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『現代イスラムの潮流』 [読書日記]


現代イスラムの潮流 (集英社新書)

現代イスラムの潮流 (集英社新書)

  • 作者: 宮田 律
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2001/06/15
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
多くの日本人にとって、ブラックボックスのような存在、それがイスラムではないだろうか。イスラム過激派によるテロ活動や、バーミヤン石仏の破壊などで「イスラムは怖い」という印象を持つ人もいる。だが、イスラムとはもともとサラーム(平和)というアラビア語から派生したことからもわかるように、平安と平等を求める宗教なのだ。グローバル化の現在、12億人の人々が暮らすイスラム社会への理解なしに、われわれは世界を語れない。本書は、イスラムの歴史や思想、そして現代イスラムの潮流を、わかりやすく読み解く格好の入門書である。
このところの僕の読書の選択基準からいうと、かなりおかど違いな1冊を読んだ。理由は、仕事上多少イスラムの勉強が必要になったからだ。イスラムといえば中東とかパキスタン・アフガニスタンあたりの話かと思われるかもしれないが、僕がむしろ勉強する必要が生じているのは東南アジアのイスラムについてである。

その点からすると、2001年6月発刊のこの本は少し物足りない。アジア最大のムスリム人口を擁するインドネシアのイスラム政党の台頭について若干でも言及しているのは2ヵ所だけで、東南アジアの他の国々でのムスリム人口の動向―タイ南部やフィリピン・ミンダナオ島については全く触れられていない。

ただ、だからといって本書の評価が低いというわけではない。発刊年月日に注目して欲しい。2001年9月11日の米国連続多発テロの直前に出ている。著者がどこまでテロの可能性を想定していたのかはともかくとして、事件発生直後に起きた、イスラム原理主義とタリバンについてちゃんと知ろうという風潮の中で、タイムリーに店頭に出ていて多くの人が読んだであろう1冊であろう。

ただただ僕の不勉強というところはあると思うが、9・11までオサマ・ビン・ラディンという人物については全く知らず、事件発生後に唐突に名前が挙がってきたという印象を僕は受けた。しかし、本書によれば、冷戦終結後から米国は仮想敵としてビン・ラディンを特定していたという。イランだってタリバンだって、元々は米国が支援していた過去があるが、それが今や目の敵になっているというのも、言われてみたらその通りである。

こういう国には貧しい人々もいっぱいいて、それが紛争でさらに困窮の度を深めるという事態に陥っている。紛争終結国の復興過程で国際援助の役割はよく強調される点であるが、なんでこんな事態に陥ったのかという根本の部分に立ち戻ると、超大国の外交政策が裏目に出た結果であるということも多く、外交政策の失敗とか変更とかの尻拭いをやっているかと思うと国際援助も結構虚しいものだと思う。

著者は、近年のイスラム原理主義の台頭の背景にあるものを、次のように述べている。イスラム原理主義を「イスラム政治運動」と言い換えているが。
イスラム世界の近代化や産業化は、欧米をモデルに追求されたが、その過程で途方もない貧富の格差が生まれた。これが、イスラムが本来説く平等主義の理想と相いれないものと判断されることになる。
 また、産業化にともなって、地方の農村から都市への大量の移住が行われた。イスラムの伝統的価値観が根強い環境で育ったこれらの人々にとって、欧米をモデルに変貌を遂げた大都市での生活は、次第に窮屈に感じられるようになる。文化的に疎外感を覚え、また貧困の中での生活を余儀なくされるムスリムたちは、現代の政治・社会におけるイスラムの価値や意義を再び考えるようになる。これが〔イスラム意識の覚醒〕と呼ばれる状態だ。
 さらに、イスラム意識の覚醒は、矛盾が多いと感じられる政治や社会の改善をイスラムに基づいて行おうとするイスラム政治運動に発展していく。イスラム世界では社会主義や資本主義が導入されたが、その社会・経済矛盾を救済するような手立てにならなかった。特に1980年代には、世界銀行やIMFの勧告によって、市場経済原理がとり入れられたが、国営企業の民営化や通貨の切り下げなどの措置は、かえって失業やインフレを助長することになる。
 国営企業を民営化すれば、人員を整理しなければならないし、通貨の切り下げは輸入品などの価格の高騰を招かざるをえない。そのため、イスラムの〔社会主義〕や〔平等〕の原理に基づいて世直しを考える運動が現れることになる。イスラム政治運動は、社会主義や資本主義に代わって政治や社会、さらに経済を改革する第三のイデオロギーとして考えられるようになっている。(pp.79-80)
イスラム世界では欧米モデルの近代化に成功しなかった。欧米モデルの近代化は、途方もない貧富の格差をもたらしたり、人々から伝統的なアイデンティティを奪うことにもなった。人々は欧米モデルの近代化に代わる社会・経済的方途を求めるようになった。それがイスラムなんだと著者は言う(p.197)。

とはいっても、欧米モデルを完全排除する近代化など、実際にはかなり難しい。欧米モデルの全世界的普及がいわばグローバル化なのであり、イスラム原理主義の台頭もグローバル化の進展とともにあるというのが何となくわかった。しかし、グローバル化は抗えない大きな流れであり、その流れに竿さして抵抗を試みることはより大きな力が必要となってくるだろう。そうすると、今後もイスラム原理主義に基づく暴力的な活動はエスカレートこそすれ、減少・衰退していくことは考えにくいのではないだろうか。

そうすると、あまり明るい未来はなかなか考えにくいのかもしれない。
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