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『21世紀 仏教への旅 ブータン編』 [ブータン]

21世紀 仏教への旅 ブータン編

21世紀 仏教への旅 ブータン編

  • 作者: 五木 寛之
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/06/29
  • メディア: 単行本
内容説明
仏教を国教とする国、ブータンの謎に迫る!ヒマラヤ東麓のブータンは九州ほどの小国。人口70万余人が仏教のもとに平和に暮らす。チベット伝来の密教。生まれ変わりを信じる人々に五木氏は何を見たのか?
作家五木寛之が世界各地を回って、仏教がどこから生まれ、どこを経由してどこに広まっていったのか、それが今そこでどのように信仰されているのかを見るという企画は、NHKがテレビ番組として放映し、五木氏がその取材体験を元に紀行文を書くというものだったらしい。五木寛之という作家のネームバリューもあるのかもしれない。実家の父でもこのシリーズは1冊購入して父の数少ない蔵書の1つに加えていたくらいだから、「仏教」というキーワードの方が想定読者層の琴線には触れるものなのかもしれない。

ブータンについて多くの本を読んだ後に本書を読むと、前半部分は物足りない気持ちがどうしてもする。本当に紀行文になっていて、どこかで聞いた話というのが多いからだ。それに、パロの空港に下り立ってその周囲の風景に懐かしさや日本との共通性を認めて親近感を抱いた著者が、その後僧院での読経や民家のカラフルな祭壇を見てさかんに「違和感」という言葉を用いているのを見ると、読んでいていたたまれない気持ちがしてしまう。

それぐらい、前半の展開はあまりピンと来なかった。

面白くなってきたのは後半、五木氏が面談する相手に「どうして人を殺してはいけないのか」という質問をぶつけ始めてからだ。

先ず最初に聞いた相手はニマルン僧院前管長ロポン・ペマラ師。以前読んだ今枝由郎著『ブータンに魅せられて』で、今枝氏が1980年代に約10年滞在したブータンで、国立図書館館長として今枝氏の上司だった人である。そして、2人目はGNH(国民総幸福量)の研究を推進するブータン研究所のカルマ・ウラ所長である。

その答えはいささか長文なので、この記事の中でそこまで紹介することは省くが、特にカルマ・ウラ所長との対談は示唆に富むものだったようだ。仏教の思想における最大の特徴は、「すべてのものは、互いに依存しあい、関連しあって生きている」という認識の仕方だという。全ての現象は相互に関連して起こるという本質的な認識に基づいていえば、幸福であるということも個人だけではあり得ない、他者との関係の中でしか、個人は幸福になれない。一部の人々が不幸な状態にあるときに、自分が幸福だということはあり得ない、他人の不幸を置き去りにして、自分の幸福を追求することは、非常に大きな負債を伴うという。だから、大切なのは、人間関係の改善を図ることだし、この関係性を自然界の生きとし生けるもの全てに当てはめて、虫は殺さない、鶏肉も食べない、環境と人間生活の共生といったブータン人の生活スタイルにも繋がっているのだろう。

後半には、こうした、殺生を好まないブータン人の姿が頻繁に描かれている。また、興味深かったのは、神社仏閣を参拝する際、日本人は「家内安全」「商売繁盛」「病気平癒」「学業成就」といった自分に対する現世利益を祈ることが多いが、ブータン人の場合、著者が実際に聞きとりしたところでは、「亡くなった人たちが、よりよい境遇に生まれ変わり、苦しみがなくなりますように」、「今の世の中から障害や祟りなどの悪いことがなくなるように」というように、他の人のため、世の中のため、生きとし生けるものすべてのために祈っているというのだ。

お寺で祈る内容の違いは昔からあったもので、日本で自殺者が常時3万人を超えるようになってしまったことの説明にはならないが、他者との関係性については示唆に富むものがあるように感じた。確かに、今の日本では他者との関係性が断ち切られてきている。会社は存続するために従業員の首を切るし、従業員の中に、正規と非正規といった幾つかの階層を設けているので、社内での関係性もギスギスしている。自分が住んでいる地域でもご近所にどんな人が住んでいるのかをあまり知らない。ブータンに住んでいると自分が昨日プライベートで何をやったのかが翌日には職場で広まってしまっているというぐらいプライバシーがない、噂が口コミで広がりやすいと聞いたことがあるが、そういうネットワークがあるんだろうな。

虫も殺さないブータン人の背景に何があるのかが理解できる1冊だった。


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