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『生活保障』 [読書日記]

生活保障 排除しない社会へ (岩波新書)

生活保障 排除しない社会へ (岩波新書)

  • 作者: 宮本 太郎
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/11/21
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
不安定な雇用、機能不全に陥った社会保障。今、生活の不安を取り除くための「生活保障」の再構築が求められている。日本社会の状況を振り返るとともに、北欧の福祉国家の意義と限界を考察。ベーシックインカムなどの諸議論にも触れながら、雇用と社会保障の望ましい連携のあり方を示し、人々を包み込む新しい社会像を打ち出す。
教科書を 読んでるような 味気なさ

読了してから1週間も経過している。しかも、本書よりも後に読み始めて読み終わった本もあるのに何故本書について書けないかというと、何だか気が乗らなかったからだ。なんだか労働経済学の教科書を読まされているような感じ。決してダメな本だとは言わない。多分何度も何度も読み返せばそれなりに味わいが出て来るのではないかと思える。概念化をここまでしっかりやると、個別具体的な事象に対する温かさが感じられなくなる。学術的には重要なのだが、僕らの実践に繋がるような示唆があまりないような気がする。読み終わって「これなら僕にもできるかも…」とポジティブな気持ちになれる要素があまりにも少ない。中身は政策提言に近い。

要するに、144頁にある図「雇用と社会保障の新しい連携」を理解しておけばよいのだ。著者の主張は、「生活保障の刷新のためには、アクティベーションの視点に立って、雇用と社会保障をこれまで以上に密接に連携させていくことが求められている。社会的な排除を生み出さない、全ての人々を包摂していく生活保障が必要なのである」(p.143)に集約されていると思う。アクティベーションとは、「社会保障の目的として、人々の就労や社会参加を実現し継続させることを前面に掲げ、また、就労および積極的な求職活動を、社会給付の条件としていこうとする発想」(pp.124-125)のことなのだそうだ。スウェーデン型生活保障や英国労働党が掲げていた「第三の道」がこの議論の系譜に属するという。これはその通りなのだろうが、何しろ僕らが個々人の努力でなんとか変えられる話でもないので困る。スウェーデンや英国のことを言われても…。

上で「社会的な排除を生み出さない、全ての人々を包摂していく生活保障」という言葉が出てきたが、本書のもう1つのキーワードは「社会的包摂」である。これは、著者によると「EUの社会政策ではもっとも基軸的なコンセプトとなっている言葉で、さまざまな貧困、失業、差別などにかかわって社会から排除されている人々を、社会の相互的な関係のなかに引き入れていくことを目指す考え方」(p.65)だそうだ。「社会の相互的な関係」というまたまたちょっと難しい言葉が出てきたが、これは例えば、失業者を就労させることに留まることもあれば、職業訓練や所得保障など、より包括的な支援を行うことを強調することもあり、さらには地域社会への参加を重視する場合もあるのだという。

ただ、その中で一貫して言われているのが「人々が具体的な社会関係のなかで自立することが大切である、という考え方は広く共有されている」(同上)ということなのだという。
経済的な貧困だけではなく、「生きる場」を失っていることが人々を苦境に陥れ、貧困からの脱却それ自体を困難にする。社会的包摂とは、「再分配」と「承認」の統合として理解されるべきなのであり、それゆえに分断社会への処方箋となっているのである。(同上)
そんな難しく言わなくても、要するに「つながっていること」が大事だということなのだろう。

余談ながら、日本に住んでいないので僕は見れなかったのだが、NHKが1月31日に『無縁社会』という番組を放映したのだそうだ。看取るひとがいなくて1人きりで死ぬのを孤独死というが、家族や会社等から孤立している単身者の死を「無縁死」と表現していたらしい。月刊誌『選択』の2010年3月号によると、凍死や餓死を含めた無縁死の数は年間約32,000人、うち約1,000人が身元不明者。自宅の居間で死亡したのに身元不詳というけーすもあるのだという。「他者との交流がない無縁社会だからこそ晩年の生き方や還りのいのちの居場所を手探りする単身者の覚悟とその息づかいが切ない」と記事は述べている。さらには、「現代の自然死の流れは家族の中の死(在宅死)から病院・施設のなかの死へという道筋にあったが、無縁死はそこからさらに閉め出された消費社会の自然死ということになろうか」ともいう。

『選択』のこの連載記事「還りのいのち・還りの医療-自然死への道を求めて」(米沢慧)は読んでいてとても切ない思いに駆られる。
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