『アジア地域統合の展開』 [読書日記]
アジア地域統合の展開 (アジア地域統合講座総合研究シリーズ)
- 編者: 松岡 俊二・勝間田 弘
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2011/12/07
- メディア: 単行本
内容紹介僕は図書館で借りて読んだが、3990円もするんだなこの本。高いね。勁草書房の「アジア地域統合講座・総合研究」のシリーズは全てこの価格設定らしい。個人ではとても買えない。図書館で借りるしかない。
本書の目的は、アジアにおける「制度」の展開に関心を注ぐことにより、アジア地域統合への理解を深めることにある。国際協力がどのように進展しているのか、何か有意義な動きは見られるのか、協力に限界はあるのか。本書は、これらの論点を「制度」というキーワードを中心に、学際的な研究アプローチから探っていく。
だいたいこういう論文集を最初から最後まで読むことはない。借りてから目次を見渡して実際に読んだのは次の2つの章しかない。
第3章 東アジア安全保障への制度論アプローチ-ネオリベラリズムの視点から- (赤羽恒雄)
第8章 インフォーマルな制度デザイン-ASEANの経験と地域制度の比較-(舒旻)
うち、第8章の方はECとASEANの制度設計の比較をやっているもので、視点は新鮮だったが、ASEANについてはだいたい知っている内容だった。だから、今の僕の置かれた状況や関心において実質有用だと思ったのは第3章ぐらいということになる。有用だと思ったポイントは、近年の国際関係論における「安全保障」の捉え方に関する記述である。
近代の伝統的安全保障論の源流は「古典的リアリズム」(classical realism)にある。古典的リアリズムは、まず国際システムは穴キーであり、その中で国家が優先する課題は自己保全であり、そのための手段としての諸々の私財と能力であるとする。(中略)古典的リアリズムに基づく安全保障論は、当然国家安全保障論であり、国家を国際関係の主体とし、国家の自助力を中心に考える。(p.78)
本稿では、これに対して「ネオリベラル制度論」というのを紹介している。
国際システムにはそれを中央から統制する権威や政府的機関はない。よって、システムを構成する国家が協力するためには、いわゆる「集団行為問題」(collective action problem)を解決しなければならない。「集団行為問題」とは、一集団の構成員が集団全体を利する行動(たとえば環境保全のための行動や平和維持のための貢献など)をしなければならない際に、これを実行する構成員と怠る構成員が出てくるため、全体として目標を達成することができず、構成員全体が損害を被ることになる、という問題である。この問題を乗り越えるためには、集団構成員はそれぞれの行動や目標、構成員の間で合意された行動の不履行がどのような結果を招くかなどについて情報を共有し、また行動を強調的に調整する必要がある。共同意思決定のルールなどを規定することにより構成員の行動を規制し、組織全体の目標達成を目指す必要がある。いいかえれば、組織が一つの制度を構成するのである。
ネオリベラリズムが「制度」を中心にその理論を発展させていることから、これを「ネオリベラル制度論」(neoliberal institutionalism)と呼ぶ。(p.79)
この制度論では、次の4つの前提があるという。一部僕にはすぐに理解できないところもあったので全てここで挙げるつもりはないが、その中の1つは、国際関係の主要アクターは国家だが、国家以外のアクターもあり、問題領域によってはかなり大きな役割や影響力を発揮するものもあるということである。(例えば、人権問題での国際機関や災害対策でのNGOの役割。)
ところで、いつか読んだ本の中で、「アジアでは「人間の安全保障」を「非伝統的安全保障」と呼ぶ」と書かれているのに違和感を感じたとブログで述べたことがある。国家主権を前提に軍事・外交を通じた安全保障の実現を目指すのが伝統的安全保障だとしたら、その対比として軍事・外交以外の手段を通じて国の安全を保障するのは「非伝統的安全保障」と言われる。でも、「人間の安全保障」は国の安全の保障というよりも、そこに住む人々ひとりひとりの生命、生活の安全の保障、基本的人権の保全・保護をするというもので、「非伝統的安全保障」と「人間の安全保障」はイコールでは必ずしもないのではないかと思う。以下は、第3章に書かれている各々の定義である。
「伝統的安全保障」は、国家の政治的独立、領土保全、主権に対する物理的、とくに軍事的な脅威と、これに対してとられる諸々の手段の総称である。脅威となる主体も、これに対応する主体も国家であると考える。
「非伝統的安全保障」は、近年、国際機関や多国籍企業、国際NGOなど、国家以外の主体が国際システムの中で大きな影響を持つようになる中で、環境の破壊による国民生活や健康への脅威、エネルギーや食糧の不足が国民生活に脅かしこれに国家が効果的な対処ができず、これに経済発展の格差拡大や金融危機なども加わって社会不安や暴動に繋がるリスクが高まっており、こうした非軍事的な脅威に対して国家と国民の安全を守ることをいう。
「人間の安全保障」は、国民の生命、生活、基本的人権の保全・保護を中心に考える。
自分が不勉強なのでいつもサンチャイさんのブログで勉強させていただいています。
そんなわけで、自分で調べればいいんでしょうが、上記「非伝統的安全保障」の定義はちょっと変ですが…「…安全保障」は「こうした脅威」ではないですよね。僭越ながら引用箇所が違うのではないかと思いますが…
by 宇宙恐竜ゼットン (2012-04-12 08:32)
宇宙恐竜ゼットンさん、ご指摘ありがとうございました。
修正しておきました。
by Sanchai (2012-04-12 21:21)
ありがとうございました。
なるほど、そういう意味なんですね。
by 宇宙恐竜ゼットン (2012-04-13 08:33)