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『生物多様性の危機』(1) [ヴァンダナ・シヴァ]

生物多様性の危機―精神のモノカルチャー

生物多様性の危機―精神のモノカルチャー

  • 作者: ヴァンダナ シヴァ
  • 出版社/メーカー: 三一書房
  • 発売日: 1997/06
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
「緑の革命」に代表されるモノカルチャーが如何に人間と自然の共生を可能にする生産基盤を破壊しているか。生物多様性の原理をもう一度回復する必要性を実証的に説き明かし、エコロジーの原点を確立する
ヴァンダナ・シヴァの著作も立て続けに読むと感動が徐々に薄れていくような気がする。本書を含めてあと3冊控えているが、図書館でのまとめ借りの返却期限は来週末であり、見慣れた記述は飛ばし読みし、少しずつ先に進んでいる状況だ。

本書はいろいろなところで発表されたシヴァの論文5篇を収録した論文集であるが、個人的には目玉は第1章の「精神のモノカルチャー」と第5章の「生物多様性条約―第三世界の視点からの評価」の2篇だと思う。特に第5章はCOP10名古屋会議開幕を間近に控えている現在、途上国側から見て条約締結当時の課題が何で、それが現在どこまで整理されているのかを知るには格好の論文だと思う。(但し、1992年の発表から既に18年の歳月が流れている点は考慮しておく必要はある。)

*ということで、COP10支援実行委員会の公式HPをご参考までに掲載しておきます。
 http://www.cop10.jp/aichi-nagoya/

本書の中で気になった言葉はサブタイトルにもある「精神のモノカルチャー」である。訳本のタイトルには『生物多様性の危機』とあり、確かにこの方が読者受けはするタイトルだとは思うが、元々この論文集の原書のタイトルは『Monocultures of the Mind』で、著者としては「精神のモノカルチャー」の方を強調したかったのではないかと思う。

僕らが「生物多様性の危機」を叫ぶ時、往々にして自分達人類を除外して考えているところがありはしないだろうか。本書を読みながら、人類自体もその民族や言語、宗教、文化の多様性を失いつつあることに思いをはせた。今年2月に、インドのアンダマン・ニコバル諸島で、人類最古の文化の1つの末裔と言われる女性が亡くなり、ボ語と呼ばれるローカル言語を話す民族が消滅したことをこのブログで紹介した。人の移動が活発かつ大規模に行なわれるようになると、そこでコミュニケーションを図るための言語が必要になる。そうして英語やスペイン語を話す人口は世界中に存在することになった。しかし、その一方でローカル言語を話せる人がどんどん少なくなっている。オリッサの山岳地帯で暮らす先住民は、市場経済化の波にさらされて否が応にも環境適応を迫られるところが出てくるに違いない。そうして適者生存が進んでいく。環境適応が上手くいかない部分では、ストレスがエスカレートして紛争が起きたりもするかもしれない。そして、「イスラム=悪」などという単純な認識がまかり通るようになり、コーランを燃やそうなどという運動が起きる。

皆、多様性の価値の軽視、或いは多様性に対する不寛容が背景にあるように思える。他と違っていることを悪だと思い込む――それこそが、僕から見ると「精神のモノカルチャー」だと思える。

一方で、著者のいう「精神のモノカルチャー」は少し意味が異なる。
 支配的な知識体系がローカルな知識の価値を低く評価し、地元で有益な植物を「雑草」と宣告するため、地方において、有益な植物種が希少になってきている。支配的知識は、商業的産出量を増加させようという見解から生まれ、市場価値だけに対応するため、ローカルな認識によって植物の多様性に付与された価値を理解できない。その結果、植物や森林共同体、小農民共同体において、多様性が破壊される。商業の論理において多様性は「有益」ではないからだ。(中略)有益なものと有益でないものが一方的に決定される場合、他の全ての価値決定システムを排除される。
 地方で有益な生物種を雑草と宣言することは、ローカルな知識空間を矮小化し、視界から消し去るという手法を取る抹殺政治のもう1つの局面である。支配的体系の一次元的な視野では、市場に基づいた唯一の価値しか理解できない。そしてその一元的視野は、その価値を最大化するために林業や農業を生み出す。価値のないものとして多様性を破壊する結果、唯一の「生産的」「高収量」システムとしてのモノカルチャーに到達することは不可避である。(p.33)

これまで読んだ他の著書になくて本書にある付加価値の1つは森林保全に関する言及である。著者は昔ウッタラーカンド州北部山間地で起きた「チプコ運動」に参加した経験を持つ。このため、森林が伐採されて商業的価値のあるマツやユーカリといった単一樹種に置き換えられてくことについても、「緑の革命」における多収量品種のコメや麦の種子と同様の反対姿勢を鮮明にする。

 工業用木材生産にのみ関心を寄せる排他的知識としての近代植林は、森林を食糧生産、飼料生産、水生産の観点からとらえるローカルな知識を排除する。工業用木材生産にのみ関心を寄せることによって、森林の食糧・飼料・水生産能力は阻害される。また、そのことによって林業と農業が関係を断ち切られ、商工業用木材を増加させようという過程で、樹種のモノカルチャーが創出される。ユーカリは、このモノカルチャーの象徴となった。(p.68)

気になる記述の引用は、例によって次回に持ち越します。

Monocultures of the Mind: Perspectives on Biodiversity and Biotechnology

Monocultures of the Mind: Perspectives on Biodiversity and Biotechnology

  • 作者: Vandana Shiva
  • 出版社/メーカー: Zed Books
  • 発売日: 1993/06/15
  • メディア: ペーパーバック


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