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『山に生きる人びと』 [宮本常一]

山に生きる人びと (河出文庫)

山に生きる人びと (河出文庫)

  • 作者: 宮本 常一
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2011/11/05
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
山には「塩の道」もあれば「カッタイ道」もあり、サンカ、木地屋、マタギ、杣人、焼畑農業者、鉱山師、炭焼き、修験者、落人の末裔…さまざまな漂泊民が生活していた。ていねいなフィールドワークと真摯な研究で、失われゆくもうひとつの(非)常民の姿を記録する。宮本民俗学の代表作の初めての文庫化。
先週末から今週にかけ、3日間連続で寝込んだ。その間に図書館で新たに借りた本も読んだ。お陰様で読了しているのに紹介はしていないウェイティングリストの本が数冊ある状態だ。この際だから、ついでに積読状態になっている文庫本も読んでおこうと考えた。そして、久々に宮本常一の著書に手を付けた。病床に伏していた間では読み切れなかったが、その後15日(水)から韓国ソウルに出張する機会があり、空港までのリムジンバスとチェックイン後の待ち時間、そして、飛行時間2時間少々の飛行機の中を利用して、なんとか読了にこぎ着けた。

僕は1990年代前半、南北朝時代を舞台とした歴史小説を読みまくっていた時期があった。そこで、「山の民」という言葉に度々出会った。普段平地の人々が移動する道とは違う、尾根から尾根への険しい道に通暁し、かなり広範囲に行動する人たちだという。そうしたネットワークを利用し、また急峻な山道の案内役として、南朝方の武将や皇子の山中移動を支えた。ただ、どんな人が「山の民」なのかはなかなかイメージできないでいた。

本書はそうした人々の生業や生活について具体的に紹介してくれている、とても有用な1冊といえる。

宮本の著書としては、『塩の道』や『海を生きる人びと』が好きだという人は多いと思う。『山を生きる人びと』は、『海を生きる人びと』と対になっており、稲作をやっている平地の住民とは交流機会が殆どない、山頂付近で畑作をやって生活している人々の姿を描いている。「山の民」とはどんな人か、実在するのかという疑問に対し、宮本が長年のフィールドワークを通じてある程度の結論を導き出そうとした興味深い1冊だ。

幾つか印象に残った記述を引用して、本稿を締めくくっておきたい。
 山中へ運ぶものは塩と米が多かったというが、そのほかにも油・燈芯・布類・農具などがあった。そういうものが運搬に要する手間賃を含めることによって、里の三割増の価になった。同様に売るものは三割低かったので、交通の不便ということによって平野の人たちに比して物価に六割の差を見なければならなかった。土地の条件が悪くて生産力の低い上に物価の上にこれだけの差があったのだから、山中の生活は苦しくならざるを得なかった。(p.185)

 いま一つ山中に広く見られたのは養蚕である。古い養蚕は畑に桑を植えておこなうのではなく、山桑を利用したものである。絹は貴族の間に尊ばれた織物であったが、それは山中で多く生産せられた。いずれも山桑をとってそれで飼育したのである。中国地方の山中から中部・東北へかけての山間に古い養蚕の村が転々と見られる。飛騨の白川村なども、煙硝製造以前は繭を重要な物産としていた。秋田県檜木内の山中で聞いたところでは、この山中で生計をたて得たのはもとは養蚕に頼っていたからだという。もとよりマタギをおこなう者もあり、後には稲作も盛んになってきたけれども、わびしい山中に住みついての重要な仕事は養蚕であったことは興が深い。そしてその繭は秋田へ出した。秋田黄八丈の原料になったのである。(p.197)

 時宗の徒は多くの場合寺も持たず、寺を持っても寺領がなく、経済的な基盤が薄弱であったためにいつの間にか民衆のうちに埋没してしまうが、それにしてもこの宗旨が民衆の庶民的な意識を目ざめさせてくれたことは大きい。どのように不幸な死に方をしても十分供養さえすれば往生できるという考え方、往生できる者はその名を過去帳にしるすという方法が庶民の人生観を明るいものにしていく。とくに支社の供養に踊りを用いたことも民衆の日常生活を明るくすることに役立っている。念仏踊りのさらに民衆化したものが盆踊りと思われるが、こうしたものを国の隅々まで行きわたらせたことも民衆に生きる喜びと安心を与えたであろう。(p.210)
面白いから多くの人に読んでもらえると嬉しい。今や交通の不便な山中に住むような山の民の子孫は平地に下りて来てしまっている筈であり、もはや過去でしかないし、場合によっては手入れもされない森林になっているかもしれないが、昔日本の山々でこうした営みが行なわれていたことを、僕らは知っておいても損はない。


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コメント 1

nmzk

紹介どうも有り難うございます。
この本は読んでみたいです(^O^)/
by nmzk (2012-02-19 00:14) 

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