アジアの高齢化―5ヵ国共同研究 [少子高齢化]
最近、このテーマをブログで取り上げる頻度がめっきり減ってしまったことが気になっている。本当のところ、このテーマを自分の仕事と関連付けられたら仕事のやりがいも相当アップするのだろうけれど…。事業として真正面から取り組む明確な方針を社として示していない中で、外部からいろいろ問い合わせがあると、社内でこのテーマに多少でも造詣がある人間が多くないのでその場しのぎのために僕にも声がかかることがたまにある。それで応対すると外部の方は僕が我が社の窓口かと思われるかもしれないが、組織としてこのテーマに取り組む明確な方針がないから、後で僕が信用を失うような事態が起こり得る。なかなか難しい状況だ。
それはともかくとして、今年も地道にこのテーマは追いかけていきたいと思う。さっそく今年の第1弾を紹介したい。既に1ヵ月前の情報になるが、中国科学技術院、インド国立科学アカデミー、インドネシア科学アカデミー、日本学術会議、米国国立科学アカデミーの編著で、『アジアの人口高齢化の課題に備えて(Preparing for the Challenges of Population Aging in Asia)』と題したレポートが発表された。このレポートは12月初旬に北京で開催された国際会議で発表され、いずれ米国のAcademy Pressから出版される予定になっている。
(この情報は、NPO2050のNさんからご提供いただきました。Nさん、ありがとうございます。)
出版物に目を通していないので、Academy PressのHPから、レポートのアウトラインだけを抜粋して紹介してみたいと思う。
また、先に述べた12月の北京での国際会議の冒頭、レポートの公開式典が行なわれるのに合わせ、米国国立科学アカデミーがプレスリリースを行なっている。その内容はレポートのアウトラインで紹介したものと大差はないが、今後公共政策への打ち込みを想定して進められるべき研究領域についてはもう少し詳述されているので、その部分のみ引用してみたい。
1)家族の中での役割の変化(Changing roles in the family)
何世紀かにわたり、アジア社会の伝統は子供が年老いた両親の面倒を見ることだった。しかし、今日、親はより少ない子供しかもうけず、人の移動がより容易になったことで家族が遠く離れて暮すような状況が起きてきた。将来的に研究で取り組まれなければならない質問には次のようなものがある。
-高齢者は現在どの程度家族に自分のケアを頼っているのか?
-家族の期待と義務はどのように変化してきているのか?
-人の移動は高齢者の福祉にどのような影響を与えているのか?
2)労働力の参加・所得保障・貯蓄
(Labor force participation, income, and savings)
多くのアジアの国々で、高齢者は現在、家族以外に老後に利用できるリソースがなく、殆どの高齢者が公的なセーフティネットによって保護されていない。人々が仕事で活用できる技能は、経済が急速に変化していく中で年齢とともに使いものにならなくなり、多くの高齢者には働き続けるという選択肢はない。将来的に研究で取り組まれなければならない質問には次のようなものがある。
-将来引退する高齢者が自立した老後生活を送るのに必要なリソースとして何を持ちうるか?
-経済成長がもたらす所得便益は年齢層によってどのようにばらつきがあるのか?
-公的年金制度はどのように構成されるべきか?
3)健康と福祉(Health and well-being)
高齢者は一般的に若者に比して医療サービスへの需要が著しく大きい。このため、今後の人口構成の変化はその国の医療制度にさらに大きな負担を強い、かつ必要とされるサービスの内容も変化していくと見込まれる。アジアの途上国では、保健医療制度は感染症や母子保健により重点が置かれているが、こうしたサービス内容は今後再編を要すると見込まれる。そこで今後研究で取り組むべき質問としては次のようなものが考えられる。
-高齢者の間で起こる疾病や慢性的症状にはどのようなものがあり、どの程度起こりうるのか?
-個々人の社会経済状況はその人の健康状態にどのように影響を与えるのか?或いは、その人の健康状態はその人の社会経済状況にどのように影響してくるのか?
特定の母集団から長期間に渡ってデータを収集する縦断的研究(Longitudinal studies)は、加齢に関連した因果関係を解明するのに特に有効と考えられ、政策立案者に貴重な情報を提供するだろうとレポートは述べる。 基礎的な人口情報、家族関係、雇用と所得、健康状態や医療サービスへのアクセスといった様々なトピックについて国家間比較ができるならば、調査結果は政策形成に繋がる情報を提供できる可能性がある。レポートはまた、研究データは適宜公開し、先行研究に基づいてさらに新たな研究が続いていくよう配慮するべきだとしている。
社会政策への各国のアプローチは異なる歴史的文化的要因に左右されるが、他国の経験から学ぶこともできるとレポートはいう。特に、人口高齢化の初期段階にある国々は、先行している国々の経験から学ぶことが多い。各国間で研究活動の連携調整を行なうことで、各国独自に行なう投資から得られる以上の収益を得ることが可能である。
北京で開催された国際会議は、多くの国々の研究者が研究成果を共有して国際連携を拡大する可能性を探ることを目的としている。2回目の国際会議は2011年3月、インド国立科学アカデミーとの共催でニューデリーで開催される予定。レポートの出版スポンサーは米国国立高齢化研究所(U.S. National Institute on Aging)。
まあ、レポートの中身をもう少し吟味できれば、僕らにも研究で食い込める余地はあるのかどうか判断できるのではないかと思う。特に、この取り組みは日本とインドの研究者が同じ土俵の上で「人口高齢化」を議論している画期的なフォーラムだと思う。この共同研究プロジェクトに関わっているインド側研究者の中には、Institute of Economic Growthのモニール・アラム教授も含まれている。インドで人口学的見地から行なわれている高齢化研究の第一人者であり、教授の著書は僕も読んだことがある。とはいっても、日本側から参加している研究者は老年学(gerontology)の方お一人しかいない。インドで見ていても経済学者と老年学者が同じ土俵の上で議論をしているという雰囲気はあまり感じられなかったので、本当に議論が噛み合うのかなというのは気にはなるが。
それにしても、今年3月にデリーで2回目の会議が開催されると聞くと、僕が昨年帰国を余儀なくされたことが返す返すも残念でならない。
【関連リンク】
http://www.fastcompany.com/1708386/asias-massive-aging-population-poses-daunting-management-threat
http://www.nap.edu/catalog.php?record_id=12977
http://national-academies.org/AgingInAsia.html
それはともかくとして、今年も地道にこのテーマは追いかけていきたいと思う。さっそく今年の第1弾を紹介したい。既に1ヵ月前の情報になるが、中国科学技術院、インド国立科学アカデミー、インドネシア科学アカデミー、日本学術会議、米国国立科学アカデミーの編著で、『アジアの人口高齢化の課題に備えて(Preparing for the Challenges of Population Aging in Asia)』と題したレポートが発表された。このレポートは12月初旬に北京で開催された国際会議で発表され、いずれ米国のAcademy Pressから出版される予定になっている。
(この情報は、NPO2050のNさんからご提供いただきました。Nさん、ありがとうございます。)
出版物に目を通していないので、Academy PressのHPから、レポートのアウトラインだけを抜粋して紹介してみたいと思う。
本書は、急速に進む高齢化がもたらす課題について論じ、政策立案者がこれらの課題に応えるために必要とされる研究テーマについて特定している。ほぼ全ての国において高齢者人口比率は上昇しつつある中で、アジアの一部ではこの趨勢が特に激しい。国連データに基づく予測によると、中国とインド、インドネシアの65歳以上の高齢者の人口は2000年から2050年にかけて3倍に増え、日本でも2倍に増えるとみられている。さらに、この人口構成のシフトは、アジアにおいて劇的な経済と社会の変化を伴う。家族構成の変化や農村から都市への大規模な人口移動が起きると見られている。
こうした趨勢は、各国において高齢期を迎える大きな人口層の健康や経済状況の維持向上を最大限支援する政策をどのように構築するかという、重要な課題を投げかける。アジアの各国政府には、人口構成の変化に対応する最善の方策を決定するのにまだ時間的猶予はあるが、その「機会の窓」をフルに利用するには、人口高齢化の現状とニーズに焦点を当てた新たな研究を必要としていると本書は指摘する。現在、この地域の高齢化に関する研究基盤は比較的発達していない。本書は、公共政策の立案・形成に貢献できる幾つかの新研究テーマを紹介している。その中には、家族の中での役割の変化、労働力の参加・所得保障・貯蓄、健康と公共福祉等のテーマが含まれる。
*URL:http://www.nap.edu/catalog.php?record_id=12977
また、先に述べた12月の北京での国際会議の冒頭、レポートの公開式典が行なわれるのに合わせ、米国国立科学アカデミーがプレスリリースを行なっている。その内容はレポートのアウトラインで紹介したものと大差はないが、今後公共政策への打ち込みを想定して進められるべき研究領域についてはもう少し詳述されているので、その部分のみ引用してみたい。
1)家族の中での役割の変化(Changing roles in the family)
何世紀かにわたり、アジア社会の伝統は子供が年老いた両親の面倒を見ることだった。しかし、今日、親はより少ない子供しかもうけず、人の移動がより容易になったことで家族が遠く離れて暮すような状況が起きてきた。将来的に研究で取り組まれなければならない質問には次のようなものがある。
-高齢者は現在どの程度家族に自分のケアを頼っているのか?
-家族の期待と義務はどのように変化してきているのか?
-人の移動は高齢者の福祉にどのような影響を与えているのか?
2)労働力の参加・所得保障・貯蓄
(Labor force participation, income, and savings)
多くのアジアの国々で、高齢者は現在、家族以外に老後に利用できるリソースがなく、殆どの高齢者が公的なセーフティネットによって保護されていない。人々が仕事で活用できる技能は、経済が急速に変化していく中で年齢とともに使いものにならなくなり、多くの高齢者には働き続けるという選択肢はない。将来的に研究で取り組まれなければならない質問には次のようなものがある。
-将来引退する高齢者が自立した老後生活を送るのに必要なリソースとして何を持ちうるか?
-経済成長がもたらす所得便益は年齢層によってどのようにばらつきがあるのか?
-公的年金制度はどのように構成されるべきか?
3)健康と福祉(Health and well-being)
高齢者は一般的に若者に比して医療サービスへの需要が著しく大きい。このため、今後の人口構成の変化はその国の医療制度にさらに大きな負担を強い、かつ必要とされるサービスの内容も変化していくと見込まれる。アジアの途上国では、保健医療制度は感染症や母子保健により重点が置かれているが、こうしたサービス内容は今後再編を要すると見込まれる。そこで今後研究で取り組むべき質問としては次のようなものが考えられる。
-高齢者の間で起こる疾病や慢性的症状にはどのようなものがあり、どの程度起こりうるのか?
-個々人の社会経済状況はその人の健康状態にどのように影響を与えるのか?或いは、その人の健康状態はその人の社会経済状況にどのように影響してくるのか?
特定の母集団から長期間に渡ってデータを収集する縦断的研究(Longitudinal studies)は、加齢に関連した因果関係を解明するのに特に有効と考えられ、政策立案者に貴重な情報を提供するだろうとレポートは述べる。 基礎的な人口情報、家族関係、雇用と所得、健康状態や医療サービスへのアクセスといった様々なトピックについて国家間比較ができるならば、調査結果は政策形成に繋がる情報を提供できる可能性がある。レポートはまた、研究データは適宜公開し、先行研究に基づいてさらに新たな研究が続いていくよう配慮するべきだとしている。
社会政策への各国のアプローチは異なる歴史的文化的要因に左右されるが、他国の経験から学ぶこともできるとレポートはいう。特に、人口高齢化の初期段階にある国々は、先行している国々の経験から学ぶことが多い。各国間で研究活動の連携調整を行なうことで、各国独自に行なう投資から得られる以上の収益を得ることが可能である。
北京で開催された国際会議は、多くの国々の研究者が研究成果を共有して国際連携を拡大する可能性を探ることを目的としている。2回目の国際会議は2011年3月、インド国立科学アカデミーとの共催でニューデリーで開催される予定。レポートの出版スポンサーは米国国立高齢化研究所(U.S. National Institute on Aging)。
xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx
まあ、レポートの中身をもう少し吟味できれば、僕らにも研究で食い込める余地はあるのかどうか判断できるのではないかと思う。特に、この取り組みは日本とインドの研究者が同じ土俵の上で「人口高齢化」を議論している画期的なフォーラムだと思う。この共同研究プロジェクトに関わっているインド側研究者の中には、Institute of Economic Growthのモニール・アラム教授も含まれている。インドで人口学的見地から行なわれている高齢化研究の第一人者であり、教授の著書は僕も読んだことがある。とはいっても、日本側から参加している研究者は老年学(gerontology)の方お一人しかいない。インドで見ていても経済学者と老年学者が同じ土俵の上で議論をしているという雰囲気はあまり感じられなかったので、本当に議論が噛み合うのかなというのは気にはなるが。
それにしても、今年3月にデリーで2回目の会議が開催されると聞くと、僕が昨年帰国を余儀なくされたことが返す返すも残念でならない。
【関連リンク】
http://www.fastcompany.com/1708386/asias-massive-aging-population-poses-daunting-management-threat
http://www.nap.edu/catalog.php?record_id=12977
http://national-academies.org/AgingInAsia.html
コメント 0