SSブログ

『歴史の証言-途上国援助1980年代』 [読書日記]

ODAHistory1980s.jpg

歴史の証言―途上国援助 1980年代

  • 作者: 荒木 光弥
  • 出版社/メーカー: 国際開発ジャーナル社
  • 発売日: 1997/12
  • メディア: 単行本
本の内容
80年代、数次にわたるODA倍増計画により援助大国への足場を固めた日本。しかし、“ODA倍増時代”は“ODA受難時代”でもあった…。1.ODAをめぐる疑惑の構造、2.ODA批判の潮流、3.援助政策をめぐる国際動向、4.援助哲学と政策の論調、5.ODA実施体制への苦言、6.日本の開発コンサルタント、7.ASEAN点描
先週前半に読み切っていた本だったが、なかなか紹介記事を書く時間が作れず、とうとう翌週末になってしまった。

本書は、『国際開発ジャーナル』という月刊誌の長年編集長を務めてきた著者が、同誌の巻頭言で書いてきたことを集め、ある程度のカテゴリーで整理して、単行本という体裁に纏めたものである。元々国際開発とか開発協力とかいっても、そこで扱われる主題としては、日本のODA政策のことであったり、海外経済協力基金(OECD)(当時)の円借款のことであったり、国際協力事業団(JICA)(当時)の技術協力のことであったりする。また、ODA実施機関だけではなく、援助にはコンサルタントや商社・ゼネコンも関わっているし、1980年代はNGOが台頭する萌芽も見られた。それに、先進国や国際機関が絡み、そして当然のことながら、途上国も絡んでくる。要するに主題が多岐にわたるので、分類するのが大変だっただろうと想像する。そして、基本は一話読み切りで、一貫したストーリーがあるわけではないから、僕も読んでいてのめり込み度合いは各章各節によって当然濃淡があったし、それが日が経ってしまうと、余計に覚えていないということにも繋がっている。

だが、1980年代という10年間を振り返ってみた場合、途上国開発に関しては幾つかの象徴的な出来事やその底流にある特徴的なトレンドがある。僕はその頃高校から大学、大学院で合計10年間を過ごし、ちょうど80年代が終ろうとする1989年に民間金融機関に就職している。その間、傍観者という立場で途上国開発――当時は「南北問題」という言葉の方が圧倒的によく使われていたが――というのを見ていた。

「強いドル」――1980年代前半、米国レーガン大統領の政策でドル高が進行した。

「累積債務問題」――僕が大学に入った1982年頃から84年頃にかけて、中南米諸国で問題となった。ドル高と高金利でドル建債務を持っていたラテンアメリカ諸国では債務返済どころか利払いにすら窮するようになり、デフォルト(債務不履行)を宣言する国も出てきた。

「アフリカの飢餓」――当時アフリカといったらエチオピアの飢餓問題だった。アフリカ諸国の債務問題は未だ深刻化していなかったし、よほどのことがない限り、僕らが関心を向けるような地域ではなかったと思う。(通っていた大学が大学だったので、どちらかというとラテンアメリカを向いていたということもある。)飢餓救済キャンペーンでエポックメーキングだったのは1985年7月のLIVE AID(ライブ・エイド)だった。出演したアーティスト達が歌った「We Are the World」は85年8月から米国留学した僕が現地でよく聞いた曲だった。

「黒字還流策」――日米貿易摩擦は僕らの学生時代の国際関係を象徴する言葉だったと思う。牛肉だの、オレンジだのと、市場開放したからといってどうなのという気が正直した。実際米国留学して食べたオレンジは美味しかったし、ステーキはうまかった。実際問題として貿易黒字はどんどん膨れ上がる。黒字還流策を日本政府はいろいろ考えなければいけなくなった。僕は具体的な還流策について当時は無知だった。円借款や輸銀のアンタイドローンを積み上げ、加えて世界銀行やアジア開発銀行といった国際金融機関への資金拠出によって行なわれていたらしい。

「JICA贈収賄事件」――1986年夏に発覚したこの事件は、当時学部卒業を控えて就職活動をしていた僕達の足をJICAから遠のかせるきっかけとなった。当時はフィリピン・マルコス大統領絡みの汚職疑惑もあって、ODAに対する猛烈な逆風が吹いていた。。

とにかく巨額の黒字還流策を行なうなら大型の経済協力ということで、資金協力のような大砲がもてはやされたのが1980年代だった。だから、本書を読んでいると、韓国向け経済協力だの、フィリピン向け経済協力だの、ASEAN向け経済協力だの、華々しい資金援助の話が大半を占めている。そして、そこでのコンサルタントの役割とか、日系ゼネコンの役割とかが描かれ、しかも政治家がやたらと出てくる。ODAを呼び水にした経済協力には大物の政治家が大勢絡んでいて、きな臭い話も飛び交っていたらしい。

そういう1980年代を振り返ってみるのにはとても有用な本だと思う。本書には1970年代、1990年代を描いた姉妹本があるが、合わせて読んでみると、今の開発協力業界のランドスケープとの違いもよくわかると思う。

来週はブラジル・リオデジャネイロで、国連持続可能な開発会議(リオ+20)が開催される。本書を読んでいると、「持続可能な開発」という言葉は一度しか出て来ない。NGOの登場頻度も少ない。市民が国際協力に参加し、開発の持続可能性に注目が集まり始めるのは1990年代のことだ。

タグ:荒木光弥 ODA
nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0