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『若きビジネスマンはインドを目指す』 [インド]

若きビジネスマンはインドを目指す

若きビジネスマンはインドを目指す

  • 作者: 芝崎 芳生
  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 2011/11/14
  • メディア: 単行本
内容紹介
「海外駐在員が行きたくない国」第2位、「すぐ帰りたい国」第1位───そんなインドに今すぐ行きたくなる本!
世界中でゼロからソニー製品を売り歩いてきた著者だからこそ書ける、「コネなし、資金なし、英語下手」なあなたでもインドで成功する方法。

著者である芝崎さんから「謹呈」された本である。「ブログでも紹介して下さい」と言われて11月半ばに既に渡されていたのだが、公私ともどもあまりにも余裕がなく、読み始めるのに2週間、さらにブログに紹介記事を書き始めるのに1週間かかってしまった。全く広告塔として期待された役割を果たしていない。芝崎さんに申し訳ない。

いろいろな要素が混ざった本である。僕もインドについて書かれた本はかなりの数読んでいるけれど、本書は他書と比較して特徴的なところが幾つかある。

第1に、これは芝崎さん自身のビジネスマンとしての半生を描いた本である。勿論、その中心は芝崎さんが関わったインドでのビジネスにある。芝崎さんがソニーに入社してからどのようなキャリアを歩んできてそしてインドに関わるようになったのか、インドでのビジネス展開でどのようなご苦労をなさったのか、インドでどのような人的ネットワークを築かれていたのか、本書を読んでみて非常によくわかった。

僕はインド駐在時代の最初の2ヵ月だけ芝崎さんと重なっている。自宅で開催されたパーティーに二度ほど呼んでいただいたことがあり、一度は家族連れでうかがった。そこでの一緒に招待されていたお客様の中に、その後妻子も含めて家族ぐるみでお付き合いさせていただいている日本人ビジネスマンご一家や、本書でも登場するニール・ダールさんや妹のニーナさんがいらした。ダール姉妹とは僕もその後仕事でご一緒したことが何度かある。その人物評は本書に詳しい。

第2に、具体的にインドでのビジネス展開にすぐに応用できることが書かれている。本書にはプネのSTP(サイエンス・テクノロジー・パーク)が再三登場し、日系企業がインド進出を検討している場合、あるいはインドでBOPビジネスを展開したいと考えていて、それにあたって現地のビジネスパートナーを探したりする必要があるが当てががないという場合は、取りあえずSTPの窓口に問い合わせてみてはどうかと提案もされている。オープンフリーだから問い合わせるのに費用はかからないそうだ。

このブログでも再三書いているが、インドでBOPビジネスを開拓したいのなら、商品開発の段階で現地パートナーと組んでおくことが必要だと僕も思っている。多少であれば現地NGOを紹介できるぐらいのネットワークは僕も築いていたが、僕のネットワークの利点はその技術をテストできる現場に近いところにコネがあったという点で、商品開発に必要な研究開発ラボとか流通ネットワークを既に持っている現地企業あたりへのコネはそれほどなかった。

プネのSTPについては、そこで開発された減肥クリームや育毛シャンプーのサンプルを渡されて、芝崎さんからも「一度行ってみたらどうか」と言われていたのだが、プネには4回行ったものの、STPを訪ねる機会は一度もなかった。芝崎さんは当時も本書で描かれているようなSTPのメリットを僕にも伝えたかったのだろうが、当時の僕は芝崎さんから言われたことを十分に理解できていなかった。本書を読んでみて初めてその意図するところがわかったという次第で、この本、もうちょっと早く書いて欲しかったなと悔しい気持ちでいっぱいだ。

こういうことも含めて、本書を読んでからインドに赴任できる人が羨ましい。ビジネスマン芝崎芳生が現地で築いたネットワークがどのようなものだったのか、プネSTPの利用価値はどのようなところにあるのか、そうしたことを予め知ってからインドに赴任していれば、インドでの過ごし方も大きく変わったに違いない。この点で、タイトルに「若きビジネスマン」と書かれていて想定読者をこれからインドに行けるチャンスがある人に定めている比較的若い人に置いている意図はよく理解できる。

ただ、以下で述べる3つ目の特徴については、想定読者が「若いビジネスマン」かと言うと少し疑問も感じる。

第3に、本書はマハラシュトラ州沿岸部の町コンカーンで計画されている「日本人職人村」の事業提案書でもある。いや、おそらくこの日本人職人村構想を日本でPRして、出資してくれるようなスポンサー、現地に行ってくれそうな日本の「匠」、企業だけで埋められないギャップを充足してくれる日本の公的機関などの参加を募ろうというのが本書発刊の目的だったのではないかとすら感じる。(芝崎さんによれば、版元のプレジデント社も、この構想に賛同して本書の出版を決めたとも言われている。)

この構想についても、本書が出る前から芝崎さんに聞かされていたもので、コンセプトペーパーのようなものは既に読ませていただき、具体的に自分が感じた懸案事項について忌憚なく述べさせていただいたこともある。1社だけでは背負えない、マルチパートナーでアライアンスを形成しないとこの構想のポテンシャルは発揮できないと思うし、またパズルのピースのように完全にフィットするパートナーでなければいけないかというとそうでもなくて、誰でもその持っている技術ノウハウやネットワークを生かし得る可能性を秘めているようにも思う。

例えば、コンカーンの職人村に日本の剣道の先生に来ていただき、デリーやムンバイあたりに住んでいる日本人の駐在員で剣道をやりたくてうずうずしている方々にサポーターとして適宜参加してもらい、稽古の様子を遠隔教育システムを用いてインド全国に一斉配信すれば、ハイデラバードの「ケンドー・インディア」の連中も本物の剣道とはどういうものなのかをテレビ会議システムを通じて学ぶことができるし、他の都市でも「やってみようか」という声が上がってくるかもしれない。(芝崎さんは剣道をなさっていたので、わざわざ本書でも「剣道」に言及なさっている。)

こういったところで面白い構想だというのは認めるが、日本人の「匠」の頑固さに関する考慮がもう少し必要なのではないかというコメントはさせていただいた。頑固な職人をいなして仕事に向かわせるスキルによほど長けた日本人コーディネーターがいないと、日本人の「匠」がコンカーンに気持ち良く長期滞在して活動するのは大変なのではないだろうか。手練のコーディネーターであってもこれは相当にストレスがたまる仕事だろう。ここだけは気になった。

芝崎さんとお話させていただいて、いろいろとビジネスのアイデアをお持ちであるのがよくわかったが、何せ僕自身がビジネスをやってないので芝崎さんのおっしゃることがちゃんと理解できてなかったところが多い。本書を読んでみて、あの時彼が言ったのはこういうことだったんだと気付かされたことがいくつもあったが、インド離れてただの人になり下がっている僕は地団太を踏んだ。

今の自分には芝崎さんの構想に賛同してすぐに組織動員して参加を促すことなどとてもできないが、せめて本書を宣伝することでわずかばかりの力になれればと思っている。「若いビジネスマン」だけではなく、ビジネス界での経験豊富で広いネットワークをお持ちであるシニアの方々にも是非読んでいただきたい。
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芝崎芳生

Sanchaiさん、ご無沙汰いたしております。
私の本を熟読していただき意図としていたことを分かりやすく解説していただきありがとうございます。

本のタイトルとイラストが内容と違うのではという意見もあるようにプレジデント社の話ではシニアな読者が多いようです。

昨日、「元気出せ!ニッポン!」ラジオ日本で本書を取り上げていただきラジオ番組のトークに出演してきました(収録)。時間帯が24時〜25時、7時〜8時とおいうこともあり聴者は60歳以上のシニア向けの番組です。ご指摘のようにシニア=団塊世代も巻き込んでいます。
放送は先になります。

お礼とお知らせまで。
by 芝崎芳生 (2012-02-23 10:59) 

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