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『ASEAN再活性化への課題』 [読書日記]

この連休後半、図書館から借りている本を3冊読了し、駅前の図書館でさらに10冊借りて現在うち2冊を読み込み中(5月6日現在)、さらに2冊を書店で購入している。やり過ぎだとはわかっちゃいるが、図書館に出かけて書架を物色していると、ついついあれもこれもと読みたくなる。新規で借りた10冊は延長も含めたら最長4週間は駆り続けることができるので、そこそこは読めるだろう。

読了した3冊のうち、2冊は7日(月)が返却期限だったので最優先で読んだ。これから順次紹介していきたい。

ASEAN再活性化への課題―東アジア共同体・民主化・平和構築―

ASEAN再活性化への課題―東アジア共同体・民主化・平和構築―

  • 作者: 黒柳 米司編著
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2011/03/11
  • メディア: 単行本
内容紹介
ASEANが2020年を目途とする長期戦略として設定した「ASEAN共同体」―この共同体は「経済」「安全保障」および「社会・文化」という3つの局面での共同体として想定されており、アジア太平洋において積極的な役割を果たそうとしている日本にとっても決して傍観しうる問題ではない。地域協力機構としてのASEANが、とりまく地域国際環境の変容と域内諸国の対ASEANコミットメントの実態との両側面で機能しうるか否かを、「ASEAN幻想論」、「ASEAN二層化」、「民主化」、「反テロ戦争」のキーワードを基に明らかにする。
というわけで、本日ご紹介するのは、2015年に予定されているASEAN地域統合に関する1冊である。借りたのは4週間近く前で、借りた理由は2つほどある。1つは、ASEAN統合の三本柱とされている「政治安全保障」「経済」「社会文化」の3つの共同体形成のうち、前二者についての問題点を詳らかにしているという点であり、もう1つは、連休前から僕が悪戦苦闘を強いられているフィリピン・ミンダナオ和平問題に関する章が有用だと考えたからである。

さて、このところミャンマーが新聞紙面を賑わせることが多くなってきている。スーチーさんが自宅軟禁から解放されて国政選挙に立候補して国会議員になってしまうなど少し前なら考えられなかった話だ。一見進展が見られるミャンマーの民主化問題だが、これはASEAN地域統合においては喉に刺さった骨のようなものだった。

ASEANの運営方式は「ASEAN Way」と呼ばれ、①内政不干渉、②全会一致、という大きな原則がある。このために、各加盟国の内政において何かしらの問題があったとしても、ASEANは有効な解決策を見出せる地域機構になっていない。インドネシアやシンガポール、マレーシアといった古くからの加盟国は、この方式を見直すことを提案しているが、1990年代に加盟したカンボジアやベトナム、ラオス、ミャンマーは、国内に何かしらの問題を抱えている国々で、隣国からとやかく言われることになる「ASEAN Way」の放棄には反対の姿勢が強いと言われているらしい。

それを象徴するのがミャンマーで、2007年にはサイクロン・ナルギス発生後の外国からの緊急物資の受入れや、同年に軍事政権が僧侶ら10万人の反体制デモに対して行なった武力弾圧が引き合いに出される。ナルギス発生後の援助物資の受入を巡っては隣国タイ、シンガポールが仲介役を果たしてASEANとしての面目を保ったが、僧侶たちへの弾圧に関しては、ASEANは何もできなかったというのが著者たちの評価だ。

同様に、2008年に発生したタイ・カンボジア間の国境紛争は、死者を伴う武力衝突にまで発展してしまい、著者によれば、ASEANは「創設以来、域内諸国間で重大な紛争を回避してきた」という最大のセールスポイントを失ってしまったと指摘する(p.4)。

ことほどさように、本書はASEANの将来とASEAN共同体構想の行方に対して辛辣である。上で述べたのは共同体の三本柱のうち、ASEAN政治安全保障共同体(APSC)に対する著者らの評価であるが(第1章、第2章)、同様に、第3章ではASEAN経済共同体(AEC)の統合ブループリントにも辛辣な言葉を投げかけている。APSCに対する評価はよく聞く話であるが、AECに対する評価は新しい視点を読者に提供してくれている。
 ASEANは2015年までにASEAN経済共同体を形成するため、ブループリントを採択した。その内容は、野心的と呼ぶには程遠く志の低いものである。さらに、ブループリント採択後、世界同時不況が発生し、ブルネイ、カンボジア、マレーシア、シンガポール、タイが2009年にはマイナス成長を記録した。1980年代中葉の一次産品不況、1997年に発生したアジア経済危機、2001年の米国発IT不況に続いて、ASEAN経済が外生的衝撃に脆弱であることをまたもや露呈した。ブルネイとカンボジアは対応するべき政策手段を持たず、マレーシアとシンガポールは経済の開放度が高いため財政出動を避け、直接所得補償などによって対応し、タイは財政出動した。「単一の市場かつ生産拠点」が形成されれば、外生的衝撃に対して強くなれるのか。疑いを持ちながらではブループリントが示す経済統合には専念できまい。(中略)
 同時に、仮にブループリントの自由化及び経済統合の目標を2010年に達成し、ASEAN経済共同体感性を高らかに謳いあげたとしても、その果実は多くはなかろう。アジア経済危機が発生した1997年からリーマン・ショックが発生した2008年までの間、ASEANは東アジアで進展する経済統合の運転席に座ることを目指してきた。このことは、多くの果実を得るためには、日本、中国、インドを含む東アジア全体の経済統合が必須であることをb如実に物語っている。ASEANもそれを理解しているからこそ、これらの国々とFTAを締結したのではないか。ASEANが「単一の市場かつ生産拠点」を形成することの便益が費用を上回るとは考えがたい。
 各国ベースで考えると、シンガポールのFTA戦略に見て取れるように、同国にはASEANに拘泥する積極的理由はない。(後略)(p.70)
これだけASEAN共同体に対して厳しい評価をしている本は珍しい。

もう1つの本書の良い点は、第10章「ASEANにおける平和構築-アチェ紛争とミンダナオ紛争の和平プロセスを比較して」において、比較的最近に至るまでのミンダナオ和平の経過を追いかけているところにあると思う。

僕がここ2週間ほどの間、仕事上でスタックしている理由の1つは、「先祖伝来の土地」(AD)の回復問題に関するフィリピン政府とMILFの覚書が、2008年8年に署名直前に凍結され、最高裁で違憲判決を受けて以降に起きた武力衝突と紛争解決の取組みについて、なかなか理解できる資料がないことに由来する。この和平交渉で交渉人を務めた方が書かれた英語の論文を読むのに、1頁当たりひどい時には10個も知らない英単語が出てきて難解で悪戦苦闘していた。理由の1つは背景情報をあまりにも僕が知らないからだと思い、僕は日本語で情報がないかとネットや図書館で調べてみたが、2008年8月前後までの情報はあったとしても、それ以降の3~4年間の事態の推移を描いた文献がほとんどない。それどころか、ミンダナオ紛争そのものについて書かれた日本語文献が恐ろしく乏しいという現実にも直面した。

そんな中で、比較的最近に至るまでフォローがされている論文が本書には収録されている。今月はミンダナオ紛争について書かれた論文が収録されている専門書がもう1冊日本で発刊される予定があるが、その本よりも本日ご紹介したこの本の方が情報としては新しい。

これで十分だとは思わないが、お陰で相当に理解が進んだのは間違いなく、本章を読んだ後、6日(土)にもう一度英語論文読解に挑戦してみたところ、前数回と比べて遥かに内容が理解できるようになった。この論文の理解に光が見出せたことは、この連休におけるかなり大きな僕の成果である。

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