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『21世紀のインド』 [インド]

Twenty-first Century India: Population, Economy, Human Development, And the Environment

Twenty-first Century India: Population, Economy, Human Development, And the Environment

  • 編者: Tim Dyson, Robert Cassen, and Leela Visaria
  • 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr (Txt)
  • 発売日: 2005/07/07
  • メディア: ペーパーバック
内容説明
Twenty-First Century India is the first study of India's development giving a fully integrated account of population and development. It is built on new projections of the population for fifty years from the Census of 2001. India's population then had already passed 1 billion. Twenty-five years later it will exceed 1.4 billion, and will almost certainly pass 1.5 billion by mid-century. The projections incorporate for the first time both inter-state migration and the role of HIV/AIDS. They also show India's urban future, with close to half a billion urban inhabitants by the year 2026. The implications of this population growth are then traced out in a range of modelling and analytical work. Growing numbers are found to complicate the task of achieving widespread education in a number of India's states, while other states are already experiencing declines in their school-age population. Demographic growth also contributes to poverty, and increasing divergence in social conditions among the states. As population growth slows in the country overall, the labour force continues to grow relatively fast, with difficult consequences for employment. But national economic growth could be accelerated by the 'demographic bonus' of the declining proportion of dependents to workers in the population. The book is reasonably optimistic about India's food prospects: the country can continue to feed itself. It can also enjoy higher levels of energy use, manufacturing, and modern forms of transport, while experiencing less chemical pollution. India's cities can become cleaner and healthier places to live. Perhaps the most difficult environmental issue, and the one most strongly related to population growth, is water. Some states also face severe pressures on common property resources. A policy chapter concludes the book. India's future problems are large, but in principle manageable. However, whether the country will actually achieve sustainable development for all is another matter.
紹介文を英語のままにしておくご無礼を先ずお許し下さい。

さて、お気づきの方もいらっしゃるかもしれないが、この記事のURL、日付が2009年12月10日になっている。初めて記事を書こうとしたのがこの頃で、下書きの準備を始めていたのだが、先月になってようやく読み直そうという気持ちになり、主要な章には目を通した。記事に肉付けができるようになったのは実に最近のことで、ようやくアップできるところまでこぎ着けた。1つの記事を書こうと準備し始めて、実際アップするのにこれほど時間がかかった記事はない(苦笑)。

本書の問題意識は、近年のインドの経験に鑑みると、人口増加はインドの今後の発展にどのように影響を及ぼすか、そして、インドは、この人口転換の最終局面をどのように管理することができるかについて、分析・検討してみようというところにある。そこで研究グループが設定した3つの疑問とは、以下の通りだ。

①出生、死亡、都市化などの面でインドの人口には何が起きているか?将来的趨勢について何が言えるか?
②人口増加は経済成長にどのような影響を及ぼすか?貧困や人間開発について何か意味を持っているのか?
③人口増加は環境にどのような影響を及ぼすか?

以下、各章の要約をしてみた。

1.インドの人口(過去)
インドの人口は、1947-2001年の期間に3倍に急増した。先ず、1921年から死亡率低下が始まったが、出生率は高止まっていたため、人口増加が起きた。このため、独立間もないインド政府は1952年に政府主導の家族計画を推進開始した。実際の出生率低下は1960年代から起きているが、人口増加には慣性が働いており、実際の人口増加率低下は1991-2000年の10年間に初めて記録した。地域別でみると、ガンジス川流域に人口は集中している。その他、人口動態の南北格差、男児選好、速い南部の人口転換といった特徴が垣間見える。インドの人口構成は依然若く、今後しばらくは人口増加が続く。

2.健康と死
1971-2001年の30年間で死亡率は大きく低下した。粗死亡率(1000人当たり16人→9人)、乳幼児死亡率(134人→70人)、このため、平均寿命は50歳から62歳に伸びた。感染症対策の進展が死亡率の低下に寄与したが、南北の健康格差も表れている。1980年代に入ると、マラリアが再び猛威を奮うようになり、高耐性結核、HIV/AIDSの問題も深刻化してきた。加えて、非感染症(癌、循環器系疾患)による死亡者数も増加し、インドは21世紀を迎えて二重の重荷を背負っているといえる。栄養失調、女性の健康問題も依然深刻。

3.出生
1971-2001年の30年間で合計特殊出生率(TFR)は、約6人から3.5人に大きく低下した。しかし、出生率低下ペースには、都市vs農村、南部(ケララ、タミルナドゥ等)vs北部での大きな格差がある。出生率低下の理由としては、結婚年齢の上昇、家族計画(人工妊娠中絶)、教育普及、メディアの影響、経済発展、都市化、乳幼児死亡率の低下などが挙げられる。

4.インドの将来人口
インドの総人口は、10億人(2001)から、14億人(2026)、16億人(2051)に増加が見込まれる。しかも、これは楽観的前提に基づくものである。21世紀最初の25年間で増加する4億人のうち、その過半はBIMARU(ビハール、マディアプラデシュ(MP)、ラジャスタン、ウッタルプラデシュ(UP))の4州が輩出する。このため、4州の出生率をいかに引き下げるかが今後の大きな課題。この間、年少人口(0-15歳)比率の低下、若年生産年齢人口比率の増加により、インドの中心年齢は22歳から31歳に上昇し、高齢化の問題も顕在化してくる(7%→11%)。勿論、従属人口指数低下により「人口ボーナス」を享受できる可能性は高まる。

5.人口移動と都市化
2001-2026年の期間、都市人口比率は28%から36%に上昇する。しかし、この数値は「都市」指定区域の増を加味しない楽観数値で、実際の都市人口比率はもっと高くなることが予想される。この間、人口100万以上の都市の数は35市から70市)に倍増する。これら70市でインド全体の都市人口5億人の過半を占める。マハラシュトラ、タミルナドゥ州(低い農村人口増)とUP、ビハール州(都市、農村ともに高い人口増加)との間で、都市化の進展経路には差がある。次に人口移動を見ると、移動人口総数は増加するが、総人口に占める割合は低下する。季節労働に伴う短期人口移動は、通勤による移動に代替されることが予想される。州間移動人口比率も州内移動比率に比べて低下する。州内移動は、短距離移動中心、主に結婚に伴う女性の移動である。UP、ビハールは移動人口の供給源となるが、北→南の人口移動は大きくは増えない。国際人口移動は総人口に比べて小規模にとどまる。北米、欧州、豪州への移動、ネパール、バングラデシュからの流入は堅調だろう。

6.教育と識字
1990年代に7歳以上識字率大幅改善(52%→65%)、女子児童就学率20%改善(1993-99)などの進展があった。その背景には、①学校教育への需要増(貧困者数減、出生率低下、明るい経済見通し)、②学校教育の質的量的改善(分権化、全国学校教育改善プログラム(SSA)、para teacherの活用、私立学校の増加)等があったと考えられる。だが、人口増加が児童教育を難しくする。学校数を減らす州もあれば、学校数が足りない州もある。生徒1人当たり教育支出額の減、劣悪な学校施設、高い児童-教員比率、無味乾燥なカリキュラム、私立学校に通わせられる世帯がある一方で、劣悪な学校にしか通えない児童(貧困、社会階層、女子など)も依然多い。

7.雇用
1990年代は「雇用なき成長」。農業低迷、公共部門の予算削減、新興産業の低い雇用吸収、知的労働部門の高失業率により、成長はしたけれども雇用は伸びないという状況だった。また雇用の州間格差、雇用の劣化(非正規雇用、肉体労働)も見られた。しかし、未組織部門の労働生産性上昇や、肉体労働の実質賃金上昇も記録した。今後2026年までの25年間で、就労年齢人口1.5倍に増加する。しかし、雇用吸収が進まず、失業者数大幅増加が懸念される。

8.貧困
所得貧困は、3億人から減少見込み。しかし、広義の貧困でみた場合、出生率低下と教育普及は大きく改善するが、栄養摂取状況は僅かな改善にとどまり、環境悪化やHIV/AIDSから来る健康被害の問題は悪化することが予想される。農村vs都市、地域間、社会集団間の不平等、格差拡大も懸念される。高い貧困率、低い経済成長、高い人口増加率の間には相関関係が観察される。出生率のさらなる低下により、貧困状況緩和を図る必要がある。

9.経済
1990年代は、経済自由化により、年平均6%の成長を達成したが、政治的理由により一部改革は低迷し、輸出部門の低迷、人的資本とインフラ投資の不足が将来的な成長の足枷になりそう。高成長の南部、西部と、低成長のガンジス川流域諸州との間で州間経済格差が拡大する。電気、水道料金への補助金負担があって、州によっては医療・教育、環境保全、社会・経済投資への予算配分が困難なところもある。一方、「人口ボーナス」は経済成長を下支えする可能性がある。今後30年間、ボーナス活用のチャンスは継続する。

10.食料・農業
2026年までの穀物需要は2.5億トンが見込まれ、これは1ha当り3トン以上の穀物生産量が必要な計算となる。消費食料の多様化(野菜、果物、乳製品)が進み、都市近郊農家で作付シフトが起きている。現行の農業政策は持続可能性が低い。電気・水道料金は農家への負担となっている。小麦・コメ価格支持は今後削減、さらに農業補助金全般を削減し、貧困層にターゲットを絞り込む政策が必要だろう。例えば、ビハール州農家向け井戸掘削支援、半乾燥地域でのcoarse grainsやoilseed生産農家、食料配給支援等が考えられる。また、農民は国際競争に晒される。蔗糖生産は水を大量消費するため持続可能性が低い。野菜、果物、豆類の輸出可能性は拡大が見込まれる。食料需給状況はわずかながら改善見込みである。飢餓状態の人口は減るが、栄養不足状態の人口は依然存在するだろう。食肉消費は増加するが、1人当たり消費量は国際水準よりはるかに下。食料需給状況は年により大きく変動。地域間の格差も大きい。気候変動の影響が食料需給見込みを大きく左右することも懸念される。農業の直面する問題(特に水)は、扱いを誤ると何ら便益を生まない恐れがある。

11.環境
エネルギー消費は増加見込みだが、クリーンな技術の活用で、温室効果ガス排出拡大には必ずしも繋がらない。経済成長と環境保全は両立可能である。工業部門、運輸部門もクリーン技術の活用が可能。しかし、小規模事業者の取扱いが課題。政府は課税と補助金を駆使して適切なインセンティブを事業者に与えることが必要。

12.都市環境
廃棄物処理、上下水道、大気汚染の課題などを検討。制度的能力の欠如、人口圧力、経済成長が絡み合って都市環境への圧力に繋がっており、将来見通しも、人口動態、都市のガバナンスの行方に大きく左右され鵜。都市環境管理のベストプラクティスを如何に広めるか?

13.水
水需要は人口動態に最も影響を受ける。食料増産ニーズと関連して、農業用水需要増が顕著になってくる。しかし、利用可能な水資源は頭打ちで、如何に水資源利用効率を高めるかが課題となってくる。利用者に水使用を節約するインセンティブを与えるような需要サイドの政策や、汚染者への課税。小規模流域管理重視といった供給サイドの政策が要検討。巨大ダムは最後の手段。

14.共有資源
共有資源(CPR)は土地なし貧困層の重要な資産だが、徐々に減少。人口増加によるCPR需要増と、経済成長に伴う消費者選好の変化(CPR需要減)の2つの効果が考えられる。これまで、CPRは村落セーフティネット、生計手段として捉えられてきたが、今後は、より広い観点からのCPRに注目する必要がある。市場取引を通じた資源活用、生態系保全に向けたCPRの役割などである。資源管理の地方分権化、集合的行動・組織化といった政策は市場経済における個人取引の広がりと整合しない。CPR管理の概念再考と政策再形成が必要。

15.政策的含意
インドが他の低所得国に比べて遅れているのは、分析や政策立案面ではなく、実施面である。結論として、今後分野課題横断的にインドが取り組んでいかねばならない政策の含意として、次の4点が挙げられる。

①人口増加率の低下は恩恵をもたらす
リプロダクティブヘルスや家族計画のサービス拡充。北インドの貧困州支援に集中を。
②電気、水道料金への過剰な補助金を削減する
医療・教育、環境への投資のための財政措置の余地を作る。
③人口増加がもたらす最大の挑戦は水問題
政治的コミットメントに支えられた実施可能な戦略の策定を。
④経済成長と人口増加がもたらす環境への負の影響は、クリーンな技術の導入により中和可能
課税と補助金をうまく組み合わせる。

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時間がかかったけれど、取りあえず整理ができてほっとしている。

前々から思っているのだけれど、日本の政府開発援助(ODA)等で提唱されている国別アプローチでは、国別の援助計画を策定する際に、その国の向こう20~30年の人口動態の予測をして、その結果としてその国が今後どうなっていくのか、どのような問題に直面するのかを検討するような取組みは、実はあまり行なわれていないのではないかという気がする。ましてや、インドのような12億もの人口を抱える大国を、1つの経済として捉える分析の仕方は不十分で、どうしても地域別とか社会集団別とか、所得階層別とかでの分析が必要なのではないだろうか。

本書はそういう意味で、人口動態を1つの切り口としてその国の将来的な課題の包括的な整理を試みたもので、ここで挙げたような項目は、他の国を分析する際にも参考になるのではないかと思う。

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