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『消費するアジア』 [読書日記]

*今日からまた海外に行きます。今度は英国です。滞在は1週間と短いです。インドからの頭の切り替えは出来ていません。この記事はまた予約投稿機能を使って掲載しています。

消費するアジア - 新興国市場の可能性と不安 (中公新書)

消費するアジア - 新興国市場の可能性と不安 (中公新書)

  • 作者: 大泉 啓一郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2011/05/25
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
中国の一人あたりGDPと上海をはじめとする大都市圏の繁栄ぶりとのギャップからわかるとおり、もはや国レベルの平均化された指標は意味を持たない。大都市圏ごとの新しい経済単位を使う必要があるのだ。本書は、注目を集めるアジア大都市圏の構造を「消費」の視点で分析、格差拡大や社会不安など懸念材料を現実に即して考察し、アジア経済の新しい見方とアジアの未来市場としての日本の立ち位置を示す。
僕がお手伝いしている三鷹国際交流協会(MISHOP)で、著者の大泉さんを講師に招いて国際理解講座を開催することになった。10月25日(土)午後2時~4時で、会場は三鷹駅前コミュニティセンターである。未だMISHOPのホームページにはこのイベントに関しては何も掲載されていないが、土壇場になってから集客で苦労するようなことにはしたくないので、早めにご紹介しておきたいと思う。(勿論、「老いてゆくアジア」というようなテーマで講演していただくのにこれほどの適任者はいないし、PRさえ上手くやれば集客で苦労するようなことはないと思うのだが。)

前著『老いてゆくアジア』が好評を得た大泉さんが同じ中公新書から2冊目の本を出された。5月末のことである。我が町に講師でお招きする以上、その著書をちゃんと読み込んでおくことは必須の事前準備事項だと思うので、イベントPRのためのビラやポスターに載せる説明文をどう書こうかと考えながら、先ずは一度読んでみることにした。多分、イベント直前にもう一度熟読することになるだろう。

僕達がアジアの高齢化について口にすると、必ず返って来る反応は、「でも、バンコクなんて若者多いし、そんな感じあまりしないですよねぇ」というものである。僕が先日まで訪れていた南インドでも同じだ。バンガロールのような大都市には若者が大勢いる。ところが、僕が訪ねた養蚕村では、若者の姿を見ることはそんなに多くなかった。予想に反して既に1人ないし2人しか子供がいない世帯が多い上に、「都市の大学に行かせているんです」という農家の方が大勢いらした。たまに若者を見かけると、「就職前の準備で帰って来ています。来月(7月)から、バンガロールのウィプロ(大手IT企業)で働きます」なんて言われた。後継者がおらず、農業経営に支障を来している農家が目立った。だんだん歳をとっていけば、きつい農作業はやってられないので、手間がかからない作物に転換していこうと考えていると答えた農家の方もいらっしゃった。

「アジア新興国は、先進国的な景観を持つメガ都市と、途上国的な課題に直面する農村という両極端な空間を同時に抱えている」(p.iii)―――本書の冒頭で著者はこんな問題提起をしている。我々が熱っぽく語るアジア新興国とは、国ではなく、正確にはアジア新興「都市」のことではないか、だとすれば、「メガ都市」の延長線上にアジア新興「国」の明るい未来を描くのは危険だ、国レベルの指標からかけ離れて高所得にある「メガ都市」の出現も、低所得に悩まされる地方・農村の姿も、いずれもアジアの現実なのだ。

これは、前著『老いてゆくアジア』でも言及されていた「都市の人口ボーナス、農村の人口オーナス」の対比とよく似ている。都市部には生産年齢人口が流入して人口ボーナスを長続きさせ、持続的な高度成長を実現できるが、農村部はその生産年齢人口の流出により高齢化が進み、経済の活力が損なわれて前倒しで人口オーナスを迎えると著者は強調していたかと思う。

要するに同じ国の中で、都市と農村の経済格差が今まで以上に拡大していくというのである。アジアの高齢化が日本の高齢化と大きく異なるのは、日本ではベビーブーム世代が移動先の都市に住み続け、地方・農村の過疎化が進んだが、アジアではベビーブーム世代の多くが地方・農村にとどまっており、過疎ではないという点だという。

人口流出の激しい農村の成長を持続させるためには、この中高年ベビーブーム世代の動向にもっと注視すべきである。彼らが加齢により、50代で生産活動が困難になれば、人口オーナスは前倒しになって襲いかかってくることになる。(中略)大竹文雄『日本の不平等』(2005年)は、わが国の格差拡大の原因のひとつとして高齢化を指摘した。アジアの地域間格差は、地方・農村での高齢化の進展により、さらに拡大することになる。(pp.143-144)

前著では、だから農村にとどまるベビーブーム世代の生産性を高めるような人的資源投資が必要だと言うのが著者の主張となっていた。だが、本書において著者は言う。アジアの新興国の多くは、「中所得国のワナ」に陥ってある時点から高い成長率が維持できなくなるが、それを回避するには今まで以上に高等教育や研究開発への投資を拡充して、都市部に集積した産業の技術革新を誘発させていくことが必要だと。

そうなるとアジアの新興国はとても重大な政策的ジレンマに陥ることになる―――。

政府には、メガ都市・メガリージョンの競争力強化策と同時に、地方・農村、そして都市部にすむ低所得者に配慮した政策とを両立して進めることが求められるが、双方の要請を十二分に満たすような政策の遂行は財政的に不可能である。(pp.186-187)

メガ都市・メガリージョンから地方・農村への所得移転となる税制改革が、「中所得国のワナ」を回避する競争力強化策の税制改革とは、対立する関係にあるからである。地方・農村の開発や社会保障制度の整備はいま以上の財源が必要で「増税」がキーワードになるのに対して、メガ都市・メガリージョンの発展のためには「減税」がキーワードになる。(pp.189-190)

すなわち、アジア新興国では、競争力強化などの成長戦略と、社会保障制度などの社会安定化策を両立するには、資金を誰が担い、どのように配分するのかについて、地方・農村住民と都市住民・企業との間で合意が形成されていかなければいけないが、これが非常に難しいというのである。

ただ、それじゃ具体的に何かブレークスルーとなるような政策があるのかというと、残念ながら本書でも十分な提示はない。日本とアジアとで大きく違うのが農村部の過疎化の有無だということは、農村インフラの整備にはまだまだ拡充の余地があるということだし、農村部での新規事業開発のためにマイクロファイナンスを活用しようというのも一理はあると思うのだが、これとてもマイクロファイナンスを活用して商売になるような事業をどう見つけていくのかというのは大きな課題だ。徳島県上勝町のように山の木の葉を売って商売に繋げるような大成功がそこらじゅうにあれば話は別だが、上勝の成功要因をよく見ていけば、同じようなことをアジアのいたる所で実現させていくにはそれなりの条件が整っていなければいけないのではないかと思う。

出生率が世界最低の0.9=少子化対策、総統選争点に―台湾
時事通信 7月8日(金)19時41分配信
【台北時事】 台湾の2010年の「合計特殊出生率」(女性1人が生涯に産む子供の数の推計値)が0.9に低下し、過去最低を更新したことが8日、分かった。台湾当局によると、日本の1.4や韓国、シンガポールの1.2を大幅に下回り、世界の国・地域の中で最低とみられるという。
 台湾の少子化は貧富の格差拡大などとともに極めて深刻な内政問題となっている。少子化対策は来年1月の総統選挙で、最も重要な争点の一つになるとみられる。
そうこうするうちに台湾の少子化の報道が最近あった。とはいっても台北あたりは若者が多く、台北を知っている人にはにわかに信じ難い報道かもしれない。本書の意義はこうしたギャップを埋めて両者を上手く説明している「アジア像」を提示しているところにあると思う。具体的に上海やバンコク、そして中国とタイの農村部で起きていることを紹介しており、それも併せて興味深い1冊である。

10月25日(土)は三鷹で大泉さんのお話を直接聞きましょう!
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Sakae

今ベトナム・カンボジア・ラオス関連の仕事をしているので、興味ありです^^ まだ予定がはっきりしませんが伺いたく思います!
by Sakae (2011-07-12 12:43) 

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