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ハイデラバードで会ったソーシャルワーカー [インド]

【きっかけ】
8歳の頃、私は両親を亡くし、親戚からの嫌がらせを受けて、自殺しようと考えました。ワランガル駅に行き、線路の上で横になりました。その時、誰かが大きな声で私を呼んでいるのが聞こえてきました。振り返ると、そこには私より若い女の子が、両手両足を失くした状態で、道行く人々に物乞いをしていました。生きていくためにどうしても必要な行為です。彼女の姿を見て、私は自分の態度を改めました。他の人々や社会の役に立つような生き方をしようと心に決めたのです。その女の子を自分にとってのインスピレーションとして、今日も私は200人近い孤児や心臓に障害を持つ子供、体や精神に障害を抱える子供達を支援しています。神の御加護と温かい支援者の方々のお陰で、私は今この組織を運営することができます。私が今日あるのは、駅で見た女の子のお陰です。 
5月15、16日の2日間ハイデラバードを訪問した際、僕は「インド剣道」体験の他に、もう1つやったことがある。以前デリーでお目にかかったことがあるスダラニ・ケンデ・ラオさんに久し振りに会ったのだ。スダラニさんは、JICAの社会福祉分野の研修で2009年2月に日本を訪問したことがある。僕がデリーで親交のあるSTCIのニーラムさんが参加したのと同じ研修プログラムだ。

「1泊2日なんて、滞在期間が短すぎですよ~」――スダラニさんは、夫のトタ・ガネッシュさんと2人で僕の滞在していたホテルに訪ねてきてくれた。もっと時間があれば、ハイデラバード市内での自分の活動だけではなく、カリームナガル(ハイデラから車で3時間ほどの北東部の町)での事業地もご案内するのにと、とても残念がっておられた。

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《お二人は恋愛結婚なのだそうです。》

スダラニさんがJICAの研修に参加するきっかけになったのは、毎年インド青年スポーツ省が行なっている全国青少年表彰(National Youth Awards)の2006-07年度の受賞者だからだ。この年の個人表彰受賞者の中には、スダラニさんも含めるとJICAの青年研修に参加した人が3人おり、さらにこの年の団体表彰受賞団体の1つからも、代表も含めて2人がJICAの研修に参加している。同じ研修に参加したグループのメンバー同士は今でもメールでやり取りして情報交換を行なっているそうだが、彼女達は元々こういったところで既に広範なネットワークを持っていたのだというのがわかった。

しかもどういう順番なのかわからないが、2006‐07年度の受賞者リストのトップにスダラニさんは登場する。こうした全国表彰だけではない。日本でも市民社会で活躍しているような活動家や有識者は、1つの所属団体にとらわれずに活動範囲が広く、1つの会社に所属してそこから給料を貰って働いている僕のような立場ではなかなか想像がつかない。スダラニさんの活動もまさにそれに近く、彼女は一応SUCH(Social Unit for Community Health)というNGOの運営メンバーであるが、フリーランスのソーシャルワーカーとしてはいろいろな場所に出没している。そしてそうした活動が評価されて表彰される度に、授与された賞金を孤児や障害を持つ児童の生活保護に充てているのだ。

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《タミルナドゥ州カルナニディ首相から表彰を受けるスダラニさん。2010年3月》

SUCHの活動を支援している篤志家がどんな人なのかはよくわからないが、この団体は現在FCRA(外国援助規制法)の登録申請中なので、いずれ外国からの支援も受けられるようになると思う。SUCHは2000年設立で、「搾取を伴わない開発」を目指し、ハイデラバードとセクンドラバード、カリームナガルで事業を行なっている。都市貧困層やスラム、路上コミュニティの生活者の生活向上を目指し、特に生活基盤が脆弱な子供達の支援を草の根レベルで行なっている。ハイデラバードだけでもSUCHが活動しているスラムは20ヵ所にも及ぶ。そこで、単にSUCH自身が生活保護のための各種アメニティを提供するだけではなく、州政府や中央政府が元々持っている生活保護や福祉向上プログラムへの住民の申請手続きを支援するような活動も行なっている。そしてスラム住民の組織化も図り、スラムの問題をスラム住民が自ら考え行動していけるよう支援している。こうした中で、子供への教育機会の提供や児童労働の抑制も進められ、またハイデラバード都市圏とカリームナガル双方のスラム地域で500以上の自助グループ(SHG)形成を支援して、都市スラム地域でのマイクロファイナンスの普及に取り組んでいる。

ざっとこれらはスダラニさんの口頭での説明を聞き取ったもの。SUCHはそもそもウェブサイトはおろかパンフレットも有しておらず、外国人の僕らから見てそれほど知名度が高いNGOではない。ただ、都市のスラム地域で女性や子供の生活改善に取組み、かつマイクロファイナンスまで導入しているNGOは意外と多く、同じアンドラプラデシュ州のビシャカパトナムで日本のNGOソムニードが支援しているのもそれに近いし、プネのSevadham TrustやデリーのSTCI、Datamation、DISHA等が行なっている事業にもSUCHと共通するところが幾つかありそうだ。(孤児や障害児に対する生活保護まで視野に入れているところは少ないかも。)

「今いる孤児や障害児を支援していくには未だ資金が足りない」――とスダラニさんは仰っていた。幾らぐらいかと尋ねたところ、年間7、8万ルピー(14~16万円)だという。僕も知り合いのNGOに会うたびに個人的に寄付していたら財布が持たないのでこの場でも何もコミットしなかったが、この金額を聞いた最初の印象は、日本人の感覚で言えばそんなに大した金額でもないなということだった。JICAの研修で日本に行ったことがある人なのだから、JICAのインド事業の関係者から少しずつでもカンパを募ってもいいと思うし、僕が本帰国後の構想として考えているのもこういう草の根で活動している人たちと日本の市民をなんとか繋ぐ試みであるので、そういうところで募集をかけてみてもいい。もっと言えば、ハイデラバードにも在住の日本人はいらっしゃる筈で、そうしたところに呼びかけて地域の中での資金循環を図って行ける方が持続的な活動ができそうな気はする。そうした「出会いの場」作りなんて本当はJICAがやったらいいのにと思う。他の事業でも忙しいのだろうけれど…。

但し、その前提は、活動報告が定期的かつ継続的に行なわれることなのである。ウェブサイトもなく、ニューズレターもないような組織の活動は、いかに僕が英語を日本語に訳すところをボランティアとして行なえるとしても、全く役に立たない。ちゃんとこちらがわかるような言葉で報告して欲しいのである。

勿論、スダラニさんの事業地の訪問はしたい。実はカリームナガルは昨年12月にハイデラバードに出張に来た際に行く予定になっていたのが、当時のテランガナ独立支持派の道路封鎖行為により結局行けなかった町なのである。その後も訪問する機会がなく、その後諸般の事情によりカリームナガルを訪れておく必要性が薄れてしまった。元々カリームナガルはスダラニさんの出身地らしく、今でも彼女は毎月2回程度はカリームナガルを訪れ、お年寄りへの老齢年金給付のお手伝い等を行なっているのだという。

シディク先生のインド剣道連盟だけではなく、スダラニさんのSUCHがあれば、今後ハイデラバードを訪れる理由付けが少しだけ強くなったような気がする。他にもハイデラバード在住の知り合いは何人かいることはいるので、もう少しパイプの強化を進めていけたらいいと思う。これは帰国後の僕の取組み課題でもあるし、一部は職場のスタッフの人たちに残していく宿題ともしておきたい。
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