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『黒人アスリートはなぜ強いのか?』 [読書日記]

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黒人アスリートはなぜ強いのか?―その身体の秘密と苦闘の歴史に迫る

  • 作者: ジョン エンタイン
  • 出版社/メーカー: 創元社
  • 発売日: 2003/03
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
黒人アスリートは本当に強いのか? 陸上王国ケニヤの奇跡やアメリカを覆う優生学の影、女子アスリートの20世紀などを取材し、黒人アスリートにまつわるスポーツ史の裏側を科学、歴史、苦闘、女性などの側面から探る。
先週金曜日、日本陸連のSさんと久し振りに待ち合わせて夕食をご一緒した。Sさんには以前、三鷹国際交流協会のイベントで「アフリカ陸上選手の強さの秘密」と題した講演をやってもらったことがある。大学院の同じ指導教授の下での先輩後輩の関係でもあり、かつ僕が市民マラソン経験者だったこともあって、三鷹のイベント以降も忘れた頃に連絡を取り合うような関係が5年近く続いている。僕がインド駐在していた頃も、Sさんは陸連の仕事で英連邦スポーツ競技会(コモンウェルスゲーム)の準備もあってデリーに来られている。スレシュ・カラマディ英連邦スポーツ競技会準備委員長とも知り合いらしい。ただ、その時Sさんは僕がインドに駐在していることをご存知なく、その直後に東京で結婚されるとのご案内を下さった時に僕がインドにいたことを初めて聞かれたということだった。そして、昨年10月のコモンウェルスゲーム本番の時も、Sさんは当然大会関係者が泊るアショーカ・ホテルに陣取り、競技運営に関わったそうだが、僕はその時は既に帰国してしまっていた。コモンウェルスゲームの時期までインドで駐在できていたら、この大会の開催期間中の楽しみ方もきっと変わっていたことだろう。

Sさんによれば、コモンウェルスゲームでのインド陸上トラック競技選手の活躍ぶりを見ていたら、12月のアジア大会で日本の中長距離陣が苦戦するのも当然だと予想できていたらしい。女子1万メートルなど、英国選手はおろか、ケニア選手とも相当いい勝負をしていたそうだ。それを見たら、日本の同種目の第一人者である福士加代子選手ではかなわないと思ったという。ロシアからコーチを招聘してかなりのテコ入れをやったそうで、アジア大会どころか、次のロンドン五輪でも相当活躍するだろうと仰っていた。インド人アスリートには注目だ。南インド出身の選手が多いとか、普段のトレーニングはインド国内ではなく、海外で行なっていることとか、Sさんからは興味深い話をいろいろ聞かせていただくことができた。

ただ、今回僕の方からSさんに連絡を取ったのは、インドとはちょっと別の問題意識からだった。

Sさんの講演会のお話の中で、ケニアの陸上中長距離選手がなぜここ20年ほど世界を席巻する強さを誇ってきたのか、幾つかのヒントを下さっている。インドから帰国した後、僕はアフリカの民族多様性が経済発展や成長の足枷とならないようにする具体的な方策が何かを時々考える機会があったが、そんな中で、ふとSさんが昔して下さったお話を思い出した。

そのお話とは、民族紛争が頻発したスーダン南部で開催された「運動会」の話である。日本のスポーツ・メーカーも参加したこのイベントの開催にSさんも協力した。Sさんは、運動会というのは出身部族がどうとかいうことではなく単純に成績の良否でしか評価がされないので、あたりさわりがないと仰っていて、さらに、こういう大勢の人々が集まる場を作ることで、エイズ啓蒙など様々な啓発のためのサイドイベントも行ないやすいので、ユニセフのような国際機関もスポンサーとして参加してくれたのだという。

出身部族がどうこう言うよりも、単純に勝った選手を讃える。そしてその競技を国内で勝ち抜いた選手が五輪や世界選手権といった国際大会に出て行ってさらに好成績を収め、国旗をかざしてウイニングランを行なう。そうなったら、世界的にも強い競技種目を持っていることは、民族融和にも繋げられるのではないか―――ナイーブかもしれないが、結構本気でそう考えた僕は、Sさんとちょっと話してみたいと思ったのである。

「面白い視点ですね」とSさんは仰っていた。スポーツと開発を繋げた実証研究は未だ誰もやっていないけれど、確かにケニアの為政者は陸上選手に対しては敬意を払っており、昨年ナイロビで開催されたアフリカ選手権には、キバキ大統領もオディンガ首相も交互に観戦に訪れていたという。所属するエスニックグループのアイデンティティが「ケニア」という国の国民としてのアイデンティティに優先してしまうような国で、異なるエスニックバックグランドを持つ国民を1つの方向にまとめるには、スポーツというのは1つの手段とはなり得るかもしれない。

実際、そうした可能性に注目し、隣国ウガンダは陸上競技強化に向けてドイツからの技術協力を得ているそうだし、女子マラソン元世界記録保持者のテグラ・ロルーペ氏も、獲得賞金をもとにテグラ・ロルーペ平和財団(TLPF)を2003年に設立し、出身地ケニア・カペングリアの他、ウガンダやスーダン南部でも「平和マラソン」を開催し、民族紛争に悩まされる地域において銃ではなくスポーツ競技を通じて戦う場を提供するという活動を行なっているという。これなどまさに僕の問題意識にピッタリくる活動だ。

「今度一緒に行きませんか?」――Sさんからお誘いいただいた。ロルーペ氏本人から平和マラソン視察に何度も誘われているが一度も実現していないのだという。毎年夏頃に開催されているそうなのだが、行けないものかな…。

いずれにせよSさん、貴重な時間をいただき、ありがとうございました!

その他にも、今年の箱根駅伝のケニア人留学生のお話とかも面白かった。高校、大学を合わせてケニア人留学生は日本に約50人もいるそうだが、その殆どが、優秀なランナーを輩出しているカレンジン人ではなくキクユ人なのだという。リクルートのチャンネルがそうなっているのだそうだ。今年の箱根の場合、何校かが花の2区でケニア人留学生を走らせていたのに対し、山梨学院大学がコスマス選手を3区で起用していたのが僕にはとても新鮮に見えた。山梨学院では上田監督の方針で練習も日常生活も他の日本人の部員と同等に扱われるのだという。

さて、余談ばかりを並べて書いた本日の記事であるが、肝心の本書は全部読んだわけではない。第4章「陸上競技界の勢力地図」と第5章「大自然の実験室―ケニヤの奇跡」の合計50頁のみの読書である。本書は全体を通じて黒人アスリートが強い理由を優生学的な視点から書いており、ケニアの陸上選手についても、そういうニュアンスで描かれているようには確かに思えるが、隣国エチオピアやタンザニアに比べてケニアが圧倒的な成績を収めている点についても言及はしており、以前Sさんが指摘していたような、先駆者ケイノ選手の存在とか、世界的ランナーが集積しているリフトバレー州エルドリッジ周辺の練習環境とかにも言及している。それなりに面白い章である。ただ、原著の方は2000年に発刊になっており、記述内容としては全体的に少し古いなというのも感じざるを得なかった。(表紙なんて、シカゴ・ブルズ時代のマイケル・ジョーダンだからなぁ…。)

全部読み切るのは大変な1冊である。


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コメント 2

Sです。

Sです。

先週金曜日は楽しい時間をありがとうございました。

一人では、浮かばない発想も、複数が集うと、あれもこれもと浮かんできます。

アフリカとスポーツを見続けてきた私にとって、多くのヒントをいただけた貴重な時間でした。

ぜひまたご一緒ください。

1点だけ。
山梨学院大学は、国内で珍しく、キシイ民族の選手たちが主流なのです。。。

昨夜は、ある実業団チームのマネージャーさんと飲みました。
昨年からケニア人選手を迎え入れました。
こちらはやはり、キクユ。
いま里帰りしているそうです。

この選手を紹介したのは、まったく新しいリクルートチャンネルでした。

ますますケニアの選手が日本で増えていきます。
by Sです。 (2011-01-14 17:14) 

うしこ

黒人だから身体能力が高いというわけではなく、地域性や良いコーチがいるかどうかにかかっているという話、マシュー・サイドさんの「非才!」にも書かれていました。
http://ushico.blog.so-net.ne.jp/2010-10-05

結果だけ見ると、どうしても人種と関係があるように見えてしまいますが。
by うしこ (2011-01-21 05:09) 

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