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『絹の変容』 [シルク・コットン]

マレーシアでデング熱対策として人為的に遺伝子を組み換えた蚊が自然界に放たれるという出来事があり、その影響が懸念されているという。この場合は遺伝子組み換えだが、例えば蚕(カイコ)の体の機能に人為的な障害を与え、それをもとにして世代交代を繰り返すことにより、雑食性が強化された、即ち桑の葉に代わって良質の蛋白質なら鶏肉でも人肉でも食べるようになったらどうなるだろう。しかも、それが実験室の隔離された環境から、何かの拍子に自然界に放り出されてしまったら…。

養蚕業における繭の生産可能量は、桑の供給量によって制約を受けると言われている。昔はそこらじゅうに存在した桑の木も、土地改良工事や宅地化が進んでどんどん桑園面積が減少し、今では見つけることが非常に難しくなった。だから、目新しいシルクの織物を見て、衰退した養蚕を再興しようと考えた場合、桑の葉の供給量の制約を乗り越えられる、新たな餌の検討も必要になる。もしそれが動物性蛋白質だったりしたら―――考えるだけで恐ろしくなる。

本日ご紹介する小説『絹の変容』は、まさにそんな世界を描いている。舞台は「桑都」として栄えた東京・八王子だ。

絹の変容

絹の変容

  • 作者: 篠田 節子
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1991/01
  • メディア: 単行本
出版社/著者からの内容紹介
虹色に輝く絹。その妖しい光沢に憑かれた青年は、最新のハイテク技術を駆使して、新種の野蚕の繁殖を試みるが…。バイオ・テクノロジーが恐怖の世界を現出させるSF。第3回小説すばる新人賞受賞作。
篠田節子作品は『ゴサインタン』以来。『ゴサインタン』はネパールの話だからということで読んだのだが、これも確か八王子近郊の農家に嫁いだネパール人女性の奇行がこれでもかとこれでもかと続き、農家の旦那が翻弄され続けて最後はネパールに妻の村を訪ねるといった話で、印象が良くなくてその後篠田作品には全く手を出したことがない。著者が最近どんな作品を書いているのか知らないから断定するのは尚早だが、『絹の変容』は『ゴサインタン』よりも発表時期も先で、読んでいて同じような雰囲気を持った作品だった。しかも、「毛虫」が絡んでいるだけにもっとグロテスクで、最後まで読み切るには相当な勇気が要った。読みながら情景を想像すると背筋が寒くなり、鳥肌が立つような感覚があり、途中何度か読むのやめようかとすら思った。小説は読むといろいろな感情が湧いてくるものだが、こんなゾワゾワ感を味わった作品は極めて稀だ。暫く夢にも出てきそうだ。

ある意味、篠田作品は凄いと思う。

ただ、八王子の印象が悪くなるのは申し訳ないので付け加えるが、八王子は昔は養蚕と絹織物で栄えた地域として有名で、ここで作られた生糸は横浜まで輸送され、ヨーロッパに輸出されていた。横浜の港が開港し、鉄道が発達する明治の中ごろまで、八王子から横浜に生糸が運ばれたルートは「絹の道」と呼ばれ、八王子市の史跡の1つとなっている。

1月29日(土)、僕は子供達を連れて八王子市鑓水にある『絹の道資料館』に見学に出かけてきた。いただいたパンフレットには次のように書かれていた。
 昭和60年に、歴史的な雰囲気などが損なわれないよう、絹の道の保全と環境整備を目的とした基本構想が策定されました。
 旧道了堂のあった大塚山を公園として整備し、市指定史跡絹の道の中心的な施設として、かつての鑓水の生糸商、八木下要右衛門屋敷跡に休憩所を兼ね備えた資料館を建設することになりました。
 この計画に従って、昭和62年から、発掘調査による遺構の確認や、石垣の復元などを経て、生糸商人屋敷の景観をイメージした木造の門や、入母屋屋根を持つ絹の道資料館が平成2年3月に開館しました。

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なかなかコンパクトで、鑓水地区の養蚕の歴史もわかるし、広く八王子の絹織物業の歴史も、日本の蚕糸業の概観も理解できると思う。当時使われていた器具も展示されているが、何よりもいいのは、それらがどのように使われていたものなのかをビデオで見ることができることだ。今でも子供達の小学校では3年か4年のカリキュラムで蚕を飼育することが行なわれているが、只今小五の娘はインドに行っていて蚕の飼育を経験することができなかった。虫嫌いの娘なので蚕の飼育をスキップできたことは喜んでいるが、とはいえ蚕からどのようにシルクに繋がるのかは理解させておきたいと思ったので、ここでのビデオ上映は非常に有効だった。

絹の道資料館
所在地: 〒192-0375 八王子市鑓水989-2
電話番号: 042-676-4064
開館時間: 9時00分~17時00分(3月~10月)/9時00分~16時30分(11月~2月)
休館日: 月曜日(祝日を除く)、年末年始(12月29日~1月3日)

資料館から3kmほど離れたところに京王線南大沢駅がある。三井アウトレットパーク多摩南大沢での食事・ショッピングと組み合わせて、ちょっとした家族サービスができた1日であった。
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コメント 1

suzuran

桑以外を主食にして生存できる蚕は品種改良によって
成功したと何年か前に発表されたような記憶があります。

但し、自然界に放出すると益虫から害虫になってしまう
危険性が強いので、養蚕農家に供給するのは時期尚早
という意見が出たという話もあったように思います。

by suzuran (2011-01-30 16:02) 

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