砒素中毒のリスクにさらされている人々を救いたい」というミッションは共有されている。ともに闘う同志でもある。題名にある「アジアに共に歩む人」の1人は、間違いなくチャクラボルティ教授なのだ。

さて、今回僕が再読した目的である川原さんの次回作への期待だが、本書を読むと、ちょっとそれは難しいのかなという気がした。前述のMACプロジェクトや持続可能な砒素汚染対策プロジェクトでは、20~30代の学生や若手研究者が現地で活躍したという。そういう、実際に村々を訪ねて住民と頻繁に接した若い世代の人々にこそ、これらのプロジェクトの経験を語って欲しいと川原さんは本書のあとがきで述べておられる。そうした通称「ミソジーズ」のメンバーの中には、その後インドのウッタル・プラデシュ州の地下水砒素汚染対策に携わって現地に長く滞在した方も含まれている。そうして、バングラデシュでのAANの活動から羽ばたいて行った人は多いようだ。そういう方々のお話も聞いてみたい気がする。

なお、川原さんは今でもAANのバングラデシュでの活動に関与し、現地に長期滞在しておられるようだ。


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