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『グローバリゼーションとアジア地域統合』 [読書日記]

グローバル化とアジア地域統合 (アジア地域統合講座)

グローバル化とアジア地域統合 (アジア地域統合講座)

  • 編者: 浦田秀次郎、金ゼンマ
  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 2012/02/29
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
グローバリゼーションはアジア地域統合を促しているのか、それとも阻害しているのか。アジアにいかなる影響を与えているのか。アジア地域統合研究のフロンティアを開拓する。
7日(月)図書館返却期限だった2冊のうち、残りの1冊を紹介する。本書は5月3日、『ASEAN再活性化への課題』は4日に読み切ったものだ。

論文集というのは、表紙から裏表紙まで順番に読んでいくものではないが、取りあえず今すぐには必要なさそうだというところは飛ばし読みし、必要な章は精読した。特に第3部「グローバリゼーションと安全保障」に含まれていた次の3章は有用だった。

 第10章 東アジア多国間地域安全保障をめぐる議論の興亡-グローバリゼーションの影響-
      (植木(川勝)千可子

 第11章 「グローバル・イシュー」としての人権とアジア
      -新たな国際規範をめぐる国際社会の確執に注目して-

      本多美樹

 第12章 アジア地域連携に見る人の移動と人身取引-メコン河流域諸国に着目して-
      島崎裕子     

第10章は、人権が「グローバル・イシュー」として位置づけられた敬意を新たな国際規範「保護する責任(RtoP)」の構築という視点から考察した後、大国がアジアで起きた人権侵害にRtoPを適用を迫った事例として、サイクロン・ナルギス発生後のミャンマーを取り上げている。ナルギス対応では、国際社会が人権問題に積極的に関与する姿勢を見せたことにより、アジア域内の諸問題に対して消極的な関与を続けてきたASEANに政策転換を促すきっかけを与えた事例だと著者は評価する。ミャンマーで起きている人権侵害は、アジアで地域統合を進めるために解決しておくべき問題であるとともに、ASEANが欧米諸国との経済協力関係を強化していく上で取り除いておくべき障害だという(p.288)。

本章の執筆者によると、国際社会において「人間の安全保障」を具体的な対外政策の根幹に据えた国としてはカナダと日本があるという。一般に、カナダは人間の安全保障のうち「恐怖からの自由」に焦点を置き、日本は「欠乏からの自由」に焦点を当てている。その上で、カナダ政府は、人々が人権、安全、生命に対する厳しい境涯から保護されない限り、永続的安定は達成できないとし、対テロリズム、人権保護、特に国際刑事裁判所を通じた反人道的犯罪の訴追を強調し、「国際社会は、ジェノサイドや民族浄化の脅威に対しては、場合によって軍事力を行使しても、市民保護に寄与すべきである」と述べている(p.291)。

本章で新たに述べられている新たな国際規範とは、「保護する責任(RtoP)」と呼ばれ、「国家主権は自国民を保護する責任を負い、国家がその責任を果たせないときには、国際社会が代わってその責任を果たさなければならない、国際社会の保護する責任は不干渉原則に優先する」という考え方である。この、人道上やむを得ないときには武力介入も正当化されるという、国家主権や不干渉原則を揺るがす国際規範には批判的な国も多く、アジアでは、北朝鮮、マレーシア、イラン、パキスタン、スリランカなどがRtoPに反対の立場をとっている。ASEANでいえば、内政不干渉の原則を脅かすものだ。

ちなみに、前回もご紹介した僕が理解するのに悪戦苦闘しているフィリピン・ミンダナオ紛争に関する英語論文も、途中からRtoPを持ち出し、比政府とMILFの武力衝突によって発生した国内避難民(IDP)の保護を巡り、比政府が自国民を保護していないのならば国際社会はもっと介入する必要があると主張している、と思う、というか、思いたい。

第11章は、メコン河流域諸国における人身取引を取り上げている。この地域は、経済連携を主眼に置いた地域統合としてのメコン河流域(GMS)構想が打ち出されて自由主義経済が進展しているが、この経済活動の活発化に伴い、従来から存在していた地域内格差や人身取引の問題などの負の側面が一層浮き彫りになってきている。特に、人身取引は、地域統合を進める上で越境インフラの整備や国境手続きの簡素化などによって容易に人が国境を越えられるようになってきたために、拡がりが懸念されている。本章は、「地域統合といった自由経済による市場経済化は、域内において、繁栄の拠点を設けながらも、他方では域内格差をすすめ、後発開発途上国(LDC)の開発問題を激化させる一方、周辺に位置する人々の人権の蹂躙を招くものである」という仮説に立脚している。

先行研究によれば、人身取引は「経済的貧困」か「相対的貧困」の一方、あるいは両方が存在するがゆえに派生すると見られてきたが、執筆者の現地調査によると、これらに加えて個別世帯内の事情が働いていることが新たにわかったという。つまり、社会的な差別や偏見をより強く招く要因となる世帯内暴力、レイプ被害者の存在、母子世帯、土地なし世帯、借金の増大、HIV陽性者の存在などといった重層的諸要因が相互に関連しながら働いているのだという。

筆者によれば、国際社会と一部の政府の真剣な取り組みにもかかわらず、人身取引の実像はいっそう見えにくくなってきており、被害者像の特定も難しくなっている現実があるという。メコン河域内諸国内でも社会環境が異なることにより、問題に対する取り組み方も異なり得る。地域連携に加えて、各国それぞれ異なる社会環境に置かれている被害者の状況をとらえ、緊急レベルにとどまらず、地域レベルでの貧困・ジェンダー差別・農村問題と組み合わせて、取組みを実施していく必要がある。こうした取り組みには、政府間や国際機関だけでは不可能であり、NGOなどの市民社会によるパートナーシップや連携が不可欠だという。
人身取引への対応として、予防や保護、訴追(法的支援)といった人身取引に関する支援だけでなく、各国農村でもグローバリゼーションの浸透とともに起りつつある土地問題、雇用問題、教育問題、貧困格差などの社会問題をも視野に入れた取り組みが求められる。このような取り組みには、官民が連携し、各村の状況把握、貧困対策を早急に始めることが、ゴールへの近道となる。(p.328)

加えて、本書ではあまり指摘がされていないが、GMS諸国に隣接する中国のような国との連携も必要となるだろう。本書ではGMS諸国からタイへの人の移動に焦点が当てられているようだが、これらの国々から逆に上流に向かい、中国を目的地とする人身取引も相当にあるというのが、下記のニュース報道などを見ると感じられる。



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