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『車いすがアジアの街を行く』 [読書日記]

車いすがアジアの街を行く (地球選書)

車いすがアジアの街を行く (地球選書)

  • 作者: 二ノ宮 アキイエ
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2010/12/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより)
障害をもつ人はかわいそうな人、守ってあげなければいけない人たちなのか。アジア太平洋地域において国を越え、重度の障害者自身が中心となって、アクセスのある社会の推進に向け、自立的に企画、運営をおこなう。関係者の協力の「場」づくりに挑戦した画期的プロジェクトの証言。
30日は高校の同窓会が夜に予定されており、「読んでください!サンチャイ・ブログ」とPRも入れた両面名刺を配る予定だから、この記事にアクセス下さる方々の中には、高校の同窓生が相当数含まれていると思う。また、この日は日付が変わるまでに150万PV到達も予想されるので、いろいろな意味でもメモリアルな記事を載せておきたいと思う。(お察しの通り、既に里帰りしています。)

本書を選んだのは、本書の編集には僕も少し関わったからである。インドから帰国して途中からそのプロセスに関わったおかげで、本が出版されるまでにどのような人がどのように関わるのか、どのような思惑からタイトルや章立てが決まっていくのか――そういうのを垣間見れた貴重な経験だった。

肝心の中身の方であるが、本書を読んでいて先ず感じるのは、障害者のアクセシビリティの問題を扱っている本なので、タイ・バンコクに拠点を置くプロジェクト関係者がアジア太平洋諸国の障害者と障害者団体、障害者施策の担当省庁高官とのネットワーク構築のために飛び回る際にも、空港やビル、商業施設などへのアクセスで苦労をされるシーンが頻繁に出てくる。障害者の移動には今でもハードルが非常に多いということを痛感させられる。特に、国際空港で飛行機に搭乗する度に、病人扱いを受けるというエピソードは、ノーマライゼーションの普及が今でもあまり進んでいない実態をよく象徴していると思う。

パキスタン北部大地震では、女性は家の中にいるものというイスラムの教えがあだになって被災して脊椎損傷を負ったのは女性が圧倒的に多かったという実態や、そうした女性のPTSDのケアや復旧復興計画への障害者の声の反映される機会の少なさなどが、さまざまな逸話を通じて指摘がなされている。こうした障害者の視点に対する配慮の少なさ、開発・発展プロセスへの障害者の参加は、決して途上国だけの問題ではなく、ややもすると先進国に住んでいると思っている僕たちの普段の生活の中でも欠落しているのではないかと感じられるところである。本書は押し付けがましさなどは感じさせないが、描かれているエピソードの1つ1つについて、「あなたたちはどうなの?」と問いかけてくるところがあるように思える。

その一方で、本書については若干の注意も必要だと思う。タイトルに「車いす」とある通り、本書は肢体障害者のアクセシビリティや自立についての記述は非常に多く、プロジェクトが各国の肢体障害者のエンパワーメントには相当な貢献があったのではないかというのはよく伝わってくる。バリアフリー化という点では、視覚障害者に関する言及も少なからずある。他方で、聴覚障害や知的障害などへの言及が殆どないことはかなり気になる。本書の底流にある「自分達のことは自分達で決める(Nothing about us without us)」という障害者の社会的包摂の思想は障害の種別を問わないし、歳をとって行動に多少の障害を生じる高齢者についても同じことは言えるとは思うが、本書では視覚障害や知的障害に対して全く言及しないことで、折角の主張がかえって受け容れてもらえないという事態になりはしないかという心配はある。

それとですね、僕はインド駐在経験があるので、本書のインド向けミッション派遣の時に登場したデリーの旅行代理店の方が誰だったかもなんとなく想像がついてしまっている。著者もそのあたりは意識されているみたいで、著者がいい評価を下されている方は実名入りで登場しているが、そうでない場合は見事に実名を伏せられており(当然か)、かえってその人物評価の良否が本書を読んでいるともろにわかってしまうというところは心苦しさも感じた。折角インドに1章を割り振って下さっているのなら、ミッションが訪れたハイデラバードの話だけではなく、もっと全般的にインドの障害者の話というのにも言及いただけると本当はよかったと思う。デリーでも立派な活動をされているアマル・ジョティのウマ・トゥーリ先生の取り組みなど、「心の壁」を打ち破るノーマライゼーションに向けたアプローチとしては特筆すべきものだと個人的には思うのだけれど…。
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