携帯電話で農産品市況

携帯電話を使ってどこかの市場に自分の農産品を出荷するようなケータイの使い方はかなり有名な話である。特に、痛みが早い農産品、魚介類などはどこに売るのが有利かを瞬時に判断して市場に持ち込まなければならない。ケータイがあれば、幾つかのマーケットに電話をかけて、取引価格を確認することが可能だ。

だが、そこに1つの疑問がずっとあった。例えばケララの沖合で魚を獲っている漁民が皆一斉に各市場に電話していたら、かけられた方もかなわないのではないか。面倒臭くなってきたら適当な価格を教えられるかもしれないし、面識がある市場関係者ならともかく、面識もないような人に電話しても本当の価格を教えてもらえるとは思えない。そういう工夫を漁民がやってるとわかったら、実際の取引価格よりも安い価格情報を教えて、持って来させて後戻りできなくするという手段だって取り得る。

11月5日付Hindu紙第15面の「携帯電話は農民の生産物の適正価格を見つけるのに役立つ（Mobile helps find right price for farmers produce）」（M.J. Prabu）というヘッドラインを見つけた時も、どうせいつものケータイ賛美ストーリーだろうと思ったが、今さらそんな使い古された話が毎週目新しい情報で僕がいつも楽しみにしている「Farmer's Notebook」というコーナーで紹介されるとは思えない。だから読み始めた。

以下はその要約である。

１）農業セクターの大きな問題は、第1に投入価格をいかに引き下げるかであり、第2には適切なマーケティングである。この2つが揃わないと農民の経済状況はよくならない。果物や野菜を適切なタイミングで市場に出すことが農民にとって最も有利な価格を引き出すのに重要だ。しかし、多くの農民は毎日の市況を知らないし、度々中間業者の言いなりになるしかない。適正な価格に関する情報に乏しい小農は、農産物を自分で貯蔵しておくことができないため、中間業者に売るしか他に術がない。

２）タミルナドゥ農業大学（TNAU）は、普及教育部（Directorate of Extension Education）に「E-エクステンションセンター（e-Extension Centre）」を創設した。E-エクステンションセンターは、農民がこうした情報アクセスの問題を克服するのを支援するのを目的としており、州内の様々な作物の毎日の市況情報を農民に提供する業務を行なっている。

３）E-エクステンションセンターは、13の市場において毎日の農産品価格に関する情報を提供し続けている。13の農産品市場には、コーチン（ケララ州）、チェンナイ、コインバトール、オッタンチャトラム、ティルチー、ホスール、
クムバコナム、マドゥライ、メットゥパラヤム、パンルーティ、タライヴァサル、ティルネルヴェリ（以上タミルナドゥ州）、バンガロール（カルナタカ州）等が含まれる。これらの主要農産品市場では毎日、100トン以上の日持ちしない産品が取引されており、主に南部4州での足の速い農産品の流通に影響を与えている。

４）さらに、市場委員会（Market Committees）が設置され、各々の市場の市況をE-エクステンションセンターに情報送信してくるという機能を果たしている。13人の市場アナリストが各々の市場の近くに滞在し、毎日卸売業者と小売業者の双方から毎日の農産品取引価格に関する情報を集め、整理してTNAUに毎日午前11時までに送信する。取引価格は、毎日午後1時に更新がなされ、その価格情報はwww.agritech.tnau.acのサイトにおいて、英語とタミル語とで掲載されている。こうした市場アナリストの毎日の訪問は、取引業者の間での信頼関係の構築にも貢献する。それによって、適切な情報の入手にも繋がる。

５）しかし、村でコンピューターを使いこなせる農民は少ない。このため、携帯電話を使った情報アクセスも可能である。現在、約3,000人の農家と200人の科学者が、商品作物と市況に関する情報をSMSを使ってやり取りしている。

要するに、個人ベースでの情報アクセスではなく、集めた情報を取りまとめて農民が携帯でアクセスしやすい形で整理して配信するような公共サービスをTNAUが提供しているという話である。農民個々人では負えない費用やリスクを、大学が肩代わりして公共財として機能している。なるほどこれであれば農産品市場取引価格の情報は入手しやすくなるだろう。

実際の記事のURLはこちらからどうぞ！
http://www.hindu.com/seta/2009/11/05/stories/2009110551831300.htm