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『夏を拾いに』 [森浩美]

夏を拾いに (双葉文庫)

夏を拾いに (双葉文庫)

  • 作者: 森 浩美
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2010/05/13
  • メディア: 文庫

内容紹介
「お父さんが小学生のときはな……」父が息子に誇りたい、昭和46年のひと夏――小五の文弘は、祖父から町に不発弾が埋まっている話を聞く。様々な家庭の事情を抱えた仲間四人で、不発弾探しを始めるが。「家族の言い訳」シリーズをヒットさせた著者が描く、懐かしく爽やかな青春小説。
水曜日、ささいなことで小6の娘を泣かせた。何度も練習して鉄棒の逆上がりができるようになることなど大人になっても何の役にも立たないと言われてカチンときたので、それじゃあ今までに努力してできるようになったことが何かあるのかと娘に尋ねた。娘は少し考えて「塾で他の子が答えられなかった問題に私だけ答えられた」と答えた。僕はそれを無視してこう言ったのである。「塾で先生の質問に答えられたというのは努力の結果じゃないよね。それで何か達成感が得られたわけ?いつも勉強しているのはお父さんもお母さんも認めるけれど、それはプロセスであって結果じゃない。こつこつ努力を続けてそれで結果を出さなきゃやり遂げた達成感は得られないし、お父さんもお母さんも褒めてはくれないよ」―――こんなやりとりだった。

勉強の方がどれだけできるようになるのかはわからないが、親としては子供達に子供のうちにこれはやって欲しいということがある。それは「やり遂げた達成感」を何でもいいから沢山味わっておいて欲しいということである。僕は娘に今までに何かを根気よく続けていてできるようになったことはあるかと尋ねたが、娘はそんな経験は今まで一度もしたことがないと言った。それじゃ人生楽しくないじゃない?どんなに勉強ができなくてもいいが(この親にして過剰な期待を子に対してすべきじゃない)、あっちでぶつかり、こっちでぶつかりしながらも、続けたからこそ得られる達成感を味わって欲しい、お父さんはそう思っている。

この本を購入した理由は、本の帯に「今年の有名難関市立中学・入学試験に、最も多く選ばれた小説のひとつ」とあったからである。中学受験だなんだと小5の今頃から塾通いをしている我が娘の、とりえといったら詩のセンスだと思う。本人は中学に入ったら漫研に入って将来漫画家になりたいようなことを言っているが、どうせだったら詩と抱き合わせにして絵本作家になってくれる方が親としては嬉しい。でもそのためには折角の詩のセンスを、下らない受験勉強のために廃れさせてしまうことにはならないよう、たまには小説でも読んで欲しい。とまあオヤジとしては思ったわけです。

結局、この「スタンド・バイ・ミー」のような物語は小5男子の夏のお話であり、娘が興味を持って読むような本ではなかったかもしれない。でも、いつか読んでみて欲しい。不発弾探しはともかくとして、この少年達が過ごした昭和46年夏というのは、僕自身は小2だった頃のことであり、君のお父さんもこんな少年時代を過ごしたんだというのをこの本は代弁してくれているようにも思えた。

そしてこの本がなぜ中学入試の国語の問題でよく用いられるのかは、文章のうまさだけではなく、本書の主題である「何かを成し遂げること」「根気よく続けてやり遂げた達成感」といったものを、今の小中学生の皆さんにも知って欲しいという、出題者のささやかな意図が見え隠れしているような気がした。

当然ながら、オヤジ世代の我々が読んでも面白い長編である。このところ重松清の作品は読んでいないが、小中学生を扱った重松作品を読むのに時々気が引けるのは、それが今どきの小中学生を描いていることが多くてオヤジが読むのにはちと恥ずかしいからだと自分なりに感じている。本書の場合はオヤジの回想シーンとして昔の小学生が描かれているので、僕らでも意外と手を出しやすい。

但し、少しばかり突っ込みを入れさせていただくと、40代になった主人公「ブンちゃん」のひとり息子の由伸君が、この不発弾探しのお話のどこにどう惹かれたのかがよくわからなかった。なぜ急にお父さんの話を積極的に聞きたいと思ったのかがよくわからなかった。昭和46年夏の話というのは自分も同じ頃に小学生だったので懐かしさもあって楽しく読んだが、この話から今を生きる小学生の由伸君や単身赴任を言い渡された主人公「ブンちゃん」の心にどのような変化をもたらしたのかが十分に描かれていないような気はした。

余談ながら、このブログの記事を書いていたちょうどその時、元キャンディーズのスーちゃんこと田中好子さんの訃報を聞いた。キャンディーズが後楽園球場で解散コンサートを行なったのはちょうど今から33年前の昭和53年(1978年)の4月のことだった。僕は中3だった。小中学校時代の僕達のアイドルが、お亡くなりになるような時代になってきたのだなと思うと、結構寂しいものがある。昨日は上司から人事評価面接を受けたが、僕も会社でそろそろ「あがり」を考えなければいけない年齢にさしかかっているのだなというのを痛切に感じた。

田中好子さんのご冥福をお祈り申し上げます。
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