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綿花栽培農家の苦境2 [シルク・コットン]

インドの衝撃

インドの衝撃

  • 作者: NHKスペシャル取材班
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/10
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
インド人はなぜ優秀なのか?インド経済は本物なのか?インドは大国となりうるのか?「衝撃」の深層は、この本の中にある。大反響を呼んだNHKスペシャル、待望の単行本化。
久し振りにこの本を手にした。既に一度ブログでは紹介しているので、読んだからといって本書の全体を紹介するつもりはないのでご容赦を。今回は、標題のテーマと絡んで、「第五章 コットンベルトは自殺ベルト」に絞って紹介したい。

本章でNHKスペシャル取材班が注目しているのは、マハラシュトラ州ヴィダルバ地方の農民の自殺である。「コットンベルト」と呼ばれるだけあって、自殺しているのは綿花栽培農家が多い。

なぜ彼らが自殺にまで追い込まれるのか。本章によれば、大きく2つの理由があるという。

【理由1】綿花価格の下落
綿花価格は、2001年から2006年にかけて40%も下落した。その理由の1つは、1999年頃からインド政府が米国や中国からの綿製品の輸入を解禁したこと。WTO加盟に伴うこの措置により、インドの綿花価格は急落した。中国の綿製品が安い理由は書かれていないが、米国産綿製品が安いのは、米国政府が綿花栽培農家を保護しているからだという。

綿花価格の急落に伴い、マハラシュトラ州政府は綿花の裁定買取価格を設定して、補助金を給付するなど急場しのぎの対策を取った。1キンタル(100kg)あたり、200~500ルピーの補償がなされてきたという。しかし、2005年に、州は財政状況悪化を理由にこの措置を中止してしまった。

【理由2】栽培コストの上昇
種子、肥料、農薬などの投入財コストが上がっている。その根本的な原因は、市場開放に伴って米国から輸入されるようになった「遺伝子組み換え種子(GM種子)」にある。

GM種子は、街のタネ屋では代金の後払いも可能だと説明される。通常は現物を受け取る際に現金払いが求められるが、GM種子の場合はつけが効く。農家にしてみたら生活費として現金を少しでも確保しておきたいので、GM種子につい手を出してしまうのだという。

しかし、GM種子でメーカーが推奨している肥料や農薬は、通常のものよりも1.5~2倍は高価で、かつ大量に使用しなければならないのだという。こうして農業投入財を調達するのに農家は借金する必要が生じた。

つまり、綿花を栽培するのには大きな金がかかる一方で、安くしか売れないので、借金が膨らんでいるのだ。

【ハイテク種子のリスク】
単に市況が悪化して綿花が値崩れしているというだけではなく、GM種子はヴィダルバ地方の気候・環境に適していないと本書は指摘している。第1に、GM種子を育てるには、肥料や農薬の他に、定期的な給水が必要になるが、ヴィダルバ地方の農地140万ヘクタールのうち、灌漑設備が整っているところは16%しかない。

もともとこの地区で使われていた在来種は、収穫量は少ないが年1回のモンスーンの雨水だけで育つたくましさ、土地の気候に対応した力強さがあった。しかし、GM種子が流入して、こうした在来種の良さが見過ごされ、しかも時間の経過とともに在来種で求められた栽培上の工夫やノウハウが忘れられてしまったという。

こうしたGM種子が持つリスクは、ヴィダルバの農家の間では十分理解されていないという。肥料や農薬には説明書が付いているが、その記載内容が理解できない農家が多いのだという。教育の問題がここで効いてくるのだ。さらに、この地方の多くの村には、国や州の農業技術の指導員が来たことがないとの指摘もある。つまり、ヴィダルバの綿花栽培農家の多くは、説明書も理解できず、新たな農業技術を伝えられることもなく、見よう見まねで栽培しているのが実態なのだとか。農業普及上の問題もここで効いてくる。

ヴィダルバ地方では、2004~2011年の間に8,652人の農民が自殺している。総人口3千万人の地方で、年1,000人以上が自殺している計算だ。2011年も、10月末時点で647人が亡くなっている。

KILLER CM OF MAHARASHTRA.jpg

1990年代初頭にインドが債務危機に陥った際、インド政府は世銀IMFの助言をうけ、債務返済のために地場の自給農業をやめて先進国市場向けの換金作物生産に大きくシフトした。これによってインドの綿花輸出は伸び、今やインドの綿花生産高は中国に次いで世界第2位の規模にまで成長した。しかし、商品作物へのシフトは、生産コストの上昇と綿花の国際市況の低迷で、収益性を悪化させた。GM種子は天水依存地域では収穫を不安定にする。大量生産への移行によって妻どころか子どもまで農作業に駆り出されるようになる。近隣農家が皆同じ状況に直面しているから、1世帯が重債務に陥ってもコミュニティの中でサポートすることも難しい。ソーシャルセーフティネットの崩壊だ。

本書はインドの底力を描くのが全体のトーンであるが、唯一この第五章はインドの暗部を描いている。全体の分量からすると非常に少ない紙面しか割かれていないが、こうした影の部分にも光を当てたという意味で、NHKのバランス感覚を感じる本だと思う。インドの今を知りたいという人には、入門編として是非お薦めしたい。
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