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『無理』 [奥田英朗]

無理

無理

  • 作者: 奥田 英朗
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/09/29
  • メディア: 単行本
内容紹介
人口12万人の寂れた地方都市・ゆめの。この地で鬱屈を抱えながら生きる5人の人間が陥った思いがけない事態を描く渾身の群像劇。

たまに一時帰国をしたりすると、その折にご贔屓の作家の新刊本を見つけたりする。本書は発刊したてのホヤホヤであり、成田空港の三省堂書店で「最後の悪あがき」をしていて平積みになっているのを発見した。543頁もある大作だが、飛行機に搭乗すると同時に読み始め、自宅に戻る直前に読了した。1日で読んだ頁数としては自己最多じゃないかと思う。

登場する主人公は5人―――。
◆弱者を主張する身勝手な市民に嫌気がさしてきるケースワーカー
◆東京の大学に進学し、この町を出ようと心に決めている高校2年生
◆暴走族上がりで詐欺まがいの商品を売りつけるセールスマン
◆スーパーの保安員をしながら新興宗教にすがる、孤独な48歳
◆もっと大きな仕事がしたいと、県議会に打って出る腹づもりの市議会議員

この5人のストーリーが同時に展開する。お互いに殆ど接点はないが、地方都市が舞台であり、否応なく所々でお互いの関係性が垣間見える。但し、この5人が同時にお互いに遭遇するのは最後のクライマックスシーンだけである。本書を読みながら、なんだか少し前に米国アカデミー賞を受賞した『Crash』という映画作品に似ているなと思った(この映画を観てない僕にはそう言う資格はないけれど)。

おそらく発刊間もないこの作品についてブログで書くのは僕が最初の部類に入るだろうと思うので、あまりここで内容紹介するとネタばらしになると思うのでこれ以上は控える。これだけ多くの登場人物を扱うとどうしても一部の人物が生かしきれないとう状況は生じてしまうのは仕方がないかなと思うが、クライマックスへ向けての読ませ方はなかなかのものだと感心する。

それでなくても、今の地方都市の実態をよく描いた作品だと思う。市の福祉事務所がやっている仕事っていうのもこんなもので、意外とこの登場人物や職場の同僚が話している言葉、生活保護を申請する側が話している言葉には本音が含まれているように思う。郊外大型店舗の出店とシャッター街の話、町おこしといっても地域に雇用機会がほとんどない現状、そしていつの間にか外国人労働者を大量に受け入れないと産業誘致も覚束ない状況、地域に残る若者は閉塞感に陥り、東京に出ることが半ば目的化するというあたりにも、地方都市のリアリティを感じる。そして、高齢化率が高いこうした地域で蔓延る高齢者を狙ったあこぎな商売、未婚・非婚或いは離婚による中高齢の独身女性の心の拠りどころとなりそうな新興宗教や、殆ど特定個人のカリスマ性に引っ張られているような地方の市民運動等も、多分そうだろうなと思わされるところがある。そういう意味ではとても面白い小説である。

タイトルである『無理』というのが何故付けられたのかについては少し考えてみなければならない。

奥田作品には、テーマとしてかなりシリアスで文体もかなりハードな感じを受けていても、どこかしら笑いを誘うようなユーモアも含まれていることが多い。伊良部一郎シリーズもそうであるが、奥田英朗は登場人物をのっぴきならない状況に追い詰めて追い詰めて、最後に一発逆転ですんなり丸く収まるという展開のストーリーをよく描いているような気がする。本作品でも、主人公の一人一人をこれでもかこれでもかと苦境に陥れてゆく。どうあっても現状打開が「無理」な状況に登場人物を追い詰めていくということを以て『無理』というタイトルにしたのかな、と僕は勝手に想像した。

現状打開できるクライマックスがちゃんと用意されているという点で、イッキ読みさせてくれる作家だ。
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コメント 1

カオリ

今、プチ奥田英朗ブーム中なので、「無理」は読みたくてしかたありません。図書館で予約を入れたら100番目。予約開始当日だったのに・・・。買ってしまおうかどうか迷ってます。
by カオリ (2009-10-12 01:49) 

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