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『市場を創る』 [読書日記]

市場を創る―バザールからネット取引まで (叢書“制度を考える”)

市場を創る―バザールからネット取引まで (叢書“制度を考える”)

  • 作者: ジョン マクミラン
  • 出版社/メーカー: NTT出版
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
「市場」はどのように「設計」されてきたか、あなたの側にある、その成功と失敗。教科書が教えない「市場」の原理。新しい時代の経済学入門。
昔、経済学を勉強したてだった学生の頃、市場参加者のインセンティブメカニズムをうまく操作できれば、大きな政府支出をせずとも市場メカニズムが社会をよくする方向に自転していくと考え、そういう政策立案に関われたらなと憧れたことがあった。本書を読みながら、そんな昔のことを懐かしく思い出していた。

本書の主張は単純だ。市場メカニズムはそれ自体が目的なのではなく、生活水準を引き上げるための不完全な手段の1つだとする。市場メカニズムは目覚ましい成果を生み出してきた一方で、うまく機能しないこともあり得る。特定の市場がうまく機能するかどうかは、その設計にかかっているという。
市場が社会的関心事項に対して本質的に対立的であるということはない。市場インセンティブは、危機に瀕した漁場の保全にも、きれいな大気を生み出すためにも役立たせることができた。適切に設計された市場メカニズムは、エイズや他の病気から人命を守る薬の発明を最も効果的に促すことができる。貧しい人々にとって、市場システムは貧困から脱出するための唯一の信頼できる方法なのである。(p.325)
市場万能主義を主張しているのではない。市場は不完全で、時々再設計しなければならない。それは市場万能主義に対する熱烈な信仰でもなく、アンチ市場主義でもない。とかく市場メカニズムの話になるとこの二者択一を迫られるものが多いが、本書はそのいずれでもなく、市場は完全であるという先入観は捨てて、不完全な市場をどのように設計するのかに議論を集中させている。事例がとても豊富で、堅苦しい数式も出てこないため、非常に読みやすい経済学の本だと思う。若干の英単語の訳語に違和感はあったものの、全体としては非常に読みやすい。

ちょうど、インドでは今月上旬から行なわれていた第三世代(3G)携帯電話向け周波数帯競売の結果が5月19日に発表された。落札総額は6,771億8,950ルピー(約150億ドル)で、政府の当初予想3,500億ルピーに比べて3,272億ルピーも追加収入が得られたという。これで政府債務残高の10%が帳消しになるほどだという。

この周波数帯割り当て競売はは4月9日に始まり、34日間に183回の入札が行われた。IT通信省の通信局(DoT)の発表によれば、最も多くのエリアを落札したのはリライアンス・コミュニケーションズとバルティ・エアテルの13エリアで、22エリアすべてで周波数帯を獲得したキャリアはなかった。3位はアイディア・セルラーの11エリア、4位はタタ・テレサービシズとボーダフォンの9エリア。但し、落札総額で見た場合は、1位はバルティ・エアテルの1,229億5,460万ルピー、2位はボーダフォンの1,161億7,000万ルピー、3位はリライアンスの858億5,000万ルピーの順となっている。ボーダフォンがエリア数の割に落札額が高いのは都市部で落札しているからだと思われる。落札価格で1位のデリーと2位のムンバイでは、バルティ・エアテル、ボーダフォン、リライアンスが周波数帯を獲得している。

タタはデリーでも競り負け。NTTドコモが出資する会社でCMでは頻繁に目にするものの、デリーで使っている人は殆ど見かけたことがない。今後もこの状況は変わらないのだろうか。

今、インドには5億5,000万人の携帯電話加入者がいると言われている。次世代携帯はこのサービスを一気に農村部に拡大していくと見られており、農村でもブロードバンドを利用できるようになるという。本当にそんな理想の形になるのかどうかは今後の携帯電話キャリア各社の取組みにかかっていると思うが、今回の競売も含めてそんな市場設計の大きな話の中の一部分でしかないのだろう。

 競争は、どんな水準の複雑性を持つ市場でも自然発生するわけではない。競争を支えるメカニズムの設計はしばしば起業家によって行われるが、ときには経済学者によって行なわれることもある。経済理論を厳格に検証する手法は、ビジネスを行う新しい方法を設計する際にそれを用いて見ることである新しい競争メカニズムの設計に際して、経済学者たちは理論をかなり実践的な用途に役立てている。(p.173)
世の中の学者と呼ばれる方々は、こういうより実践的な市場設計のあり方の議論に日本でもちゃんと加わっているのだろうか。ちょっと気になった。面白そうな仕事なのだが。


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コメント 2

duke

こんにちは。大変に興味深いです。私にも読めるかな??^^;地元の産業を育成できる市場を設計できれば良いですよね。
分野としてICT産業は面白いですよね。固定電話普及率の低い所ほど携帯電話の需要がありますし。ヴィレッジフォンもなかなかですね。ルーラルエリアでの商売がうまくいって、ちゃんと普及するといいですね。
by duke (2010-05-23 12:00) 

ciel-bleu-fonce

コメントおそくなってすみません。ギターで痛めた指、まだ治療中です。でももう少しで完治しそうです。

市場の話、難しいですね。私が理解するには勉強しないと、です。

またブログに寄ってくださいね。
by ciel-bleu-fonce (2010-06-07 18:26) 

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