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2.僕はここを出たい [S.D.Gokhale]

Gokhale1.jpg 私が常に師と仰ぐガネカー先生は、原理原則に忠実な人である。退官した後も自立を望み、家族と同居する代わりに老人ホームに入居することを決意された。

 私がホームに訪ねた際、先生は私をとても温かく迎えて下さった。表敬訪問にも慣れてきた頃になり、先生は突然爆弾発言をなさった。「ゴカレ先生、僕はこのホームを出たいと思っているんだよ。」

 私が驚き、当惑しているのを見て、先生はこう説明された。「私が突然行動原則を曲げたことに君が何が起きたのかと困惑しているのはよくわかるよ。でもね。信念まで曲げたわけじゃないんだ。僕が退官後も自立していたいとどれだけ望んでいるかはよく知っているよね。それは未だ僕の行動原則なんだ。でも、僕はこのホームへの入居を希望したことを後悔しているんだよ。ここで生活する上で、自由や自立は全く手にすることができないからね。」

 「例えばさ、僕は夜寝る前に本を読むのがが好きなんだ。でもここでは午後10時になると消灯時間だ。訪ねて来てくれる人がいたらお茶の一杯でも出したいが、お茶は午後3時にしか提供されない。今はまだ午後2時にもなってないからね。そういう点ではここのホームは全然「我が家」っぽくない。むしろここは刑務所みたいな雰囲気なんだ。ガチガチの厳しい時間割表で管理されいるからね。」

 「ご存知の通り、僕には子供がいないけど、甥のところにでも行かせてもらうことはできるよ」――老人ホームなら自分に望んでいた自立の機会を与えてくれると長年信じてきたこの人がそう述べた。

 ガネカー先生を訪問してみて、私はインドの老人ホームの痛ましい実態を知ることとなった。ホームでは身寄りのないお年寄りが厳しい日課に拘束され、そこでは柔軟性も個々の入居者への配慮も、家族生活に似たところもない。実際の「我が家」からは最も遠く離れた存在でしかない。老人ホームは刑務所のようなところだ。
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