SSブログ

『帝国の落日』(下) [読書日記]

帝国の落日 (下)

帝国の落日 (下)

  • 作者: モリス,J.
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/09/07
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
最盛期には世界の陸地と人口の4分の1を支配した大英帝国。しかし、2度の大戦による疲弊と、植民地経営に力を注いだ結果、自動車などの世界市場進出に出遅れる。帝国各地では民族独立運動が激化し、長年抑圧されてきた不満と恨みが一気に噴出した。窮地の帝国が活路を求めた最後の日々を追跡する。
7月末に上巻をご紹介してから随分と日が経ってしまったが、近所のコミセン図書室でようやく下巻が返却されて書架に戻っていたのを見つけ、さっそく借りて読んでみた。感想を先に言ってしまうと、第一次世界大戦以後は本当に衰退の一途を辿っていて、パッとしない大英帝国の歴史がそこにはあるのだというのがわかった。要するに上巻ほどの面白さはないということだ。

考えてみれば、世界各地でいろいろゴタゴタがあったにせよ、上巻で描かれている大英帝国はそれなりに頑張っていたし、後に名を残す著名な指揮官や士官が結構現役バリバリで活躍していた。彼らは大英帝国の責務というものにそれなりに誇りと信念を抱いており、その言動にふらつくところがあまりなかったのである。しかし、その自信が第一次大戦以後揺らぎ始め、登場してくる英国人が少し小者になってきたような印象を受けてしまうのである。単に著者の描き方の問題であるところも大きいとは思うが。

それに、版図がこれだけ拡大すると、各地で綻びが生じて帝国軍が劣勢に追い込まれるのを描くのにも興味が散漫になる。勿論、扱い方にはメリハリがあって、インド独立は1章をまるまる割いて描かれているが、ケニアを含めたアフリカの独立は、1章の中の1節でしか描かれていない。それは前者が1947年、後者が1960年代という時期の違いもあるし、本書を読めばわかることだが、大英帝国の衰退を決定付けたのがインド独立を認めたことであり、唯一その流れに英国が抗しようとした1956年のスエズ動乱だったがここでも一敗地にまみれ、もう抵抗する力が英国には残されていなかったのである。アフリカ諸国が独立した1960年代は既にその趨勢が決定的になっていて、その1つ1つが英国にとって大きな意味があったとは考えられないのだろう。(アフリカ各国の側から見ると、決してそうはないだろう。)

本書の場合、抑えておくべきところはこうした流れぐらいだろうと思う。はっきり言って第二次世界大戦期の東アジア、東南アジア戦線のことはそんなに書かれていないので、それを期待して読まれてもがっかりするだけだろう。それでも残った英国の海外権益とか、文学や芸術への反映とか、丁寧にカバーされていることは認めるが、なんだかおまけという感じがしてしまう。

さて、インド独立に関して言えば、最後の総督(副王)だったマウントバッテンとガンジー、ネルー、ジンナーとの交流のあたりは非常に面白かった。元々1948年末までに英国軍の撤退完了が想定されていたのを、マウントバッテンが前倒しにすると決断したこと、1947年8月15日をインド独立の目標日と決めたのは、その日が日本の敗戦宣言の日だったからだという話とか、全然知らなかった。また、独立は認めつつも、インド国内でのヒンドゥー教徒とムスリムの対立激化とか、英国王を君主と仰ぐ各地の藩王国の処遇とか、英国がいなくなるとインド全土で混乱と対立が起きて修復不能になるという事態を英国政府はしっかり懸念していて、現場のマウントバッテンに即断即決の権限を与えて混乱回避に迅速な対応を取れるようにしていたという話とか、短いけれどもコンパクトに勉強することができる。

いきなり衰退過程を描いた2冊を読んだので、先細りの印象を受けてしまったが、逆にインドが英領として併合されて行く過程の方も知っておきたいと思ってしまった。この2冊は、著者の大英帝国史三部作の第三作に位置付けられているが、その前の2作品についても、機会があれば読んでみたいと思った。
nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0