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国際問題「深刻化する世界の人口問題」 [少子高齢化]

国際問題2010-7.jpg日本国際問題研究所
『国際問題』電子版、2010年7、8月合併号、No.593
特集:深刻化する世界の人口問題
1960-70年代の「人口爆発」は食糧・資源・環境に対する懸念を高め、人口増加の抑制は地球規模の課題となりました。2010年現在、世界人口は69億人。人口問題は多様化し、日本では人口減少への対応が急務となり、またサブサハラ・アフリカ諸国などでは以前高い人口増加率が維持されています。本号ではまず、世界的視野から人口動向と問題の多様化を論じ、続いてアジア諸国、また日本の人口動態と経済への影響、一人っ子政策の「微調整」を模索する中国の現状、人口増加と経済の低成長や貧困問題などのディレンマから抜け出せないアフリカの多くの国々、アフリカ同様に人口増加のテンポが早い中東地域の人口問題を取り上げました。
  ◎巻頭エッセイ◎世界人口の動向と人口問題の多様化 / 阿藤 誠
  世界の人口動態と経済成長 アジア諸国を中心に / 小川直宏
  日本の人口動態と経済成長 / 衣笠智子
  中国の人口問題をめぐる最新事情-2000万人巨大都市の上海市を含めて / 若林敬子
  アフリカ・中東の人口問題 / 早瀬保子
(『国際問題』電子版HPより)
前回に引き続き最近読んだ人口問題に関する論文のご紹介。(財)日本国際問題研究所(通称、国問研)は月刊誌『国際問題』を発刊していて、僕も特に学生時代は頻繁に読ませていただいていた。いろいろと事情はあるのだろうが今年度から電子版しか公開しておらず、そういう世の中になってきているのかなと寂しさも感じる。普段の情報収集では自ら国問研のHPを覗きに行ったりはしないので気付かなかったのだが、僕の論文指導教官に加え、帰国してから交流を再開させていただいている某NPOのニューズレター編集者の方からも最新号の特集記事を教えていただいたので、さっそくダウンロードして読んでみた。

収録論文を全部紹介するのは大変なので、特筆事項のみメモしておく。

阿藤誠(早稲田大学特任教授)による巻頭エッセイでは、人口爆発問題そのものの緊急性は薄らいだ感があるが、この30年ほどの間に新たな人口問題も登場してきた。「人口問題の多様化」として阿藤教授が挙げたトピックは、①高出生率地域の高止まり、②HIV/エイズの蔓延、③少子化と人口減少、④高齢化問題、⑤国際人口移動をめぐる問題、の5つである。そのうち、③少子化と人口減少では、少子化も人口減少も短期的には大きな問題とは言えないが、長期的には経済成長に影響を及ぼし、外国人労働者・移民の大量受け入れにつながり、高齢化を一段と促進することで、先進国政府に大きな政策課題を突き付けていると指摘する(p.3)。④高齢化も同様で、先進国では、老年従属人口指数の上昇による社会保障制度の持続可能性と給付水準確保のジレンマ、後期高齢者の増大に伴う医療・介護需要の増大とケアワーカーの供給不足が深刻な政策課題となってきているが、加えてアジアNIESや中国は出生力転換が急速であったことに加えて、そのまま引き続き少子化状況に陥ったことにより、欧米諸国と比べても急速な高齢化を経験するのは確実な情勢で、経済開発と高齢化対策を同時に追求する必要性に迫られると指摘している(p.3)。

小川直宏(日本大学人口研究所長)も、少子化問題が21世紀は先進地域だけではなくアジアやその他途上地域を含めたグローバルな問題となってきており、人口学者の間では、「20世紀は人口爆発の世紀、21世紀は人口高齢化の世紀」と言われるようになってきたと述べている(p.6)。現在、研究者の間で特に注目を集めているのは経済成長と密接な関係を持っている年齢構造変化(すなわち人口高齢化)である。
人口の年齢構造が変化すると当然、世代間移転のパターンや各世代におけるリソースの流入量・流出量に変化が生じることになる。そのような世代間移転パターンの変化により、資産の保有・分配に変化が生じ、しばしば世代間の不平等問題が深刻化し、経済成長に多大なインパクトを与えることになる。ところが、このような人間生活の維持・存続に大きな影響を及ぼす世代間移転についての研究も現時点ではいまだ十分とは言えない状況である。(p.7)
そして、この世代間移転に関する研究面の空白を埋めるために、2004年頃から国民移転勘定(National Transfer Account、NTA)を用いた研究プロジェクトが活発に行なわれるようになってきたという。

このブログではこれまでの「人口ボーナス(Demographic Dividend)」という概念を度々紹介してきた。小川論文ではこれを「人口配当」と呼んでいる。総人口に占める就労可能年齢人口の割合が増えていけば、逆に若年層や高齢者人口の就労可能年齢人口に占める割合(いわゆる従属人口指数)は低下する。この従属人口指数の低下している間は、人口構造は経済成長に対してプラスに働く可能性が高い。これが「人口配当」である。

さらに、最近の研究成果は、人口配当をさらに2つに区分している。出生率低下が起きると人口成長率は直ちに抑制されるが、労働力の成長率はしばらくの間はそれまでと変わらないという時間差が生じるが、この間に生じる経済的なゲインを「第1次人口配当」と呼ぶ。しかし、第1次人口配当は比較的短期で終わってしまう。これに対して、長期にわたって経済効果が期待できるものとして「第2次人口配当」が考えられる。
第2次人口配当は次のような2つのメカニズムが作用することで生み出されるのである。ひとつ目のメカニズムでは、いずれの社会でも出生率低下と並行して経済発展が進む結果、各コホート(同年または同期間に出生した集団)とも寿命が伸長し、老後の期間が長くなるため、老後のための貯蓄を増強する必要が生じ、本格的な老後設計を開始する50歳ごろから各コホートで資産形成や投資が促進されるのである。言い換えるならば、50歳前後に接近する各コホートの規模が大きくなるとマクロ的に資産の量も増えることになる。もうひとつのメカニズムは、出生低下の結果、子どもの消費に回されるはずであったリソースが貯蓄に回り、投資活動が強化されることになる。(p.10)
しかし、各コホートがそれぞれの引退生活に向けて貯蓄・投資を増やすような準備を全く行なわず、もっぱら世代間移転に依存して暮らす場合は資産蓄積が進まず、第2次人口配当は生じない。今の日本は年金は賦課方式で、世代間移転で高齢者の所得保障が行なわれているため、第2次人口配当はあまり大きくなかったかもしれない。
第2次人口配当は、年齢構造的に50歳代の人口が相対的に増加しても、公的年金制度を積み立て方式にするのか、賦課方式にするのか、また医療保険制度の財政方式に民間保険をどこまで取り入れるのか、さらに家計における将来資産形成に影響を与える税制制度などによって著しい差が生じることになる。つまり、採用される政策に大きく依存しているのである。(p.10)
また、小川は、この2つ目のメカニズムについても、少子化によって生じるはずのリソースを、親世代が投資などに活用せず彼ら自身の消費に回してしまった場合には、当然ながらその効果が消滅してしまうと述べている。つまり、いかに子を持つ親が貯蓄・投資に回しても、一方で子を持たない世帯が生涯に使える可処分所得を全て消費に回してしまった場合には、第2次人口配当というのは大きくないことを示唆している。

小川論文ではさらにこの第1次、第2次の人口配当の時期と期間の予測を試みている。第1次人口配当については巷間言われている通り、中国では2016年には消滅し、タイでも2011年、韓国でも2014年に消滅するが、逆にインドは2044年まで配当が持続すると見られている。つまり、インドは暫くは高い経済成長が持続するということである。一方で第2次人口配当については詳述されておらず、今後構築される社会保障制度の在り方によって社会で資産が増強されるパターンや規模が大きく変わると述べるにとどめている。

第2次人口配当という考え方自体が僕にとって初めての話なので、次は小川論文で挙げられている引用文献リストから原文を読んでみてもう少し勉強してみたいと思う。
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