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カルナタカ州の州内経済格差 [インド]

M. H. Suryanarayana,
"Intra-State Economic Disparities: Karnataka and Maharashtra"
Economic & Political Weekly, June 27, 2009, pp.215-223

 この研究では、財政金融委員会の視点から経済格差の定義と規模、計測方法といった課題に取り組む。クズネッツの枠組みに依拠してカルナタカ州とマハラシュトラ州の州内経済格差とその計測結果について論じる。両州は州平均所得で見た場合は全国平均を上回る比較的裕福な州といえるが、州内には深刻な地域間格差、個人間格差、各地域内の貧困といった状況が存在している…。
4月に入ってから、インドの経済格差や社会保障に関する論文を週1本は読み、ブログにメモっておこうという取組みを始めているところである。本日紹介するのは州内経済格差について、カルナタカ州とマハラシュトラ州を事例に取り上げている文献である。執筆者はムンバイにあるインディラ・ガンジー開発研究所(IGIDR)の研究員。

随分昔の記事で、カルナタカ州はバンガロールやマイソールを含む南部と北部とで大きな経済格差があるというようなことを書いた記憶があるが、実際にそれを客観的データで示した資料はこれまで読んだことがなかったので、この論文で掲載されている図表は参考になった。また、そもそもこのデータの出所も明記されているので、今後どこでさらにデータを集めたらいいのかもこの論文を読んで学ぶことができた。

さて、冒頭要約でも言及している通り、この論文は1人当り国民所得の増加とともに所得格差はいったんは拡大し、その後縮小するとするクズネッツの逆U字仮説に依拠している。この逆U字仮説は、個人間の所得格差だけではなく、①都市と農村間での1人当り所得の不均衡、②都市-農村間の産業部門間での所得不平等分配、③産業部門間の労働力配分と所得源といった形で確認することができるという。

僕の目下の関心はカルナタカ州の方にあるので、幾つかのデータをご紹介していくことにしたい。

1)カルナタカ州は27の県から成り、2001年センサスに基づく総人口は5300万人。総人口の66%は農村部に住み、労働力人口の71%は農業かその関連活動に従事し、州内純生産(NSDP)の29%を生み出している。工業生産はNSDPの23%を占める。

2)州民1人当りNSDPは2005/06年度で27,000ルピーと、全国平均25,956ルピーよりは高い。第1次産業の貢献度は1960/61年度はNSDPの60%を占めていたが、1980/81年度は43%、2001/02年度は25.6%と低下してきている。逆に第2次産業は15.2%→23%→26%、第3次産業は24.8%→34%→48%とシェアを伸ばしてきている。しかし、部門別労働力配分は1991年時点で第1次産業で66.7%、第2次13.9%、第3次19.4%である。すなわち、第1次産業での労働生産性は他の2部門と比べて低く、産業部門間での不均衡と所得の不平等分配に繋がっている。

3)1980年代、カルナタカ州経済は年平均4.8%の成長率を記録したが、これは全国平均(5.4%)よりも低かった。しかし、州経済成長は1990年代に加速し、1993/94年度から2001/02年度にかけての年平均成長率は6.6%と、全国平均(6.2%)を上回っていた。1993/94年度から2004/05年度までの平均では6.81%となっている。州民1人当り所得の増加率は年平均5.29%、この間、工業は7.20%、サービス業は10.43%の高成長を記録したが、農業は0.85%の低成長にとどまった。

4)所得水準の州内地域間格差: 隣のケララ州と比べると、カルナタカ州の1人当り県内純生産(NDDP)で見た地域間格差は大きい。2004/05年度の数値で見ると、①1人当りNDDPで見た県間不均衡はジニ係数で25.49%。②ビダール県が最も貧しく、1人当りNDDPは13,118ルピーだった。県内総人口が州総人口に占めるシェアは2.84%あるが、NSDPでのシェアは1.56%に過ぎない。逆に最も裕福fなのはバンガロール県都市部で、1人当りNDDPは55,484ルピーとビダール県の4倍以上である。③ビダール県を含む最貧困7県のトータルで見ると、人口シェアは21.73%だが、NSDPシェアは13.45%だった。逆に最も裕福な7県のトータルでは、州総人口の28.66%でNSDPの48.72%を占めている。
因みに、27県を1人当りNDDPの少ない順に並べると次の順位となる。
1)ビダール、2)ライチュール、3)チャマラジャナガラ、4)ビジャプール、5)ハーヴェリ、6)トゥムクール、7)チトラドゥルガ、8)グルバルガ、9)マンディア、10)コラール、11)ハッサン、12)ガダグ、13)バガルコテ、14)ベルガウム、15)コッパル、16)デヴァナゲレ、17)ウッタラ・カンナダ、18)シモガ、19)ダルワド、20)マイソール、21)バンガロール農村部、22)ウドゥピー、23)チクマガルール、24)ベラリー、25)コダグ、26)ダクシナ・カンナダ、27)バンガロール都市部
これだけ見ても位置関係がわかりづらいかもしれないが、貧困県が内陸北部に多く、裕福な県が内陸南部に多いという傾向は確認できる。とは言っても、内陸南部が裕福だというのもバンガロール県マイソール県が引っ張っているだけで、周辺の各県はむしろ県民所得水準は低い部類に入る。逆に北部のベラリー県が裕福なのは、そこで採掘される鉄鉱石のお陰で鉱山会社が儲けているからで、これが即県民の所得水準が高いとは一概には言えないと思う。

5)貧困削減進展度の州内地域間格差: 1993/94年度と1999/2000年度のデータ比較によって、次のことが言える。①貧困ライン以下人口比率は33.2%から20.4%に13ポイント改善したが、その改善度合いは県によってバラつきがある。②貧困削減幅が大きかったのはバンガロール農村部の32.9ポイントで、これにダクシナ・カンナダ(26.7)、ベラリー(25.9)、チクマガルール(22.6)、バンガロール都市部(21.7)、シモガ(21.5)等が続く。逆に貧困水準が悪化したのがビジャプール(▲2.6)、ライチュール(▲21.2)である。③県別の貧困削減進展度と1人当りNDDPとの間には有意な正の相関関係が確認できる。

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正直言うと、英語で書かれている単語の意味がよくわからないところがあり、論文に書かれた内容全てを理解できたわけでは必ずしもないが、挿入図表のデータから客観的にカルナタカ州内における「南北問題」を示せたのは収穫だったと思う。欲を言えばベラリー県だけを切り出して県内の経済格差について描いたデータがあれば嬉しかったのだけれど、それは引き続き探してみたいと思っているところである。
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