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孤独な夕暮れ [インド]

振り返ってみると、このところ「インド」をネタにした記事をあまりことに気付く。他意はない、と言いたいところだが、実際は離任が決まってしまうとインドのことをもっと知りたいという意欲が思い切り薄れているのが正直なところだ。離任のタイミングを6月下旬に設定し、仕事の上では、それまでに何はできて、何はできないかを整理し、できないことは諦め、できることに集中するよう意識はしている。私生活の面でも、6月下旬までにどうしてもやっておきたいことはやっているが、それと並行して7月以降の東京での自分の生活がどうなるのか、思索を巡らせている毎日である。

とはいえ、僕のブログをある程度読むに耐えるものにしているのはインドネタであったとも思っている。この間も面白そうな新聞記事は切り抜いて貯めてある。少しずつでも蔵出しはしていきたい。

4月23日(金)付Hindu紙の金曜版に「あの孤独な夕暮れ時(Those lonely sunset days)」という記事が載っていた。『Khela』という、ベンガル人脚本家による舞台劇の紹介記事である。『Khela』は、先週デリーのIndia International Centre(IIC)で上演され、今日25日にジャルカンド州ジャムシェドプールで開催される演劇祭でも紹介される。

今回この作品をブログで取り上げたのは、そのテーマが都市中間層の高齢者の孤独に注目した作品だからだ。グローバリゼーションが進む中で高齢化を迎えるということは、日本国内での高齢化とは異なる様相を見せるかもしれない。インドで早期に成功を収めてきた中間層家庭ではそれが起きている。即ち、若くて能力もあるインド人子女は外国で働く機会が増え、外国でのキャリア形成に追われることで、母国に住む両親のことを忘れがちだ。その結果、インドの都市に残された年老いた両親がどんな困難で痛ましい状況に置かれるのか――それを『Khela』は描いている。

主演の老夫婦のうち、夫の方は意識はしっかりしているものの肉体的な衰えから動作に不自由をきたしている。一方、妻の方は精神医学的問題を抱えており、行動に異常が見られ、度々叫び声を上げることもある。そんな時、自由に動けない夫はどうにもならないもどかしさから使用人に怒鳴り散らすのである。老夫婦にとっては試練の連続で、残りの人生は苦痛以外の何ものでもない。

そこに若い夫婦が現れる。米国で働いている息子とその妻だと名乗る。実はこの若夫婦は役者で、年老いた夫からの依頼を受けて息子夫婦を演じていた。年老いた妻は息子夫婦の帰還をことの他喜び、老夫婦にも楽しく平和な日が訪れた。しかし、会話を交わすにつれて、老婦の方も息子夫婦というのは誰か知らない者が演じているのに気付く。それでも気付かないふりをして普通に振る舞い続ける。

――ざっとこんなあらすじである。

日本では、多くの場合若者が農村から都市に移動することで残された農村人口の高齢化の方が先に問題となり、最近では都市に出てきた「若者」の高齢化の問題が顕在化し始めている。都市に出てきた「若者」が結婚し、生まれた子供達は独立してもその行き先が海外ということは全体のパイからすれば比較的小さいし、住まいを海外に定めて永住する人は少なく、一時的に海外生活はしてもいずれは日本に帰るというケースが圧倒的に多いと思う。

しかし、インドで早くから都市に出てきていた初期の中間層の人々の場合、質の高い教育機会を施された子息の行き先の大学卒業後の行き先が外国というケースはかなり多く、しかもこうした子息はその異国で成功をおさめてそのままそれらの国で住み続ける。僕のご近所でも、息子や娘は外国で働いていますと仰る方は結構いらっしゃる。そして、残された老夫婦の生活実態がハイライトされ、新聞報道等でよく取り上げられるような、使用人による略奪行為や強盗殺人等の犠牲者となるケースが増えているのだ。朝の公園での散歩やコミュニティ内の宗教施設での礼拝等に頻繁に参加できるだけの体力があるうちは問題は少ないが、夫婦のどちらかに行動上の制約が生じたり、異常な行動が見られるようになったりした場合には、近所付き合いから一気に遮断されてしまう。

これがインドの高齢化の全体像だというつもりはないが、インドの高齢化の諸相の1つではある。

僕は演劇フリークではないので、インドに来てから演劇など見たことがそもそもない。新聞で紹介されたからといってこの劇を見る機会が訪れるとも思えないが、ストーリー自体は興味深いものなので、紹介させていただいた。

*引用した新聞記事は下記URLからダウンロード可能です。
 http://www.hindu.com/fr/2010/04/23/stories/2010042350200300.htm
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