SSブログ

『安全保障の今日的課題』(その2) [読書日記]

安全保障の今日的課題―人間の安全保障委員会報告書

安全保障の今日的課題―人間の安全保障委員会報告書

  • 作者: 人間の安全保障委員会
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2003/11
  • メディア: 単行本

仕事納めの28日(火)は、結局フルタイムでがっつり仕事をやった。職場では既に休みに入っている人もいた中で、ここ3日ほどである程度片付けておかないといけない仕事があったからだ。ただ、淡々とやってれば片付くと思っていた作業は、その過程で次から次へとトラブルが起き、結局一部はどうしても年内に片付かないのが確定し、越年となった。シンガポールや中国の関係者の方を待たせることになるが、シンガポールの関係者は自分達はクリスマス休暇に入っているのに東京の僕に「早くやってくれ」と急に頼んできているという点で僕には納得がいかない仕事である。しかも、僕が作業を終わらせるのに必要な情報を彼らが十分提供してくれておらず、どう頑張ってもこれ以上は前に進めないという状況だった。主体性を持ってやっていない仕事は、早く終われないと疲労感だけがたまる。

ところで、この仕事を通じて、再び「人間の安全保障」を考える機会があった。「人間の安全保障」に向けた取組みといったら「欠乏からの自由(freedom from want)」の他に「恐怖からの自由(freedom from fear)」というのもあるが、この後者について、ASEANの内政不介入の原則とどうやったら整合性が取れるのかというのが大きな課題だと思ったからだ。すぐに結論が見出せるものではないが、これにある程度目鼻を付けないと前に進めないような気がする。

ただ、本書を読んだ時点ではそうした問題意識は薄く、「恐怖からの自由」に関して書かれている箇所はかなり端折って読んでしまっている。今さらもう一度読み直すのもなんだし、少し時間を置いてもう一度該当箇所を読み直してみれたらと思っている。

さて、今回は、「その1」でカバーしきれなかったけれどもマーカーで線を引っ張っておいた箇所をそのまま掲載しておくことにしたいと思う。自分が何かレポートを書いたりする際に、引用するかもしれない箇所だと思うからだ。

xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx

【人間の安全保障の概念】
「人間の安全保障」の下では、領土保全よりもむしろ国内の、そして国境を越えての人々の暮らしや社会の在り方が問題となる。領土を外敵から守ることだけでなく、人間の安全をより中心に考えるのである。そして従来の安全保障概念と異なり、安全に関するすべての責任が国家にあるのではなく、多くの担い手と制度が「人間の安全保障」実現に向けた道のりに加わることが必要であると幅広く考えている。とくに人々自身が参画することを重視する。(p.14)

人間開発は「人々にかんする概念であり、人々がより広い選択肢を得ることにより、生き甲斐のある人生を実現することである」というとおり、機械の拡大を通じた公平な進歩、すなわち「成長下における衡平の確保」に光を当てた上昇志向の考え方である。これに対し「人間の安全保障」は、人間の生存と日々の生活、さらにはその尊厳を脅かしうる要因を考慮に入れ、「状況が悪化する危険性」をきめ細かく取り込むことにより、人間開発の考え方を補う。たとえばアジア諸国のように衡平な成長をめざしてきた国々でさえ、ひとたび経済危機が生じれば人々の生活は脅かされる。(p.17)

【ソーシャルセーフティネットへの配慮】
新しい問題や克服されていない問題への対応を模索する中で、先進国においては福祉制度改革が促進され、移行期にある国では国家による社会サービスが崩壊したため社会の優先課題を見直すこととなった。途上国では東アジアのように金融市場の変動により経済が後退したり、中南米などのように根本的な構造改革が進んだり、アフリカなどのように長期の経済停滞や後退までをも経験したりするなかで、社会的「セーフティネット」と社会的保護に対する関心が高まった。
 社会的保護の目的は、だれもが人生のすべての面に積極的に参画するための潜在能力を得られるよう、社会的最低水準を提供することである。低所得労働者や無給労働者を含むすべての人を対象とした適切な社会的保護を実現することはきわめて重要であり、そのためには政府・企業・市民がこれに参画する必要がある。そしてそうした施策においては、失業保険・年金・訓練などに対する雇用関係を基盤とする財源の拠出や、困っている人々に対する政府の補助を基盤とする社会支援(公共事業および現金その他の形での移転)が行われる必要がある。こうした措置により、慢性的な貧困状態にある人にも、経済その他の危機的状況によって一時的な経済的困難を抱えている人にも、社会を支えるあらゆる人々との対話に基づいた最低限の経済的社会的水準を提供することができる。社会的保護制度の中には、児童・高齢者・障害者の特別な要請に応える政策と施策も組み込まれる必要がある。(pp.153-154)

【当事者の参画】
統治に参画する上で重要なのは、これまで除外・疎外されてきた集団・地域社会の声を意思決定に反映させることであり、そのことでこうした人々の利益・ニーズ・問題などを社会の共通課題とすることである。
 多くの地域社会において、日常の危険と不安に対応する力があるかどうかは、危機的状況が生じた際に支援を受けられる社会のネットワークと非公式な枠組みがあるかどうかにかかっている。こうした非公式なネットワークは、草の根で時間をかけて築かれてきた社会的結束に根ざしている。そして地域社会の人々が基礎的な社会基盤と収入を得ることができれば、こうした団結はより効果的なものとなる。家計や地域社会が生き抜いていくために、孤児・高齢者・障害者などが相互に助け合う例は多く見られる。とくに、こうした人々が社会的な最低水準以上の生活を送ることができ、自らの家計に対する危険に対応できる場合には、相互支援が可能となる。(p.158)

コスタリカやスリランカ、インドのケララ州などでは、他の国や地域が同額の予算では実現できなかった非常に効果的な社会的保護システムを運営することに成功している。(p.159)

「人間の安全保障」の実現には市場の働きだけでは不十分であり、教育・社会サービス・保健医療・地域社会に根ざしたケアなどの社会制度を強化することも忘れてはならない。(p.256)

【普遍的な最低生活水準を実現するための努力】
 雇用と雇用に基づいた生活保障のために包括的な取り組みを行うことは「人間の安全保障」に欠かせない。貧しい人々が自らの力と創意工夫で収入を得るとともに働きがいのある職場を見いだし、またこれを維持していくことができれば、安定した暮らしを営むことができるだろう。このなかで重視されるべきは、土地・融資・職業訓練・教育などを人々が活用できるかどうかであり、とくに貧しい女性にとってこれらは大きな問題である。また、低所得労働者や無給労働者を含めたすべての人々に、社会経済的な最低水準の生活を確保するための方策がなくてはならない。さらに、慢性的な貧困状態にある人や、女性・児童・障害者・高齢者を含め、経済危機・自然災害その他の危機的状況において影響を受けやすい人に対する特別な措置を講じる必要がある。
 現在、世界人口の4分の3は社会保障を受けられずにいるか、または安定した雇用と所得が得られていない。このことから、まずは経済社会的な最低水準の生活をすべての人に確保するという目標を前面に掲げることが必要となる。(p.257)

【地域社会に根ざした保健医療の取組み】
 地域社会に根ざした保健医療と自家保険の仕組みは、保健医療の完全普及をめざす上できわめて重要である。もちろん、すべての疾病が予防でき、あるいは治療できるわけではない。しかし、紛争下にある人々を含め、すべての人がもっとも基本的な保健医療を受けられるようにすべきである。そしてまたすべての人が、突然訪れる深刻な病気や壊滅的な経済的損失の危機から守られなければならない。メンバーから集めた資金を共同管理しリスクを分散する方法は、バングラデシュ農村振興委員会(BRAC)やグラミン銀行、あるいはインドの女性自営業者協会(SEWA)などの革新的なNGOの取り組みによってすでに実証されている。国内の資源と国際的な資源の両方により、こうした地域社会に根ざした保険の仕組みを資金と組織の両面から支援することが重要である。(p.259)

【民族融和を促す教育の潜在性】
 先進国であれ途上国であれ、小学校であれ成人に対する識字教育の現場であれ、学校とその教師・教員は学生・生徒に対し、相互の思いやりと一体感を教えられる立場にある。しかhし、このことは裏を返せば偏見を助長しうる立場にあることでもある。この点、教育課程は、自分以外の人種・思想・文化・立場を尊重する心を涵養し、倫理に照らして考え、人権・多様性・相互依存といった根本的な観念を理解するとともに、これらに基づいた行動ができるようになることが大切である。(p.264)
nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0